クリエイターの発信を支える「まぐまぐ」の提供でお送りするラジオ番組『Why So Good?』。毎回ゲストを迎え、「何をやっているか」ではなく「なぜそれに至ったのか」を掘り下げる30分番組だ。今回のゲストは、幸海ヒーローズ合同会社 CEO・CKOの富本龍徳氏。
アメリカから帰国後、IT企業のセールスプロモーションを経て、現在は日本の海に「昆布の森」をつくることをミッションに、横浜で昆布の計画養殖に取り組む。昆布を単なる食材とは捉えず、温暖化対策に寄与する海藻としての機能に注目し、地元漁協と連携して海の環境保全に貢献する昆布を栽培・活用している。ちなみにCKOとは、「チーフ・コンブ・オフィサー」、つまり最高昆布責任者のことだ。
MC越川慎司氏(株式会社クロスリバー代表取締役)が「今回リスナーに一番届けたいグッドなポイントを教えていただけますか」と切り出すと、富本氏は迷わず答えた。「昆布ってすごい。昆布が地球を救う」。ここから、昆布に人生をかけた理由と、失敗続きだった事業が少しずつ広がっていった軌跡が、富本氏の言葉で語られていく。
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昆布と聞いて思い浮かべるのは?──実は「スギの約5倍」のCO2吸収力
越川: 自己紹介の時点で、笑いをこらえきれずにマイクに漏れてしまいました。「磯ベーション」は反則ですよ。
上條: イノベーションならぬ磯ベーション、うまいですよね。
越川: 聞きたいことは山ほどあるんですが、まず「昆布ってすごい」の何がすごいのかを教えてもらえますか。
富本: その前に、お二人に質問させてください。昆布と聞いて、何を思い浮かべますか?
越川: 僕は和食の出汁ですね。海外出張にも、粉末の出汁入り味噌汁を必ず持ち歩いているんです。アメリカに住んでいた頃から、出汁の力を感じていたので。
上條: 私はおでんです。おでんに入っている昆布が大好きで。
富本: 子どもから大人まで、皆さんに同じ質問をしているんですが、おにぎりの具材やおでんなど、食べ物を連想される方が多いんです。でも実は、環境にものすごくいいという側面があります。海の中で海藻が、陸の木と同じように光合成をするんですが、スギの木と比べると二酸化炭素の吸収量が約5倍あって、酸素もきちんとつくってくれる。体が大きくて、成長が速いので、それだけの吸収力があるんです。
上條: 5倍ってすごい違いですよね。
越川: 温暖化対策というと、CO2を出さないように経済活動を見直すという話が中心ですよね。10を5にするのではなく、吸収して、マイナスにする効果がある。それが昆布ということですね。
富本: そうですね。
IT企業から昆布へ──秋田の物産展、隣のブースで起きた偶然
越川: そもそも、アメリカにいらして、IT企業にもいらしたのに、なぜ昆布にたどり着いたんですか? 藪から棒な感じがすごいです。
富本: もともと父が不動産の会社をやっていて、アメリカから帰ってきて、将来は父の会社を継ぐのかなという流れがありました。当時はmixiやFacebookが流行り始めた頃で、インターネットの勉強はしておいたほうがいいと思い、まずIT企業に入ったんです。30歳ぐらいになると、いろいろな方から「起業しようぜ」と声をかけていただくんですが、何ひとつうまくいかず。
越川: 昆布以外にも、いろいろ試されたんですね。
富本: はい。そんな時に、母から「知り合いのところに行ってきなさい」とお尻を叩かれまして。地方の産物を東京に紹介する活動を手伝っていたんですが、秋田のデパートの物産展に行ったら、隣のブースがアワビの陸上養殖の事業者さんだったんです。
越川: アワビって、陸で育てられるんですか。
富本: 育てられるんですよ。ただ当時は技術がまだ未熟で、コストもものすごくかかるので、アワビが1個4,000円とかで、誰も買わないんです。デパートですら高すぎて。
越川: 原価が高いんですね。
富本: 「今日、売り上げどうでした?」と世間話をしていたら、その方が「富本くん、実は昆布って、アワビの餌になるだけじゃないよ。人間が食べるだけじゃなくて、環境にもいいんだよ」と教えてくれたんです。自分がまったく知らない世界の話で、すごい衝撃がありました。調べてみると使い方もたくさんあるし、環境も良くしてくれる。これは人生をかけてやってもいいのかなと思って、そこから昆布の世界に入って、もう10年ぐらいになります。
