コロナ禍により世界各国が大きな経済的ダメージを受けていますが、日本国内の不動産市場はどのような影響を受けているのでしょうか。
コロナ禍のような世界中を巻き込むパンデミックは近代において人類が経験したことのないことであり、先行きを予想することが難しいのが現状です。
こうした中で、先行きを予想するのに役立つのが、過去同じような状況における前後のデータではないでしょうか。
本記事では、直近の大きな経済ショックであるリーマンショックを参考に、コロナ禍による経済ショックが不動産市場に与える影響とそれに基づく不動産の売り時について考察していきたいと思います。
不動産市場の現状
まずは不動産市場の現状について、見ていきたいと思います。
国土交通省が2020年9月29日に発表した都道府県地価調査によると、基準地価は全国平均で前年度-0.6%となり、3年ぶりに下落となりました。
都道府県地価は、毎年7月1日を基準に9月末頃に発表されるもので、不動産取引の参考に利用されます。
新型コロナウイルスによる影響の大きさ考えると、前年度比-0.6%というのは思ったより小さいと感じられるのではないでしょうか。
というのも、この調査には2019年7月1日以降の分の地価も調査対象に入っており、前半においてはインバウンド需要や都市再開発の影響からプラスの傾向にありました。
その後、2月頃から徐々に新型コロナウイルスの影響が出始めたことを考えると、この基準地価は実態を正確に表しているとは言えない可能性があります。
なお、毎年7月1日に国税庁より発表される路線価は1月1日を基準に考えるため、新型コロナウイルスによる影響下にある時期での発表だったのにも関わらず、全国平均は5年連続での上昇となっています(ただし、国税庁は状況によって下方修正するという異例の発表も行っています)。
<その他の調査によるデータ>
その他の調査によるデータも見ていきましょう。
まず、東日本レインズによる首都圏の土地の取引件数推移を見てみると、以下のようになっています。
上記データを見てみると、ずっとマイナスが続いています。
ただし、首都圏においては実は去年からマイナスが続いており、必ずしもコロナ禍による影響だけともいえません。
また、4月と5月に大きく減少した反動からか、7月と8月には大きく上昇していることが分かります。
次に、首都圏における中古マンションの成約件数前年比を見てみると以下の通りです。
こちらも、4月と5月に大きく減少した反動で、8月には上昇に転じています。
もともと、住宅のような居住用不動産は経済ショックに強いと言われています。
不況になったとしても、住むところは必要だからです。
特に新型コロナウイルスの場合ステイホームが要請されており、家で過ごす時間が長いという点もポイントになるでしょう。
リーマンショック前後の不動産市場
現況の不動産市場についてデータを確認しました。
現状では、不動産市場はまだ大きな影響を受けていないといえますが、今後はどうなるか分かりません。
先行き不透明な中、今後の推移を予想するために、直近で世界的な経済ショックとなったリーマンショックの前後の不動産市場の推移を参考にしてみましょう。
<首都圏の土地の取引状況(2004年~2013年)>
まず、先程2020年の月毎推移を挙げた東日本レインズによる首都圏の土地(100㎡~200㎡)の成約件数について、2004年~2013年の推移を見てみましょう。
土地については、リーマンショックの起こる2008年以前からやや下降傾向にありましたが、リーマンショックの起こった2008年以降はむしろ上昇傾向にあります。
これは、リーマンショックにより地価が安くなったことが1つの原因として考えられるでしょう。
実際、2007年に3,372万円だった価格が、2009年には2,909万円に落ちています。
<首都圏の中古マンションの取引状況(2004年~2013年)>
次に、中古マンションの取引状況(成約件数)を見てみると、以下の通りです。
中古マンションの取引状況を見てみると、リーマンショックの影響の強い2007年、2008年にはやや下がっていますが、反動から2009年には大きく上昇し、その後は安定した上昇傾向に入っています。
なお、中古マンションについては価格も上昇傾向にあり、2004年に2,048万円だった平均価格が2013年には2,789万円まで上昇しています。
これらの数字を見ていると、リーマンショックの影響はそこまで大きなものではなかったのではないかとさえ思います。
しかし、経済ショックの渦中にあるときは、将来の先行きが分からず不安に思うものです。
リーマンショックと重ねてみると、新型コロナによる経済ショックも、意外と大きな問題もなく、回復傾向に入っていく可能性もあります。
<リーマンショックによる日経平均への影響>
不動産価格だけでなく、証券市場に関するリーマンショックの影響を見てみたいと思います。
日経平均株価について、2004年~2013年の推移を見てみると以下の通りです。
日経平均を見てみると、2004年から2007年まで株価が急伸していましたが、その後リーマンショックにより半分程度まで落ち込んでいることが分かります。
その後、2013年まで大きな回復を見ることなくほぼ横ばいで推移しているところを見るとリーマンショックの影響は大きかったといえるでしょう。
ただし、2014年にはアベノミクスにより1万6,291円まで上昇しています。
リーマンショックからおよそ5年間で大きく上昇しているという点は、今回のコロナショック後に日本が回復するまでの期間を図る指標としてひとつの参考になるかもしれません。
経済ショックの不動産への影響は限定的
新型コロナウイルスによる経済ショックと、リーマンショックの不動産に関する数値の推移や、日経平均株価の推移など見てきました。
特に不動産に関する指標については、新型コロナウイルスもリーマンショックも、そこまで大きな影響を受けていないと感じたのではないでしょうか。
これには、さまざまな経済要因がありますが、そもそも、不動産の地価は経済ショックなどの影響を受けにくいという特徴があります。
これは、不動産のうち、特に居住用の施設については、いくら不況になろうと必要な施設であるということが要因の1つです。
また、証券市場だと空売りがありますが、不動産市場についてはそうした仕組みがなく、経済不況時にも株式等のようには、マイナス方向に動きにくいといったこともあります。
もちろん、新型コロナウイルスによる影響がどの程度続くかは不透明な部分がありますが、不動産市場への影響については、リーマンショックの事例を見てみても、限定的となる可能性が高いといえます。
不動産の売り時については、新型コロナウイルスによる影響を悲観して早く投げ売りしてしまうよりは、ご自分のタイミングで売却することを考えたほうがよいかもしれません。
まとめ
コロナ禍が不動産市場に与える影響について、直近の大きな経済ショックであるリーマンショックの事例を参考にしながら、解説しました。
不動産の売却を考えている方は、リーマンショックの事例からみると、慌てて売却するような必要はないと考えられます。
とはいえ、新型コロナウイルスによる経済ショックが今後どのように拡がっていくか不透明な部分も大きいため、本記事でご紹介したような不動産価格に関するデータなど、細かく追っていくようにするとよいでしょう。
著者プロフィール:逆瀬川 勇造
合同会社7pockets 代表社員。明治学院大学 経済学部 国際経営学科にてマーケティングを専攻。大学卒業後は地元の地方銀行に入行し、窓口業務・渉外業務の経験を経て、2011年9月より不動産会社に入社し、住宅新築や土地仕入れ、造成、不動産売買に携わる。2018年より独立し、不動産を中心としたフリーライターとして活動を開始。
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