いわゆる「裏金問題」で党を追われるも、無所属で衆院選を2度勝ち抜いた世耕弘成氏。その実績をもって自民党への復党を目指す世耕氏ですが、事は簡単に進まないのが現状のようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、世耕氏の党復帰を阻む和歌山県内の政治的対立や参院自民党の力学を分析。さらに高市首相が復党を後押ししきれない事情にも目を向け、かつての参院トップが描いた「復帰のシナリオ」に生じた誤算を明らかにしています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:世耕弘成・復党シナリオの誤算
絵に描いた餅に終わるのか。世耕弘成「復党シナリオ」の誤算
無所属の衆院議員、世耕弘成氏はいま、高市首相を持ち上げることに専念している。10月2日、Xに投稿した動画で、現在編成作業中の来年度予算の内容を称賛した。
安倍内閣でもできなかった革命的な取り組みを高市総理のリーダーシップで実行中です。
【革命的予算編成】 この秋、高市早苗首相が掲げる「強い経済」実現の具体化に向け今まさに革命的な予算編成が動き出しています。 「革命的」とまで言われる今回の予算編成、一体今までと何が違い、そしてどういう日本になっていくのか。 世耕弘成が分かり易く解説いたします。 #だから世耕 #高市内閣 #予算
— 世耕弘成 Hiroshige SEKO (@SekoHiroshige) October 2, 2026
世耕氏にとって、安倍晋三元首相ゆずりの積極財政で気脈を通じる高市首相が頼みの綱である。首相の一声で復党を果たし、もう一度、権力レースの表舞台に立ちたいのだ。
政治資金パーティー収入の不記載、いわゆる“裏金事件”で安倍派は解散し、かつて「五人衆」とうたわれた実力者たちの命運は分かれた。松野博一氏は組織運動本部長、西村康稔氏は選挙対策委員長、萩生田光一氏は幹事長代行。彼らは、かろうじて党の役職をつとめている。その一方、高木毅氏は落選後に政界を去り、勧告を受けて離党した世耕氏は復党のための“運動中”だ。
無所属で立候補しても、2度の衆院選に連勝した。きっとこの実力を認め、党は受け入れてくれるはず。世耕氏の思い描いた「復党シナリオ」はいまのところ、壁にぶち当たっている。今年5月28日に復党願を党本部に提出し、その審査のための自民党の党紀委員会が8月6日と10月15日の2回にわたって開かれたが、いずれの会合でも結論が持ち越された。
党紀委員会は衆参の議員や元議員、有識者の計18人で構成される。現在の委員長は浅尾慶一郎氏だが、野党歴が長く、それほど委員会メンバーにグリップがきくわけではない。
そのためか、「復党容認」の方向でまとめようという気配もなく、10月15日の会合では松山政司氏と宮澤洋一氏が復党に賛成、野田聖子氏、上川陽子氏、稲田朋美氏らが「時期尚早」と表明するなど、意見のばらつきが目立った。
浅尾委員長は審査後、記者団に「出席者の意見が『復党容認』と『時期尚早』に分かれた」と説明、結論を先延ばしにする方針を示した。高市首相の意向が世耕氏復党に傾いているのだとしたら、このように悠長な姿勢をとらないだろう。
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「総裁選出馬」にこだわり過ぎ自民党から追い出される羽目に
世耕氏の復党をめぐっては、高市首相が強く期待していたという報道が見受けられた。昨秋の総裁選で、党外にありながら旧安倍派の参院議員に働きかけ、高市支持票を取りまとめてくれた恩義もあり、9月の党役員人事・内閣改造で、官房長官など要職に起用するのではという憶測も飛び交うほどだった。
その背景にあったのは、党内の警戒感だ。少数与党の参院で、あえて野党とのパイプを誇る石井準一氏を参院幹事長の座から追いやった高市氏が、参院対策の切り札として世耕氏の復活を望んでいるとしたら、まさにそれは今の参院自民党に風穴をあける動きだ。反発の声がさざ波のように広がった。
2023年10月、世耕氏は参院本会議の代表質問で、当時の岸田首相に対し、得意満面にリーダーのあるべき姿を説いた。
私が考えるリーダー像は、決断し、その内容をわかりやすい言葉で伝えて、結果について責任を取るという姿です。
岸田首相に自説を滔々と語り聞かせる姿は、あたかも自分こそが総理にふさわしいと言わんばかりだった。
世耕氏は「政治家である以上、トップを目指していきたい」とメディアに語り、政権奪取への野望を隠そうとしなかった。
だが、前途には大きな壁が立ちはだかっていた。地元・和歌山に君臨する二階俊博元幹事長という存在だ。世耕氏が総理への道を切り開くため衆院への鞍替えをめざしていたが、区割り変更で和歌山県の衆院小選挙区が3区から2区に減少。しかも、世耕氏が出馬をもくろむ新2区は大部分が二階氏の地盤である。世耕氏の衆院進出を阻止するため、後継者が決まるまでは二階氏自身が議席を守り続ける姿勢を見せていた。
