MAG2 NEWS MENU

渡辺満里奈、歌手デビュー40周年を機に振り返る大滝詠一さんとの『Ring-a-Bell』秘話、影響を受けたシティポップ、そして12月 恵比寿ライブへの特別な思い

今から40年前の1986年10月8日、シングルレコード『深呼吸して』でソロデビューを果たした歌手・タレントの渡辺満里奈さん。おニャン子クラブの一員として芸能界デビュー&ソロ歌手デビュー40周年を迎えた今年は、ビルボードライブ大阪・東京、そして12月22日の恵比寿 The Garden Hallでの記念ライブと、歌手として充実した一年を過ごしています。近年は、シティポップの再評価の流れで、デビューから90年代までのオリジナルアルバムが国内外から注目を集めるようになりました。MAG2 NEWSでは今回、そんな渡辺満里奈さんへの単独インタビューをおこない、デビュー当時の記憶や、アルバム『Ring-a-Bell』での大滝詠一さんとの交流秘話、影響を受けた音楽、そして40周年記念を締めくくる東京・恵比寿での12月22日のライブへの意気込みまで、たっぷりと語っていただきました。(取材・文/都鳥流星)

渡辺満里奈が明かす、何もかも目まぐるしかったデビュー当時

──この度は、デビュー40周年おめでとうございます。12月22日に恵比寿 The Garden Hallでライブが開催されますが、その前にはビルボードライブの大阪、東京公演もあり、恵比寿が年内最後のライブですね。今日はそのご紹介も含めて、いろいろとお話をうかがいたいと思います。芸能界デビュー40周年ということで、歌手としても1986年のソロデビューですよね。

渡辺満里奈(以下、満里奈):そうです。1986年の4月におニャン子クラブに入って、10月8日に『深呼吸して』でソロデビューをしました。

デビューシングル『深呼吸して』(1986、エピックソニー)作詞:秋元康、作曲:山本はるきち、編曲:新川博

──その後は、オリコン1位がシングル4作連続で続きました。初めてソロを出した当時のことは覚えていますか。

満里奈:おニャン子クラブに入ってからは怒涛のような毎日で、それまでとはまったく違う生活の中、ずっと緊張していました。とにかくやることがたくさんあったんです。番組に出て、たくさんの取材を受けて、レコーディングをして、海外へ撮影にも行きました。そんな目まぐるしい中で、ソロデビューのお話をいただいて、いろんなことが決まっていったという感じでした。

初めてレコーディングをしたのは7月だったと思います。ロサンゼルスとサンフランシスコでビデオ撮影があり、おニャン子クラブのレコーディングとは別に、ソロ曲のレコーディングもロサンゼルスでおこなったんです。

──いきなりデビュー曲がLA録音だったんですね。

満里奈:そうなんです。でも、いいも悪いもわからなくて、いただいたものを歌うという感じでした。

──大忙しの活動の一部として、歌のレコーディングもあったという感じだったと。

満里奈:ただ、レコード会社がエピックソニーに決まった段階で、どんな路線でやっていくかについては、事前にお話をしていました。当時は、竹内まりやさんや須藤薫さんのアルバムを「こういうのを聴いておいてね」と渡されて。カレッジポップスや当時でいうニューミュージック的な路線で行く、ということでした。そんなときにいただいたのがデビュー曲の『深呼吸して』だったんです。

──第2弾、第3弾と曲が続く中で、ご自身で歌手としての自覚が芽生えていく感じだったのでしょうか。

満里奈:しばらくは受け身でしたが、路線が他の人とは違うなという感覚はありました。おニャン子クラブのメンバーのソロ作品は、後藤次利さんに曲を書いていただくのが流れのようになっていましたが、私は明らかに路線が違いました。私自身も音楽が好きでしたから「あ、こういうふうにやっていくんだな」という自覚はあったと思います。

1stアルバム『MARINA』(1987、エピックソニー)


シティポップの原点と、豪華な参加ミュージシャンたち

──満里奈さんと言えば、アイドル界きっての音楽好きとしても知られています。影響を受けた音楽の原点として『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』の話をよくされていますよね。リスナーとして聴いていて、「こういう曲を歌えたら」という思いもあったのでしょうか。