越川: キャリアって、偶然の出会いで大きく左右されると言われますよね。自分で選ぶというより、他人がチャンスを連れてきてくれることが多い。たまたま隣のブースがアワビだっただけで、それがチーフ・コンブ・オフィサーにつながるわけです。隣がホットケーキ屋さんだったら、違ったかもしれない。アンテナを張って、チャンスをものにするという意味では、聴いているビジネスパーソンの方にも参考になると思います。
「失敗だらけ」の船出──北海道ブランドの壁と、在庫1,000箱
越川: ただ、環境保全は素晴らしいことですが、ビジネスにしなければ継続性がありません。すぐに大成功、というわけにはいきませんよね。
富本: いやもう、失敗だらけです。
越川: どんな失敗ですか。
富本: 昆布というと、皆さんの頭の中にも北海道産のブランド昆布が浮かぶと思うんです。日高昆布があって、羅臼昆布があって、スーパーの中にも売り場がしっかりある。そこに僕らが「こんなに環境にいいんです、使ってみませんか」と言っても、必然性がないんですよね。使う昆布はもう決まっているし、名前も知らない昆布なんて、ちょっと怖くて手が出せない、と。最初はローカルのレストランでも取り扱ってもらえない時期がずっと続いて、気づいたら在庫が1,000箱ぐらいになっていました。
越川: 昆布って、在庫として置いておくと、どれぐらい持つものなんですか。
富本: 乾燥させればずっと大丈夫なんですが、僕らは北海道の方々の邪魔をしてはいけないと思ったのと、横浜は土地がないこともあって、全部冷凍にしているんです。そうすれば、その都度、通年で出せるので。
越川: 日持ちはするんですね。それでも1,000箱の在庫は、僕だったらビビってしまいます。
支援者4人のクラウドファンディングと、返事ゼロのアウトドアメーカー
富本: どうしようもなくて、まず第一歩として、クラウドファンディングを使ってみることにしたんです。
越川: さすがIT業界の方ですね。
富本: 「こんなに環境にいいんだから、みんな絶対応援してくれる」と思ってやったんですが、3ヶ月経っても集まったのは1万円でした。
越川: 3ヶ月で1万円ですか。
富本: しかも支援者は4人で、そのうちの1人は実は僕なんです。
越川: 実質3人ですね。
富本: そうなんです。そのページはずっと残っていて、僕にとっては黒歴史です。デジタルって残りますから。
越川: でも、それを今は笑い話にできるほど、うまくいっているわけですよね。乗り越えられた理由は何だったんでしょう。
富本: 次に、環境問題とアウトドアメーカーは相性がいいらしいとわかって、いろいろなアウトドアメーカーに連絡したんです。でも、返事はゼロでした。その時は、日本のアウトドアメーカーを全部嫌いになりました(笑)。
越川: アポなしで、会社の問い合わせフォームから送ったんですよね。
富本: 失礼な話なんですけどね。それでも諦めずに粘り強く、ちょっとずつ、ちょっとずつという感じでした。
上條: うまくいかないことがあっても、昆布の可能性を信じてやり続けたのがすごいですね。
越川: 最初の手応えは、どんな場面だったんですか。
富本: アウトドアメーカーの中で、たった1社だけ返事をくださったのが、僕も当時大好きだったパタゴニアさんでした。
越川: 僕も大好きです、パタゴニア。超大手じゃないですか。
富本: 超大手です。理由を紐解くと、パタゴニアさんはカリフォルニアに本社があって、当時、海藻で二酸化炭素を吸収させるという取り組みがカリフォルニアでも少し話題になっていたそうなんです。それを日本でやっているところはないかと探していて、たまたまマッチしました。
越川: すごいタイミングですね。ご自身でダメもとでたくさんアプローチしたからこそ、そこに行き着いたんだと思います。
富本: そうだと思います。
翌月にはまた300箱──正直に書いたFacebook投稿が呼んだ「優しさの連鎖」
越川: パタゴニアさんとは、その後どう進んだんですか。
富本: パタゴニアさんは、当時も今も環境団体に助成金を出されていて、そこでご一緒させていただくことがあり、それで事業が生き延びました。ところが、冒頭の1,000箱の在庫は、現実としては全然売れていかないんです。しかも翌月には水揚げがあって、また300箱が入ってくる。お二人だったら、そういう状況でどうされますか?
