学校におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の義務化を受け、いじめの相談に訪れた保護者が「カスハラ扱いされた」と訴えるケースが相次いでいます。メルマガ『阿部泰尚メルマガ「伝説の探偵」』の著者で、現役探偵なうえ「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが文部科学省の指針と実際の相談事例をもとに、カスハラ対策の運用に潜む問題点や、いじめに苦しむ子どもたちへの影響について考察します。
文科省「カスハラ指針」の施行後、いじめを相談しようとした保護者70人超え、「カスハラ扱いをされた」と相談してきた件
10月1日、学校におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)の防止措置が義務化された。
それ以降、いじめ相談ダイヤルとメールフォームに、ある相談が相次いでいる。
実は私はまさかな・・・と思いつつ、地方教育行政の事例から起きるであろうと最悪の事態を予測していた。
それは何か?
「いじめを相談しようとしたら、カスハラ扱いされた」
10月1日から10月22日までに、同様の類似相談は72件に達した。
ハッキリ言うが、これ以外のいじめ相談もあるから、20年以上やってきて10月期最大の相談数となった。
聞き取れた範囲の内訳は次のとおりである。まだ全員から聞き取れておらず、数字はこれから増える見込みである。複数に該当する相談があるため、合計は72件にならない。
- 電話での問い合わせや相談ができない:45件
- 書面でのやり取りを希望したところ、それ自体がカスハラだと指摘された:33件
- 面談に行くと4人の教職員(担任・教頭・学年主任・生活指導担当など)が出てきた:13件
- 保護者が自分も録音しようとしたところ、拒絶された:29件
- 面談の前に、荷物検査を受けた:3件
- 担任などの教員がいじめに加担、または放置していた事案:4件
具体的には、次のような訴えである。
- 電話では相談できないと言われる。
- 直接面談を求めると、面談日までには時間がかかると言われる。
- 面談に行くと、担任、教頭、学年主任、生活指導担当などの4人が出てくる。録音され、時間はタイマーで30分。ほとんど話せなかった。
- 書面でのやり取りを希望すると、それはカスハラに当たると指摘された。
- 保護者が自分も録音しようとすると、「録音するなら話はここまでです」と拒絶された。
はたして、文科省の指針は、これを求めているのだろうか。
「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」指針(令和8年8月、以下「指針」という。) 本文を読み直した。
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録音は、片側にしか認められていないのか?
指針が対象とする言動の類型に挙げているのは、「無断で」の撮影・録画・録音である。
一方で、学校側には「相手に断りを入れた上で録音」することを勧めている。
つまり、禁じられているのは「無断」であって、録音そのものではない。
保護者が断りを入れて録音を求めた場合に、拒否してよいとは、本文のどこにも書かれていない。
一方で、無断で録音というのは、いわゆる「秘密録音」ということになるが、これを認める最高裁判決がある。
最高裁の判断(平成12年7月12日・第二小法廷・決定)
事案は詐欺被告事件である。詐欺の被害を受けたと考えた人が、相手の説明に不審を抱き、後日の証拠にするため、相手の同意を得ないで会話を録音していた。
最高裁は、こうした場合の録音は、「たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく」、その録音テープの証拠能力を争う主張は理由がない、とした(裁判官全員一致。刑集54巻6号513頁)。
つまり、相手の同意なしの録音でも、「後日の証拠にするため」であれば、違法とはされなかった。
ただし、これは刑事事件の決定であり、判断は「このような場合」に限られている。学校との面談に、そのまま当てはまると断定はできない。
しかし、「後で事実を確かめるために、当事者が会話を録音する」ことを、最高裁が違法でないと認めた事実は重い。ましてや70件以上の相談で確認できたケースでは、保護者は、無断ではなく、断りを入れて録音を求めている。
その場合の回答は、「拒絶」「話のうちきり勧告」「突っ込んだ話ができなくなる」という注意であった。
一方で、学校側は録音する。保護者は録音できない。この非対称が、29件の訴えに共通している。
話した内容は、残らなければ、なかったことにされる。実際に、これまでの事例では、録音があったから証明できたものやことが、ほぼ全ての事例で確認することができる。
そして、その半数以上が無断録音、つまり秘密録音であった。
後日報道では、「公開目的の録音や録画は禁止」ということになったようだが、そもそも、誰も公開してやろうと思って録音はしていない。録音時点で、公開するかどうかはほぼ未定であろうし、それを証明する術はない。
文科省のカスハラ対策における録音規制は、非対称であり、あまりにも行き過ぎたものではないか。当然、スキャンダル的な内容がSNSに出ることは不都合であろうが、それが切り取られた編集物で、でっち上げではない限り、確かに起きた事実である。
事実をひた隠し、告発したものを裁く、これではまるで、自浄能力を喪失した構造的隠蔽体制、すなわち「ならず者行政」としか言いようが無い。
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時間・人数・書面は、指針に想定されているか?