満里奈:「歌えたら」というより、単純にすごく好きだったんです。80年代の初めに、『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』や山下達郎さんの『FOR YOU』に入っている「SPARKLE」、サザンオールスターズのアルバムなどが大好きでした。もちろん歌謡曲も好きでしたが、2つ上の姉の影響も大きくて、姉が買ってきたレコードを一緒に聴いたりしていました。ただ、自分がそういった曲を歌うことは、まったく考えたことがありませんでした。

──リスナーとして、最近でいうシティポップを自然に聴いていたんですね。

満里奈:流行っていましたし、そういう時代でしたからね。

──その後、ソロアルバムを重ねる中で、アレンジャーで作曲家の山川恵津子さんがほぼ全面的にアレンジを手がけたアルバムも出ました。シティポップ的な、いま再評価されている路線がアルバム全体に入ってくるようになりましたが、歌いながら「自分は他のメンバーとは違う曲をやっているな」と感じていましたか。

2ndシングル『ホワイトラビットからのメッセージ』(1987、エピックソニー)作詞:秋元康、作曲・編曲:山川恵津子

満里奈:明らかにありました。他のおニャン子のメンバーとは違うなと。

──参加されているミュージシャンも、青山純さんや伊藤広規さん、今剛さん、松原正樹さん、井上鑑さん、新川博さん、高水健司さん、山木秀夫さん、武部聡志さん、島健さん、土方隆行さんなど凄腕の方ばかりでしたね。

満里奈:当時の私は、演奏されている方々のことはわかっていませんでした。でも、昔のレコードのアルバムにはミュージシャンのクレジットがずらっと載っていたので、それを見て「この人、よく見るな」「ここでも、あそこでも見るな」とは思っていました。

──「マリーナの夏」など、いま聴いても本当にいい曲ですよね。回を重ねるごとに音楽的にどんどん洗練されてゆき、満里奈さんご自身が作詞をした曲もありました。音楽活動への思いは変わっていきましたか。

3rdシングル『マリーナの夏』(1987、エピックソニー)作詞:秋元康、作曲:岸正之、編曲:山川恵津子

満里奈:何枚かアルバムを出すうちに、自分の好きなものがはっきりしてきました。「このアーティストに曲を書いてほしい」「こういう歌を歌いたい」という気持ちも出てきて。最初にお願いしたのは大江千里さん(シングル『ちいさなBreakin’ my heart』1987、エピックソニー。作詞・作曲:大江千里、編曲:清水信之)、あとシンガーソングライターの鈴木祥子さん(シングル『胸がいっぱい』1989、EPIC/SONY RECORDS。作詞:戸沢暢美、作曲:鈴木祥子、編曲:清水信之、コーラスアレンジ:佐橋佳幸)などでした。それから、世界観がポエティックで素敵だなと思っていた方にも曲を書いていただいたりして、「こうしたい」という思いがだんだん強くなっていった感じですね。

──最初は受け身だったのが、歌手としての自覚が出てきたんですね。

満里奈:音楽って、本当に楽しいんです。自分が大好きだということもありますが、歌ったり、コンサートをしたり、反応をいただけたりすることが何よりも楽しかったんですね。

──近年は、海外の方が日本のシティポップに注目していて、たとえば満里奈さんが作詞もされている「Be With You」(アルバム『A piece of cake!』1990、EPIC/SONY RECORDS所収)という曲は、ドラムが青山純さん、ベースが伊藤広規さんという、山下達郎さんや竹内まりやさんの「黄金リズム隊」なんですよ。キーボードと編曲は新川博さんで、この3人は、もともと「マジカル・シティー」というバンドを、作曲家の故・滝沢洋一さんのバックバンドとして組んでいました。その3人が全員参加しているレアな曲なんですよね。

満里奈:これって、単純にすごいことですよね。こういうメンバーを集めているのって、当時のディレクターの方の趣味だったんでしょうかね。

──編曲が新川博さんなので、気心の知れたバンドの元メンバーを呼んだのではないかと思います。いま配信で聴くと、本当にいい音なんですよね。改めて、満里奈さんの曲やアルバムには、再評価されるべきものがたくさんあると感じています。