越川: せっかく育ったものを破棄するのは、もったいないと思ってしまいますよね。
富本: かといって、食べるにも限界がありますよね。海藻ばかりは食べられないじゃないですか。
越川: 昆布を三食、お腹いっぱい食べるのは現実的ではないですね。僕だったら、親戚や友人に配りまくると思います。
上條: 私も、プレゼントしたり、保存できる状態にしたりするかなと思います。
富本: さすがにアイデアが尽きて、本当にどうしようもなくなってしまって。そこで、Facebookに書いてみたんです。そうしたら、急に携帯がピコピコ鳴り出して、バズりました。皆さんから連絡をいただいて、「今すぐ冷凍庫に取りに行きます」とか、「うちのラーメン屋の出汁に使わせてください」とか。
越川: 1,000箱の在庫があって困っている、ということを書いたんですか。
富本: 正直に書いてしまったんです。そうしたら逆に冷凍庫に昆布が集まりすぎて、冷凍庫屋さんからクレームが来るほどでした。
越川: それは、いただくのではなく、買ってくださったということですか。
富本: 皆さん、買ってくださったんです。まさに優しさの連鎖です。3日ほどで500箱ぐらい減って、在庫が半分ぐらいになりました。
越川: それはすごい。申告してよかったですね。
昆布湯、GX研修、石鹸、湘南六味──「食べるだけではない昆布」が生んだ異業種コラボ
富本: そのあと、昆布の利活用を考えるようになりました。食べ物だけではなく、いろいろな使い方があるはずだと。タラソテラピーにヒントを得て生まれたのが「昆布湯」で、銭湯さんと一緒に昆布のお風呂をやっているんです。
越川: 昆布湯、聞いたことがあります。SNSでも話題になっていましたよね。「お風呂では昆布のエキスが出るのに、なぜ海の中では出汁が出ないんだ」という議論が盛り上がっていました。
富本: ありました(笑)。仕組みとしては、海の中では昆布は生きているんです。水揚げすると死んでしまって、細胞壁が壊れて、出汁が出る。
越川: そういう仕組みなんですね。
越川: 前半は、偶然の出会いで昆布の魅力に出会い、どう広げるかで苦労した、という逆境と挫折のお話でした。ここからは、昆布を食べるだけ、味噌汁に入れるだけでは消費量が限られるから、他の使い方を広げている、という後半です。思いも寄らない異業種とのコラボを、いろいろされていると伺いました。
富本: 昆布湯でいうと、僕らのような小さな会社が「お風呂で、昆布のヌルヌルがいいですよ」と言っても、メッセージが届かないんです。でも、日本には公衆浴場の文化がある。そこでやれたらいいのではないか、ということで始まって、お風呂という文脈ができました。
最近だと、GXの文脈でも声がかかるようになりました。昆布はブルーカーボン、つまり海の温暖化対策、脱炭素に関わる素材なので、外資系の人材会社さんから、GX人材を研修するにあたって、グリーンカーボンとブルーカーボンの講義をやらないかと。ぜひやりますと、お受けしたんです。
越川: GXはグリーントランスフォーメーション、つまり環境対応の流れですよね。営利企業にも、ある程度は地球環境の保全に取り組むことが求められていて、投資家へのメッセージとしても、「うちはこれだけGXに投資しています」というのが共感を呼びます。企業の取り組みの一環として、研修の受け入れ先になったということですね。
上條: 株主さん向けのIR情報のようなものですね。
越川: 昆布の在庫を抱えていたところから、まさかの研修講師にもなる。すごい広がりです。それから、今日は商品もいろいろ持ってきていただいています。意外だったのが石鹸ですね。
富本: 昆布のヌルヌルを生かした、美容のジャンルの商品です。この商品自体は、GXの文脈までは謳っていません。昆布のヌルヌルでまず保湿ができますよ、ということで、皆さんの身近な生活の中で目にする商品に落とし込んでいます。
越川: こちらは調味料ですね。
富本: 大学さんと一緒に開発しているもので、七味唐辛子のような調味料です。藤沢に「六」がつく地名があるので、七味ならぬ「湘南六味」。この中に昆布を入れています。
越川: スパイスに昆布を入れるのは斬新ですが、美味しいに決まっていますよね。
富本: 旨味が加わるんです。
昆布サブレが示す「水福連携」と、一人で抱え込まない「マイルール」
越川: お菓子もありますね。昆布サブレ。パッケージも美味しそうです。
富本: ありがとうございます。クッキーは意外とたくさんあるんですが、このサブレの特徴は、製造などを障害のある方にお願いしていることです。農業の分野には、農業と福祉の「農福連携」がありますよね。
越川: 各地の自治体が取り組んでいますよね。
富本: 水産の現場は、昔から「海は危ないから」と、障害のある方が入ってこられない歴史がありました。それを、僕らのような小さなスタートアップでも、メッセージとして発信できるのではないかと思い、水産と福祉の「水福連携」の観点で始めました。
越川: 魚介類を獲るとなるとリスクがあると思いますが、水産加工なら工場で作業ができるので、幅広い方に働いていただけますよね。日本一周した時に水産加工の会社さんをいろいろ回ったんですが、人手不足がすごいそうです。地域に貢献しながら、労働力不足も補う。価値のある活動だと思います。
富本: 障害のある方も、あくまでパートナーだと思ってお付き合いしています。
越川: お茶やビールもありますね。キャッチコピーが「昆布だよ、地球を救うヒーローは。」と、かるたのようです。こうした広がりは、企業からお声がけがあるんですか? それとも、ご自身から声をかけられるんですか?