30分の面談設定や、2人以上での対応は、東京都のガイドラインの例として載っている。ただし、それは「社会通念を超える要望があった場合」の対応フローである。最初の相談の段階から使ってよいとは、書かれていない。書面を希望しただけでカスハラとする記述も、本文にはない。
指針には、こう書いている。
- 意見・苦情等の全てが対象の言動に該当するわけではない
- 社会通念上許容される範囲で行われる正当な申入れは、対象には当たらない
- 当事者の主観だけでは判断しない
そして、指針は 「正当な申入れは対象外」 と言う。
しかし、ここで1つの疑問が生じる。 「正当かどうかを、誰が判断」 するのか、である。
本文は、判断の主体を明記していない。読み取れるのは、次の運用だけであるが、各記載で判断すれば、それは学校の設置者もしくは学校である箏がわかるのだ。
- 措置を取るのは学校管理職。判断に迷えば、学校設置者に相談する。
- 対象となる言動の認識は、学校設置者を含む組織全体で共有する。
つまり、対応をする学校自身がカスハラかどうか判断するということになる。
されに、 基準も、明確ではない。 示されているのは、言動の目的、経緯、態様、頻度、継続性、教職員の心身の状況、関係性を「総合的に考慮」する、ということだけである。
指針本文には「個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得る」と書いている。
これでは一方的にカスハラとされた保護者は、その段階で正当ないじめ対応を求めていても、一切が闇に葬られることになる。やりたい放題ということだ。
担任の交代を求めた瞬間に、カスハラになった
教員がいじめに加担、または放置していたとする相談が、今回の相談の中で4件あった。
そのうちの一つは、こうである。
担任がいじめを放置していた。特定の子(我が子)を差別し、いじめを誘発していた、と保護者は訴えている。
保護者は、まず調査を要請した。声を荒げず、荒い言葉は使わず慎重に話を進めようとした。一方、校長らは、他の保護者からのクレームなどで、すでに事態を把握していた。学校が実施したいじめアンケートには、複数の児童が回答していたという話をその話で聞いたそうだ。
そうであれば、となって、保護者が担任の責任の明確化と交代を求めた、その瞬間に、学校の対応はカスハラ対応に切り替わったという。
文科省の指針には、担任の交代を求める保護者の事例がある。そこでの判断は、こうである。
「担任の指導に納得がいかないという訴えだけでは、社会通念上許容される範囲を超えた言動には当たらない」
問題とされているのは、怒鳴ることと、執拗に電話をかけることだけである。
この事案に、そのどちらもない。それでもカスハラ対応に切り替わった。
しかも、認定したのは、問題の担任を抱える学校自身である。
指針は、学校側の不適切な対応が言動の原因や背景になっている場合があることに留意するよう求めている。しかし、その場合に誰が判断するのかは、書かれていない。
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カスハラ認定されても、救済がない
指針の本文を何度も何度も読んだ。AIにも調べさせた。
「不服」「救済」「異議」といった語は、1回も出てこない。認定の理由を保護者に説明する手続きも、見直しの手続きも、書かれていない。
「第三者」が出てくるのは2か所だが、どちらも学校側の手続きである。東京都の例で、5回目以降に弁護士が「第三者的な場」への相談を打診するというもの。確認が困難な場合に中立的な第三者を介して対話を進めるというもの。のみだ。
一方で、認定された側に起こりうることは、書かれている。警告文の送付、文書でのやり取りへの切替え、出入禁止、弁護士による代理対応など、正当な申入れが、誤ってカスハラと認定されたとき、どうやって取り消すのか。その道筋は、指針にない。
いじめを知らせた保護者が、相談先を失ったままになる。これはとてつもなく恐ろしい事なのだ。
実は、こうなることを私に告げていた人が複数いる。いずれも、とても偉い人だ。
面談の前に、荷物検査
面談の前に荷物検査を受けた人が今確認できる範囲で3人いた。
指針の本文を調べたが、来校した保護者への荷物検査を定めた記述は見つからなかった。暴力や脅迫への対応(身体的な攻撃の類型)は書かれているが、それは行為があった場合の対応である。
調べた教員は、いずれも「スマートフォン」「録音機」などをカバンに隠し持っていないか調べたそうだ。
相談に訪れた段階で、保護者を「危険な人物かもしれない」として扱う運用は、指針から読み取れる範囲を超えている。録音機器の持ち込みを防ぐ目的だとすれば、なおさら問題である。
カスハラ対策は、必要である。教職員を守ることにも、異論はない。
問題は、次の3つが空白のまま運用が始まったことである。
1. 誰が判断するのか
2. 何を基準にするのか
3. 間違ったときの救済はあるのか
そのしわ寄せが、いじめに悩む保護者のみならず、本来であれば守られるべき児童や生徒、子どもたちに来ていると言えるだろう。
なんとか作って魂入れず。この対策には魂がないと言っても過言ではないだろう。
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