満里奈:ありがとうございます。思いも寄らない角度から聴いてくださる方がいて、世代も国も関係なく聴いてくださる。すごい時代だなと改めて思います。

──私は最近、その作曲家の故・滝沢洋一さんのご自宅から見つかったテープの音源をデジタル化して、歌のない曲に歌詞を新たに作詞し、バンド演奏&現代の歌手に歌わせるというプロジェクト「ヨヲイチスキヲ」を進めています。滝沢さんはHi-Fi Setに「メモランダム」という曲を提供してヒット賞も受賞している方なんですが、レコード会社に採用されなかった未発表曲が50曲近くもありまして、これを現代に復活させようとしています。このプロジェクトは、11月21日にクローフィッシュ赤坂での初ライブ開催まで漕ぎ着けました。今後もし機会があれば、彼らとご縁のある満里奈さんにもマジカル・シティーの作り上げたシティポップを歌っていただきたいですね。

満里奈:多岐にわたるご活躍、すごいですね。もし機会があればぜひお声がけください。

大滝詠一さんとの出会いと『Ring-a-Bell』の思い出

──さて、そんな満里奈さんの再評価の最たるものが、大滝詠一さんとのお仕事ではないでしょうか。今年3月21日のナイアガラ記念日に、1996年のミニアルバム『Ring-a-Bell』の30周年版が出ましたね。まず、「うれしい予感」のCDシングル(1995年2月22日、)が、アニメ『ちびまる子ちゃん』(CX系)のOPテーマ曲として発売されました。この曲もドラムは青山純さんですね。大滝さんの曲を歌うというお話は、最初から「ちびまる子ちゃん」のOPを歌うというお話から始まったのですか。

満里奈:そうです。すでに作詞作曲は出来上がっていて、ボーカルをどうしようかという段階で、なぜか私にお声がけをいただいたんです。「えっ?」という、青天の霹靂のような感じでした。その頃はあまり音楽活動をしていなかったので、なぜ私に声がかかったのか、本当に不思議でした(註:最後のオリジナル・アルバムは1991年の『mood moonish』)。

──1991年頃までアルバムを出していて、そこから95年までしばらく空いていた、ちょうどその時期ですよね。さくらももこさんはもともと大滝さんのファンですが、この曲を誰に歌ってもらおうかとなったときに、やはり大滝さんのファンである満里奈さんが選ばれたということですよね。満里奈さんが大滝さんのことを好きだというのも、どこかで伝わっていたのでしょうか。

満里奈:私は大滝さんが好きなこともあって、二十代前半の頃から大滝さんのいた「はっぴいえんど」などを遡って聴いていました。当時は、URCのレコードをはじめ、70年代の日本のロックやユーミンさんなどの昔の作品が、CDでたくさん再発された時期だったんです。私はそれらのアルバムがすごく好きでずっと聴いていました。はっぴいえんどはアナログ盤も持っていて、あるテレビ番組で『風街ろまん』のアルバムを持ってきて「これが好きなんです」と話したことがあったんですよ。昔は、自分の好きなものを紹介するというテレビ番組がよくありましたから。そこでカメラに向かって「大滝さん、見てますか?」というようなことを言ったのを、たまたま大滝さんご自身がご覧になっていたそうなんです。音楽評論家の能地祐子さん萩原健太さんご夫婦がおっしゃるには、どうもそういうことらしいんです。

──それはすごい。大滝さんの家には、全チャンネルがいつでも見られるように、たくさんのテレビモニターが積んで置いてあるという都市伝説がありましたよね。

満里奈:そうそう。そこで目にして「この子は誰?」となったとおっしゃっていました。でも、大滝さんは歌唱力云々よりも「ご縁」というものをとても大切にされる方でした。そのつながりを見逃さないでいてくださったことが、一番のご縁だったのかなと思います。

