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【米朝関係】米国が仕込んだ北朝鮮のエリート集団

米国仕込みの北朝鮮エリート集団

『NEWSを疑え!』第371号より一部抜粋

さきごろ、来日した韓国の北朝鮮問題専門家グループと意見交換する機会がありました。

私に対する先方の要望は、集団的自衛権の行使容認の先にある日本の安全保障政策と日米同盟の展望、中国の軍事力に関する分析、といったところでしたが、私にとっても大いに勉強になる貴重な機会となりました。

それは、金正恩第一書記に率いられる北朝鮮が欧米流、それも米国的な発想を身につけたテクノクラート集団によって国家建設を進めている可能性があるという私の仮説について、その裏付けとなるような情報がもたらされたということです。

かねてから私は、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルの開発は、戦後の米国をモデルに経済建設を進めることが目的となっている可能性がある、とながめてきました。

核兵器と弾道ミサイルの開発を進めることにより、世界が北朝鮮を核保有国と認める環境を創りだし、まずはインドと同じような国際的地位を勝ち取り、その段階で核抑止力を備えたことを理由に国内の軍部に軍縮を実行させ、過大な通常戦力の負担を軽くして経済建設を推進しようとしているのではないか、というものです。

米国は戦後、アイゼンハワー政権の8年間に戦術核兵器を一挙に100倍にまで増やす一方、通常戦力の大幅削減によって財政的負担を軽減し、経済建設を推進しています。その様子は西恭之氏(静岡県立大学特任助教)のコラム(2013年4月11日号)に詳しいのでご参照ください。それを踏襲したのが中国の経済的成功という見方も成り立ち、北朝鮮が米中両国を手本にしないわけはないと、私は考えたのです。

若い金正恩第一書記だけを見ると頼りなく、不安定な感じがするかも知れませんが、これを強力なテクノクラート集団が支えているとすれば、そのような動きも不可能ではありません。私には、金正恩体制になってからの北朝鮮の動きの背後に、欧米仕込みのテクノクラート集団の存在が感じられてならなかったのです。

その点を韓国側にぶつけてみました。すると、米国仕込みのテクノクラート集団が手腕を発揮している、と回答が戻ってきたのです。

「米国の大学院に何年も在学して博士号を取るというケースはないが、1年くらいの研修には、毎年、多くのテクノクラートが派遣されている。米国に行くケースが多いが、欧米で研修を受ける北朝鮮のテクノクラートは年間1000人ほどにのぼる」

どんなところで研修しているかというと、有名大学としてはシラキュース大学があり、ここでは経済問題について学んでいるようだ、とのことでした。

調べてみると、びっくりでした。なんとシラキュース大学では、IT関係の研修まで行われているではないですか。

米国の「ハイブリッド・ストラテジー」戦略か

米国事情に精通するジャーナリスト松尾文雄さん(共同通信OB)のブログ『アメリカ・ウォッチ』が、このIT研修に触れていますので、その一部をご紹介しておきます。

「交流の主体は、ニューヨーク州北部にある1870年にメソディスト教会によって創立された長い歴史を持つシラキュース大学と、平壌にある北朝鮮の代表的理工系大学である金策工業総合大学。テーマは、システム・アシュアランスと呼ばれるIT技術をめぐる『双務的研究協力』とされている。

しかし、それは建前上のことで、実際はシラキュース側が金策側にIT基礎技術を教え込む研修の実施である。このプロジェクトに対して資金を提供しているのが、週刊誌『タイム』の創刊で成功した、故ヘンリー・ルースが残した七億ドルの遺産をもとに、アジア各国でさまざまな教育支援事業を展開している『ヘンリー・ルース財団』。その仲介役としては、朝鮮戦争直後に韓国とアメリカとの友好親善団体として設立された、ニューヨークに本部があるコリア・ソサエティー。連絡役には、ニューヨークの北朝鮮国連代表部も加わっている。シラキュース大学キャンパスで研修を受ける金策工業総合大学側の関係者には、米国務省からビザが出ている。

どこから見てもアメリカ、北朝鮮、そして韓国も暗黙の支持を与えている立派な民間交流である」

「最初の研修がシラキュース大学で開かれたのが2003年4月である。(中略)2003年4月といえば、北朝鮮をイラク、イランとともに『世界にとって最も危険な悪の枢軸』と決めつけたブッシュ大統領が、実際にイラク戦争を強行した直後である。4月9日にはバグダッドが陥落している。北朝鮮の核開発問題でも六者協議の前段の米朝中の三ヵ国協議が不調に終わり、アメリカと北朝鮮の間の緊張も高まっていた。その中で、こうしたIT技術研修が堂々と行われていたのである」

これを見て、「米国は、どうして北朝鮮の脅威を増大させるようなことをするのか。北朝鮮からのサイバー攻撃の脅威が増すだけではないか」と考えるのは日本的に過ぎるでしょう。

米国はこれまでも、同盟国や友好国の若手エリートを大学院などに受け入れ、博士号を取らせて帰国させ、そのエリートを通じて、その国をコントロールする、いわば「ハイブリッド・ストラテジー」とも呼ぶべき戦略姿勢を見せてきました。むろん、日本についても例外ではありません。

その「ハイブリッド・ストラテジー」を北朝鮮にも適用しているとしたら…。

米国で研修したエリートを通じて北朝鮮をコントロールすることは難しいにしても、北朝鮮の経済建設や農業政策、IT戦略などについては、自分たちが教えた相手ですから動向を予測することはある程度できるようになるはずです。

米国としては、そのような角度から北朝鮮の進む方向を注視し、同時に国家建設に手を貸しながら、北朝鮮が脅威にならないように導いていく、と考えているのは当然のことでしょう。そして、北朝鮮も米国の戦略的姿勢をわかったうえで、学べるもの、盗めるものは貪欲に吸収して行っている。

このような米朝関係、そして、それを踏まえて北朝鮮を安定させようとしている韓国の姿勢については、日本としても参考にできるものが少なくないと感じました。

『NEWSを疑え!』第371号より一部抜粋
著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流のビジネスマンになり世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せません。
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