グリーンランドの領有に意欲を示す一方、カナダを「米国の51番目の州にする」とも繰り返し口にしてきたトランプ大統領。これらの裏には、どのような企図が存在するのでしょうか。今回のメルマガ『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』では、『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、米国とグリーンランドとの新たな安全保障協定の意味を分析。その上で、トランプ氏が描いている可能性のある「大きな構想」を読み解いています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです
トランプ大統領のグリーンランドへの執念
日本では全国的に雨の日が続き、各地で冠水や浸水の深刻な被害が多発して、テレビのニュースは、連日その関連の話題で持ち切りになっています。亡くなられた方々や被害に遭われた方々には心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。
一方、そうしている間にも、今週は米国ニューヨークで国連総会が開かれて各国首脳が集まり、高市首相も訪米して国連での演説やトランプ大統領との会談(わずか35分!)を行いました。数時間前には、米中首脳会談も行われましたが、まさに世界は休むことなく目まぐるしく動いています。
一方、トランプ大統領がCNNなど一部メディアをホワイトハウスから締め出したことに反発して、米主要テレビメディアが代表取材をボイコットするなど、取り上げたい話題は盛りだくさんなのですが、今週は、あえて以下のポストを取り上げます。大きな出来事であるにもかかわらず、他の話題にまぎれて日本ではほとんど報道されていないからです。
BREAKING: President Donald J. Trump announces complete and permanent American security control over Greenland, and excludes any adversary from Greenland and the surrounding region. pic.twitter.com/MVuT4yAfG5
— The White House (@WhiteHouse) September 18, 2026
● https://x.com/WhiteHouse/status/2101062116765499575
例によって、トランプ大統領のSNS Truth Socialへの投稿がそのままXにも転載されました。
● https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/117294126158197822
9月22日、トランプ大統領とデンマーク政府、グリーンランド自治政府が、グリーンランドへの軍事拠点設置などを盛り込んだ安全保障協定に署名しましたが、それに先立って、トランプ氏が合意の内容をアピールした投稿です。
トランプ氏は、かねてからグリーンランドの領有に意欲を示していましたが、デンマークの主権やグリーンランドの自治権はそのまま、「グリーンランドにおける安全保障およびその他すべての必要事項について、米国に恒久的な管理権を与える協定を締結した」とあり、それが事実であれば、水面下では、このような形での実質的な領有に近いともいえる内容の交渉が進んでいたことになります。
米国とデンマークは、既に1951年に「グリーンランド防衛協定」を結んでおり、今回の合意は、その協定を土台として米国の権限をさらに強化したものとみなすことができます。しかし、トランプ氏が従来主張してきた「米国による取得・領有」ではないので、立場を後退させたとみなす意見もあり、今回の合意に対する解釈はさまざまです。
本件については、11月の中間選挙に向けた実績の誇示という面があるのは否めないものの、トランプ氏のグリーンランドに対する執念としたたかな政治力を感じる出来事だと私は思いました。
就任以来、数々の不規則発言や奇行が目立ち、特にイラン戦争の長期化による経済への悪影響で足元が揺らいでいるトランプ氏ですが、グリーンランド支配に対する執念の裏には何があるのでしょうか。
この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ
第一には、かねてからレアアースなど地下資源の宝庫とされるグリーンランドから、ロシアや中国の軍事的・経済的影響力を排除することが大きな目的の一つであることは明らかです。
グリーンランドの地下資源を米国が抑えることができれば、現在、世界のレアアース供給網で圧倒的な存在感を持つ中国を牽制するという意味で、米国の国益に寄与するのみならず、グローバルサプライチェーンのバランスを保つ上では、国際社会にとっても悪い話ではありません。
そして第二には、トランプ氏は、やはりかねてから口にしているカナダを米国の51番目の州にするということを本気で考えているのではないでしょうか。
カナダの首相がマーク・カーニー氏に代わってから、米国とカナダの対立が目立つようになりましたが、ついにカーニー首相はEUに近付き、EUの「準加盟国」ともいえる新たな関係を構築することに意欲を見せています。これに対してトランプ氏は露骨に不快感を示しています。
私たち日本人からすると、カナダやオーストラリアは、同じ英語圏の国として(カナダにはフランス語圏もありますが)、もともと親米で、国民性などは米国に酷似している印象を持っています。実際にこれらの国々を訪れてみても、私の感覚では、米国にいるのとさして変わらない感覚です。
しかしながら、歴史を遡ると、米国がかつて英国と戦争をして独立を勝ち取った共和国であるのに対して、カナダやオーストラリアは大英帝国の自治領として発展し、今でも英国王と同一人物である国王を国家元首とする立憲君主国です。
ここから先は私自身の仮説ですが、やはりこの違いは非常に大きく、長いことこれらの国々は同盟国として親密な関係を保ってきたものの、本音のところでは、英国および英連邦の国々と米国との間には、積年のわだかまりというか、昔の敵対国としての感情が根強く残っているのではないでしょうか。
トランプ氏のグリーンランドへのアプローチを、個別の思いつきとしてではなく、トランプ氏がこだわる西半球における米国の圧倒的優位を確立しようとする一つの地政学的構想として眺めると、別の景色が見えてきます。先日は、オンタリオ湖を米国内では「アメリカ湖」と名称変更するなどの動きもありましたが、今回のグリーンランドとの協定も、カナダ支配に向けた布石なのではないかと感じます。皆さんはどう思いますか?
※ 本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2026年9月25日号の一部抜粋です。このほか、「今週のメインコラム」や「読者の質問に答えます!」、「スタッフ“イギー”のつぶやき」など、レギュラーコーナーも充実。この機会にぜひご登録をご検討ください。
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image by: X(@The White House)