今回、東京・恵比寿で12月22日にある40周年記念ライブでベースを弾いてくれるバンマスの堂島孝平くんも、大滝さんのことが大好きで、佐野元春さんや杉真理さんにはとてもかわいがっていただいているのに、大滝さんには最後まで会えなかったという話を昨日していたんです。大滝さんのカバーをしたときには、萩原健太さん経由で「よくやった」と言っていたというメールが来たそうですし、「『ナイアガラ・トライアングル Vol.3』をやりたい」という思いも、大滝さんに伝えてもらっていたそうです。大滝さんはもちろん認識してくださっていたのに、最後まで会えなかったと言うんですね。そう思うと、私と大滝さんの「ご縁」ってすごいなと思います。

──本当に、そのとき大滝さんが気づかなければ、ということですよね。ところで、今回の『Ring-a-Bell』30周年版のCDには、1992年のライブ音源「それはぼくぢゃないよ」(1992.09.14@渋谷CLUB QUATTRO)がボーナストラックとして収録されています。大滝さんが『ファースト(アルバム『大瀧詠一』1972年、ベルウッド)』で歌っていた曲ですが、あれはどういう経緯で歌われたのでしょうか。

満里奈:当時は、本当に音楽が大好きでいろいろなレコードを掘っていた時代だったんですが、その時期に渋谷 CLUB QUATTROやON AIRなどのイベントにちょこちょこ出させていただいていました。その頃の私は、自分の曲というより、自分の好きな曲を歌いたいという気持ちが強かったんです。そんな中、大滝さんの『ファースト』がとても好きで、そういういろいろな歌を歌っていた中の一曲が「それはぼくぢゃないよ」でした。それが、なぜか音源として残っていて、すごくびっくりしました。「そんなの残ってることある?」と思いました(笑)。

──それが今回、ボーナストラックとして収録されるというのは、ある意味で奇跡ですよね。1996年版の『Ring-a-Bell』にも入っていた、金延幸子さんの曲「あなたから遠くへ」もお好きだったから歌ったということですか。それとも、大滝さんからのオーダーだったんでしょうか。

満里奈:いろいろ聴いている中で、金延幸子さんのアルバム『み空』(1972、URCレコード)がとても好きだったんです。そして、その中の「あなたから遠くへ」を歌いたいと大滝さんにお伝えしました。いま思うと、本当に無謀ですよね(笑)。その頃のカバー曲って「本家を凌駕しなければならないもの」という感じでした。大滝さんからは「自分の色を出すとか、好きだから歌うとか、そういうものじゃないんだよ」と言われたのをよく覚えています。そして「あなたにできるんですか?」とも言われましたが、それでも「歌いたいです」とお願いしたんだと思います。

──いい曲ですよね。私も『み空』がCDで再発されたときに聴いて、昔にこんな曲があったのかと衝撃を受けました。このアルバムは海外でも評価が高いそうですね。この曲を満里奈さんが大滝さんプロデュースの自身のミニアルバムに入れたということは、よほどの思い入れがないとできないことだと思います。

満里奈:そうですね、これもライブなどで歌っていた曲で、ぜひアルバムに入れたい!という気持ちがありました。

──そういえば、シングルCD「うれしい予感」のc/w(カップリング)、植木等さんが歌う「針切じいさんのロケン・ロール」(当時のアニメ「ちびまる子ちゃん」ED)でコーラスにも参加されていますね。あれも大滝さんからの要請があったのでしょうか。

満里奈:植木等さんが歌われると聞いて、クレイジーキャッツのことも大好きだったので、レコーディングを見に行かせてくださいとお願いしたんです。そのときにお邪魔して、植木さんと一緒に写真も撮っていただきました(笑)。

──その後、大滝さんがプロデュースした植木さんのアルバム『植木等的音楽』(1995、ファンハウス)の一曲「FUN×4」で「散歩しない?」というセリフだけ、満里奈さんが入れていますよね。もともとロンバケ(大滝詠一『A LONG VACATION』)のオリジナル曲では太田裕美さんが言っていたセリフとしてナイアガラファンには有名ですが、あれも大滝さんから急に頼まれたのですか。