富本: ありがたいことに、昆布の社会性が少しずつ高まるのと同時に、「興味があるから一緒にやってみない?」とお声がけをいただく流れができてきました。
越川: 地道に、塵も積もれば山となる、ですね。いろいろな業種の方々と仕事をする上で、マイルールはありますか?
富本: 環境問題って、漢字で書くと4文字で堅苦しいじゃないですか。だから、まず楽しいプロダクトに落とし込む。それと、一人で解決しようと思っても絶対に無理なので、「一人ではできません」と、あえて投げ出してしまうんです。そうすると、逆に手を差し伸べてもらえる。
上條: 在庫の時も、そうでしたよね。
越川: 情報の共有ではなく、感情の共有をされているということですね。
富本: SNSでも、かっこ悪いところをあえて見せるようにしています。みんなの身近な会社なんですよ、と。
小学生に生の昆布を触ってもらう──水産業を「なりたい職業」に
上條: 企業の大人向けだけでなく、子ども向けの出張授業もされているんですよね。
富本: はい。SDGs教育という言葉が生まれたことで、海の取り組みは全体で見るとまだ数が少ないぶん、お声がけいただく機会が増えました。昆布や海の話をしに行っています。最近は、小学校高学年を対象にしたアントレプレナーシップ教育の授業もあって、そこでは失敗談を交えながらお話ししています。
越川: 「この人は昆布で起業して大変だった」という話を、子どもたちが聞くわけですね。
上條: 起業エピソードですね。
富本: 学校に行って「将来何になりたいですか」と聞いても、漁師さんや水産業という言葉が、まず思いつかれないんです。絶対に手が挙がらない。だから、そこも何とかしたいと思っています。
越川: 日本の豊かな自然資源を活用するための一次産業として、水産業はとても重要です。それを担う若い人が増えれば、間接的に地球環境の保全にもつながります。教育は重要ですね。子どもたちの反応はどうですか?
富本: 最初に、生のヌルヌルした昆布を持っていくんです。すると「グロい」「気持ち悪い」「臭い」となるんですが、実際に触ってもらうと、授業が終わる頃にはものすごく前のめりになっています。これはすごい反応だなと感じます。
越川: そうなると、お味噌汁に入っていても、ありがたみがわかりますよね。
上條: 実は身近なところにあるものですし。
磯焼けと「海の森」、そして昆布でジェット機を飛ばす夢
越川: 今後のビジョンがあれば教えてください。
富本: 昔から掲げているのは、海の森づくりです。今、磯焼けという問題があって、海が砂漠化して、緑がまったくない状態になっているんです。日本全国に海の森をつくるという目標のもと、取り組んではいるものの、なかなか進まない現状があります。それを進めつつ、10年やってきた中で思うのは、「第2、第3の水産業界のアイコン」をつくっていきたいということです。さかなクンさんはいらっしゃいますが、プレイヤーとして「あの人」と思い浮かぶ人が、なかなかいないので。
越川: 農業女子という言葉はありますが、水産業女子という言葉はないですもんね。
上條: イメージが、海女さんで止まっていますよね。
越川: アイコンがロールモデルになれば、そこを目指す若い人や子どもが出てきて、業界の広がりにもつながりますね。それから、燃料の話もありました。
富本: バイオプラスチックやバイオフューエルといった、昆布を食べ物以外として扱う非食用の分野は、ヨーロッパが先行していて、活用も多いんです。ゆくゆくは、昆布からジェット機を飛ばすようなこともやりたいと思っています。
越川: これは絵空事ではありません。たとえばユーグレナという上場企業は、藻を燃料にして、バスを走らせたり、将来的には飛行機を飛ばすと言っています。昆布が飛行機を飛ばす日は、決して夢ではないと思います。
上條: 昆布ジェットですね。
越川: もっと聞きたいことが山ほどありますが、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
上條: 昆布への愛が伝わってきました。
越川: 間違いなく、昆布を食べたくなりました。
番組概要
- 番組名:Why So Good?
- 放送局:interfm
- 放送日時:毎週木曜25:00~25:30
- 出演:越川慎司氏(株式会社クロスリバー 代表取締役)
上條美沙子氏 - ゲスト出演:富本龍徳氏(幸海ヒーローズ合同会社 CEO)
- 公式サイト:https://sachiumi.com/ - プロデューサー:エダコDX
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※本記事は、トーク番組「Why So Good?」の放送内容をもとに再構成したものです