そこに、異変が起きた。派閥パーティー券の販売をめぐる裏金事件の発覚だ。世耕氏の政治団体では2018年からの5年間に計1,542万円の不記載が判明し、24年4月に離党勧告処分を受けた。「離党勧告」は「除名」に次ぐ2番目に厳しい処分だ。たしかに参院のトップとしての責任は重い。世耕氏は離党に追い込まれた。
二階氏も裏金事件にからんでいた。不記載額が3,526万円にのぼり、東京地検特捜部に自身の秘書と二階派の元会計責任者が立件された。
その二階氏が24年3月25日、次の衆院選には出馬しないと表明した時、筆者は「岸田首相と取引したのではないか」と当メルマガに書いた。
二階氏を党が処分すれば、宏池会の会長だった岸田首相自身も、処分を免れるわけにはいかなくなる。宏池会の元会計責任者の有罪が確定していたからだ。二階氏だって、離党勧告だの党員資格停止だの、晩節を汚すようなレッテルをはられたくはない。
二階氏が自ら身を引き、岸田首相は処分を見送る。そして、次期衆院選の公認候補選定は二階氏の意思を尊重する。誰かが仲に立って、そのように話をまとめ、あの二階氏の記者会見をプロデュースした。世耕氏はその取引の犠牲になって、離党勧告処分を食らったのではないか、と。
世耕氏は自民党の参院幹事長として強い影響力を誇っていた。かつての青木幹雄氏のように、世耕氏が参院のドンとして長く君臨する道を選ぼうと思えば、できなくはなかったかもしれない。衆院へ鞍替えして総裁選に出馬するという野心にこだわり過ぎたために、岸田首相からも、二階元幹事長からも疎まれ、とうとう自民党から追い出される羽目になってしまった。
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もともと人徳や器量で上に立っていたわけではない世耕氏の行く末
世耕氏は離党後、24年10月の衆院和歌山2区に立候補、二階氏の三男、伸康氏に約3万票の差をつけて制した。26年2月の衆院選では、自民党が公認候補を立てず、世耕氏の支持を表明したため、楽々と勝利が転がり込んだ。
それでもまだ「世耕王国」は築けていない。二階陣営との対立関係はいまだにくすぶっている。
自民党和歌山県連は今年6月の拡大委員会で、参加者約100人に対して、世耕氏復党をめぐる意識調査を無記名で実施した。その結果報告を見た党紀委員会の浅尾委員長は「賛成多数と記されているのみで、ぜひ(復党を)お願いしたいといった内容は付されていなかった」と語っている。県連に世耕復党への熱量は感じられないということのようだ。
世耕氏と二階氏の側近である鶴保庸介氏の“新・紀州戦争”もクローズアップされた。25年7月の参院選には、鶴保氏が支援する二階氏の三男・伸康氏が前年衆院選の雪辱を期して出馬したが、落選。世耕氏が推す望月良男前有田市長が当選した。二度にわたって伸康氏を蹴落とした世耕氏に対し、二階氏の影響力が残る県南部の地方議員たちの怒りはいまもおさまっていない。
世耕氏が党を去った後、野党や無所属議員との間で培った人脈を生かして参院を牛耳ってきたのが石井準一氏だった。少数与党の参院において、野党と話ができるその存在は自民党の国会運営にとってきわめて貴重だったはずだ。
ところが、2026年度予算案を年度内成立させようと躍起になっていた高市首相は、自らが決行した解散・総選挙で審議入りが遅れたことを棚に上げ、4月7日に成立がずれ込んだ責任を石井氏に転嫁し、9月の党人事で参院幹事長の座から追いやった。
しかし、石井氏は参院自民党で40人をこえるグループ「自由民主党参議院クラブ」を率いており、いぜんとして「参院のドン」といわれる影響力を保っている。
その石井氏が、かつての「ドン」の復活を望むはずがない。世耕氏は自民公認候補と争うなど事実上の「反党行為」をしてきたと指摘し、「時期尚早。非常に自分勝手な判断だ」と復党への動きを批判している。
こうした党内の空気感が、党紀委員会の判断に影響している面は否めない。もともと世耕氏は人徳や器量で上に立っていたわけではない。参院幹事長というポストを盾に幅を利かせていたのであって、それだけに恨みを持つ議員も少なからずいた。
お気に入りを年次や派閥に関係なく閣僚に迎え入れる独断専行型の高市首相をもってしても、裏金事件で離党し衆院への鞍替え出馬をめぐって党内の反発を買っている世耕氏の復党を党紀委にごり押しすることはできなかったということか。党内にハレーションを起こし、来年の総裁選に波及することのないよう、安全策をとったとも考えられる。
世耕氏はNTT時代に身につけた広報宣伝技術の高さを誇り、安倍元首相から参謀役として重宝されてきた。たしかに理路整然として有能だが、小賢しさが勝ちすぎるのが災いし、嫌われやすい弱点がある。
内閣広報室の来年度予算を今年度の10倍にも増やそうとしている高市首相が、安倍元首相にならって世耕氏を重用するつもりがあるのかどうか。そのあたりが、世耕氏の今後を左右しそうだ。
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