満里奈:そうですね。『Ring-a-Bell』のレコーディングが並行していたのか、植木さんの方が先だったのか、ちょっと覚えていませんが、当時は大滝さんとお会いする機会が多かったので、その中で「このフレーズをやってみない?」と言われたんです。おそらく一発でOKだったと思います。何回もやるようなものでもありませんしね(笑)。

──大滝さんのファンの間では、伝説になっていますよ。有名な人にわざと、ちょっとしたセリフを入れさせたりしていましたからね。

満里奈:その頃はご一緒する機会が多かったので「身近な渡辺満里奈で」ということだったのかもしれません。私が「植木さんのことが好きだ、好きだ」と言っていたので。

──大滝さんとのレコーディングの最中のことなど、他に覚えていることはありますか。

満里奈:とにかく雑談がすごく多かったですね。レコーディングに入るまでの雑談がとても長くて、レコーディングそのものよりも、そちらの方をよく覚えています。いろいろなお話をする中で「あの『ナイアガラ・トライアングル Vol.2』が好きなんです」とお話ししたら、「じゃあ佐野元春くんにも曲を書いもらいますか」と、佐野元春さんとのお食事会をセッティングしてくださったんです。大滝さんと佐野さんが久しぶりにお会いする場に、私もご一緒させていただきました。私はまったくの若輩者で、全然しゃべれませんでしたが(笑)。

今だったら、一挙手一投足を逃さずに観察しようと思いますが、その頃はよく分かっていなくて、単にふわふわしていたと思います。大滝さんにアルバムを作っていただくということがどれだけすごいことなのか、よくわかっていなかったんですね。

──私は、当時『笑っていいとも!』のテレフォンショッキングに満里奈さんが出られたとき(1995年2月23日放送)、たまたま番組を生で見ていたんです。ちょうど「うれしい予感」のシングルが出た直後ですね。タモリさんも大滝さんとアルバムを作っていたから交流があって、そこで大滝さんの話になったときに満里奈さんが「あの大滝さんに曲を作ってもらったんです」と、とても嬉しそうに話されていたのをよく覚えていますよ。

満里奈:ありがとうございます。もちろんとても嬉しかったです。最初は「大滝詠一って本当にいるんだ!」と、“福生の仙人”とも呼ばれるレジェンドのような存在でしたが、交流を重ねてお話しさせていただくうちに、だんだん「親戚のおじさん」のような感じになっていきました。だから、ふわふわしていたんでしょうね。佐野さんとのお食事会のときも、お二人の『トライアングル』の思い出話がすごすぎて、私が口を挟む隙間がなかったんです。だから、聞きながらうなずくだけで精一杯でした。

──レコーディングに関して、何か大滝さんと話された記憶はありますか。

満里奈:大滝さんは、歌入れに向けての気持ちの盛り上げ方や雰囲気作りを、とても大切にされる方でした。一度、私が「明るくない映画」の試写会を見てからレコーディングに行って、「こういうのを見てきたんです」と話したら、「レコーディングの前に、そういう暗くて重いものを見るもんじゃないよ」と言われたんです。レコーディングに向けての気持ちの作り方は大切にしないといけないよ、と言われたのをよく覚えています。

──なるほど。厳しいことを言われたりもしたのでしょうか。

満里奈:そんなに厳しいことは言われませんでした。大滝さんも歌い手ですから、歌い手のフィーリングを削がないようにしてくださっていたのだと思います。細かいダメ出しをされた覚えはありません。歌唱力から言えば「うーん、どうなのかな」と思われていたかもしれませんが(笑)、「あなたはこう解釈して歌ったんだろうから」と、尊重してくださる方でした。

──大滝さん本人が歌を録るときは、スタジオに誰も入れないという噂がありますよね。

満里奈:絶対に見せないらしいんです。信頼しているミキサーさんも入れないそうですよ。本当に不思議な方ですよね。

──満里奈さんのミニアルバムが出た翌97年には、大滝さんがドラマの主題歌「幸せな結末」でミリオンの大ヒットを出されています。あまり作品を出さない大滝さんが、満里奈さんのミニアルバムをプロデュースして、翌年にはドラマの主題歌まで手がけ、さらに自分自身で歌う。あの時代は、ナイアガラファンにとって、大滝さんがすごく精力的に活動されていた印象があります。

満里奈:私のアルバムは、大滝さんにとって「リハビリ時代」だったのではないかと思っています。それまでの10年間、表舞台に出てこられなかったから「仙人」のように言われていた時期ですね。その頃、私がやっていたラジオで大滝さんとお話ししたときに、台本をビリッと破られたんです。「えっ、この台本がダメでしたか?」とびっくりしたら、「これは十年の沈黙を破った音です」とおっしゃって(笑)。

──ギャグだったんですね(笑)。常に面白いことを考えている方だったんですね。

満里奈:やっぱりエンターテイナーなんだなと思います。ダジャレが好きで、日本のテレビドラマや俳優さん、映画、クレイジーキャッツなどについての雑学をたくさん話してくださいました。とにかくよくしゃべる方でした。

デビュー40年を振り返るライブへの思い

──1986年の『深呼吸して』から40年の音楽活動を、いま改めて振り返ってみていかがですか。

満里奈:40年ってすごいですよね。不思議な感じですが、曲に恵まれていたなということと、好きなことをやらせてもらっていたなということを感じます。恵まれた、幸せな環境だったと思います。途中で方向が変わって、しばらく歌っていない時期もありましたが、今回、40周年のライブで曲を決めるときに、宝物のような曲をたくさんいただいていたんだなと、改めて思いました。決して派手ではなかったと思いますが、それが私の持ち味で、その持ち味をちゃんと活かしてくださった方がたくさんいたんだなと感じています。

──大滝さんも、山川恵津子さんもそうですが、本当に凄腕のアレンジャーやミュージシャン、作曲家の方々とお仕事をされてきましたよね。アルバムが売れずに消えていく方もいる中で、30周年でまた『Ring-a-Bell』が記念盤として出るのもすごいことです。

満里奈:『Ring-a-Bell』の30周年は、ちょっと特別なんです。たまたま、ナイアガラ・レコードの50周年と日を同じくしていて、それもご縁だなと思います。それがなかったら、こんなに盛り上がらなかったのではないでしょうか。でも、30年経った今も、新しく生まれ変わった形で聴いていただけるアルバムをいただいたことも、すごく恵まれていると思います。私はずっとライブをやってきた人間ではなく、音楽活動もそれほどしていなかったのに、40周年でこうしてライブをやらせていただけるのは、本当にありがたいです。

──12月22日の恵比寿 The Garden Hallでのライブは、クリスマスイヴに近い日程ですね。もうこれはクリスマスライブになるのでしょうか。

満里奈:でも私、冬の曲があまりないんですよ、夏の曲ばかりで。

──ファーストに入っている「クリスマスが来るまえに」がありますよ。今回は、トータス松本さんと、土岐麻子さんがスペシャルゲストで出演されます。このライブの意気込みをお聞かせください。

満里奈:ビルボードライブ大阪と東京は『Ring-a-Bell』を中心とした選曲ですが、12月の恵比寿 The Garden Hallのライブは40周年の集大成です。大好きなお友達のトータスさんと土岐麻子ちゃんも出てくれるので、記念日的な、お祭りのようなライブになればいいなと思っています。バンドマスターは堂島孝平くんで、本当にすごく良いんですよ。みんなが楽しめるライブになればいいなと思います。

──当時からのファンの方々は、いまも熱いですよね。

満里奈:おニャン子クラブの頃からのファンにしてみると「おニャン子の曲はないの?」と思われがちなのですが、そういう曲もさらりとできたらいいなと思っています。

「朗読劇」への挑戦と、これから新たにやってみたいこと

──10月の頭に、東京・銀座で朗読劇に挑戦されましたね。女優・作家の中江有里さんが書き下ろした新作「愛に似ている」を、満里奈さんと長谷川真弓さんの二人が朗読し、田ノ岡三郎さんのアコーディオン生演奏が彩りました。こちらの手応えはいかがでしたか。

満里奈:終演後には出演者と作者によるアフタートークも3人でやったんですが、ああいう形のイベントは本当に初めてでした。同世代の3人で、新しい表現の形を作れたことが、すごく楽しかったですね。普段、役者のお仕事はしていませんが「こういう表現の形があるんだな」と、また一つ試すことができてよかったです。

──舞台装置が何もない中で、見る側も頭の中で想像しながら物語を聞き、次々と場面が変わっていく。しかもテーマがいま話題の「AI」でしたね。「AIで何でもできる現代」に、あえて人間が創作・表現し、観る側も生のライブで「AIの物語」に接する、そこに新しい感覚がありました。中江さんの原作も斬新でしたが、お二人のやりとりも新鮮で感動しました。

満里奈:ありがとうございます。面白かったですね。

──今後、新しくチャレンジしたいことはありますか。昔から、台湾やピラティスなど、のちに流行するものをいち早く紹介されていた印象があって、満里奈さんにはカルチャーリーダー的な側面があると思っています。

満里奈:いえいえ、新しいことなんて、引き出しもそんなにないんです。自分から「これがやりたい」というのはあまりないのですが、いくつになっても新しいことにチャレンジできるのは、すごく楽しいなと思っています。

──そういえば先日、BSで『世にも奇妙な物語』の再放送があって、満里奈さんが出ている回(『顔』)を見て驚きました。バラエティのイメージが強かったので、若い頃にドラマで演技をされていたんだなと。とても新鮮でした。

満里奈:ドラマもたくさんやっていたんですよ。『世にも奇妙な物語』にも何回か出ています。やらせていただけるなら、何でもやります。目標は、朝ドラのお母さん役なんです。

──今年は歌の活動が全面的に続いて、大変だったと思いますが、やはり音楽は楽しいですか。

満里奈:自分のライブだけでなく、ナイアガラのコンサートや山川恵津子さん関連のライブなど、今年は何回か歌手として出させていただく機会がありました。音楽は、本当に楽しいなと思います。

──昔に作られた日本の音楽が評価されている流れの中で、山川さんも作曲家・編曲家として再評価されています。その評価の流れに満里奈さんの歌った曲も入っていますので、ぜひ今後も歌を続けていただきたいと思います。

満里奈:ありがとうございます。私はいつも「これが最後かもしれない」と思ってやっています。頑張ります!

【取材を終えて】

小学五年生ではじめて渡辺満里奈さんをテレビで見た時は、完全にアイドルとしての姿でした。あれから40年。まさか大人になった自分が、満里奈さんとお会いしてお話しする機会が訪れるとは思ってもいませんでした。今まで台湾にもシティポップにもハマった私は、インタビュー外の雑談でも大いに盛り上がりました。はっぴいえんどのこと、金延幸子さんのこと、あるいは達郎さんや洋楽のことなんかについても、また機会があればお聞きしたいと思っています。東京・恵比寿 The Garden Hallのライブは、そんな満里奈さんの歌手生活40周年を締めくくる大きなイベント。私も「深呼吸して」のぞみたいと思います。(取材:音楽ライター・都鳥流星)

取材協力(敬称略):
ソニー・ミュージックアーティスツ
濱田髙志

【ライブ情報】

 

渡辺満里奈 ~40th Anniversary Special LIVE~
“Ring,Ring,Ring the Bells”

日程:2026年12月22日(火)
会場:恵比寿 The Garden Hall
開場 / 開演:17:45 OPEN / 18:30 OPEN

メンバー :
渡辺満里奈(Vo)
堂島孝平 (Gt)
外園一馬 (Gt)
YUNA (Dr)
関根史織 from Base Ball Bear (Ba)
工藤寛丈 (Key)

Special Guest:トータス松本(ウルフルズ)、土岐麻子

※堂島孝平がバンドマスターを務めます

チケット:全席指定 【前売り】 11,000円(税込・ドリンク代別)
※未就学のお⼦様のご⼊場はお断りさせて頂きます

チケット購入、詳細はコチラ:
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py28520

※オリジナルグッズ販売のお知らせ:11/8(日)のビルボードライブ東京では、ファーストステージの前だけ会場でオリジナルグッズの先行販売があります。チケットをお持ちでない方も、グッズだけお買い求めいただけます。販売時間等、詳しくは事前にホームページの最新情報をご確認ください。

都鳥 流星

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け