MAG2 NEWS MENU

美貌の勝利ではない。大塚家具騒動を数字で分析してわかったこと

マスコミの格好のネタとなっている大塚家具の父娘の争い、メディアは個人の人格的な部分ばかりを面白おかしくクローズアップしていますが…、ちょっと待って、そもそも今回の騒動ってどうして起きたの?そのあたりをステーキけんの社長・井戸実さんが大塚家具のIRカレンダーを示しながら解説してくださっています。

IRカレンダーで紐解く大塚家具騒動

『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』 187号店より一部抜粋

大塚家具の経営権を巡り、現社長の大塚久美子氏と創業者が繰り広げたプロキシーファイトですが、結果、現社長の大塚久美子氏の勝利という結果となりました。まぁ今回はそういった結果ですが、創業者の大塚勝久氏は変わらず筆頭株主のままなので、再度このプレイを繰り返すこととなるのでしょう。それに対し久美子社長は安定化のための施策を取ると言い、第三社割当増資で勝久会長の持ち分を薄めちゃえ、みたいな流れになるのでしょうけど、無借金で現預金も充分あって自己資本比率が74%にも及ぶ財務内容なのに、既存の株主からすれば増資すると言っても受け入れられないでしょうね。

週末テレビの報道番組では各局全てがこの株主総会のことを放送していました。しかしどの局もプロキシーファイトの行方しか伝えません。上場企業でありながら一族経営であり、親子での骨肉の争いだけに焦点をあてております。では同社の実態はどうなのでしょうか?と同社のIRカレンダーを見て色々と予想をしてみました。

まずはことの発端ですが、昨年2014年3月31日の役員人事の発表です。それまでの久美子社長の役職は「代表取締役社長兼営業本部長兼業務管理部管掌」というものでした。それが、2014年3月31日の発表で「代表取締役社長」となります。この時点の取締役は社内取締役が5名、社外取締役が3名です。社内の取締役は、勝久会長、久美子社長、勝之氏この3名が一族です。そしてプロパーの役員で、佐野氏と渡辺氏という2名の取締役がおります。後の3名は社外取締役で弁護士やなんだかわからない経歴で家具業界に身を置いてきたという経歴ではありません。

佐野氏と渡辺氏の2人の経歴を見れば、大塚家具に入社して登り詰めて来た取締役だけあって勝久会長よりであるのは必然であります。勝之氏は久美子氏の弟にあたるので、お父さんにつくかお姉ちゃんにつくかと言えばどちらにもニュートラルに身を預けることができる環境ではないでしょうか。

なので社内取締役での票は勝久会長と久美子社長が仮に対立したとしても、この時点では勝久会長が3票は抑えているので追い出されるようなことはありません。そういった状況を保全しながら久美子社長を立ててはいるものの、勝久氏の体制が敷かれています。

さてこの時期の既存店舗の昨年対比売上が以下の通りです。

月次情報 店舗売上高 前年同月比

消費税の駆け込み需要が大きかったこともあり、2014年1月は106%、2月は104%、3月は133%と業績は上向いておりました。ところが消費税の反動も大きかったのでしょうか、5月の昨年同月対比が89%と大きく減少します。さらに6月、7月と83%という数字となり、明らかに異常な売上の減少が起きており、この時期に何かが起きている訳です。

そして事態は動きました。2014年7月23日の発表で会長となった勝久氏が代表取締役会長兼社長となり、久美子氏は取締役に降格となります。2009年3月に社長に就任し経営に取り組み、勝久会長体制もそろそろ自分達の時代へと考えていた頃ぐらいにあたるのでしょうか。会長から待ったがかかった形での久美子社長解任劇となります。

さて業績の方はというと5月の昨年同月対比が大きく減少している中、5月2日に第一四半期の業績発表をしています。大塚家具は12月が決算なので1月~3月末の業績が第一四半期となる訳ですが、1、2、3月は業績が良かったので、第一四半期の発表は期初計画通りの発表となる訳です。ところがこの発表が出ている頃、社内ではあきらかに異変が起きております。5月、6月の数字で勝久氏が久美子氏の体制では駄目だと判断したのでしょう。前出の通り7月23日に社長変更となりました。

そして勝久会長兼社長体制となった7月30日に第2四半期の業績予想の修正を発表します。ここで注目するところが、第1四半期の発表では予定していなかったのですが、第2四半期の発表で有価証券売却益の3億230万円を盛り込みます。これにより前回5月2日に久美子社長体制で発表した通期予想では純利益が3.79億円だったのに対して勝久会長兼社長体制となったら7.42億円に上方修正されたという訳です。投資家に向けてなのか社内に向けてのアピールなのかはわかりませんが、有価証券の売却で当期利益を上げるなんてのは、久美子社長でも誰でもできる訳で、明らかな自己アピールなのですね。

さて勝久会長兼社長体制と変わりましたが、5月以降に前年同月売上対比は、いい月で96%、悪い月では89%と苦戦が続きます。そんな中9月24日にはこんな発表がありました。「厚生年金基金の特例解散に伴う特別損失の発生」の発表です。

これは大塚家具も加盟する「東京都家具厚生年金基金」という家具関連の業界で働く従業員向けの厚生年金基金なのですが、安定的な運用収益を確保することが困難な状況となったことから同基金は解散することとなりました。これにより平成26年8月末日時点の同基金全体の積立不足額に大塚家具の負担割合を掛けると5.7億円の負担額となります。結果、同基金解散に伴う損失見込額とし厚生年金基金解散損失引当金として5.7億円を計上しなくてはなりません。

勝久会長兼社長体制になり7月30日の第2四半期の発表では有価証券を売却して純利益を積み増したが、思わぬところでの損失が膨らみました。「いかん。このままでは俺の経営責任が問われる」とでも判断したのでしょうか。まぁ1年前からわかってたことなのでそりゃないと思いますが、当初3億230万円の有価証券の売却だった予定をさらに積み上げ、10億7700万円を売却する決定をしました。

そんなやりくりをしながら業績の回復に努める訳ですが、一向に業績は上向きません。しかしながら強気の姿勢は崩さず、8月7日に第2四半期の決算短信を発表しますが、その中で通期見通しは期初と変わらず売上高585億円、経常利益13.9億円、純利益10億円の業績予想をしています。このあたりは相当苦しかったんじゃないかと思います。そして10月31日に業績予想の下方修正が発表されます。13.9億円の経常利益は4.4億円に。10億円の純利益は7.3億円に減収するとの発表です。久美子社長を解任し、結果を出さなくてはならないプレッシャーもさぞかし大きかったことでしょう。しかし業績は回復しません。

12月24日の業績予想で2度目となる下方修正をしました。一度目の下方修正では経常利益が4.4億円になるとのことでしたが、そこからさらに減少し、黒字から一転、経常利益は3.4億円の赤字になるとのこと。純利益は4億円の黒字ですが、10億円もの有価証券売却益を計上しての数字ですから実質の経営数値では赤字の状態です。2度の下方修正を行ったこと。これが決定打だったのでしょう。

そして1月28日の発表で久美子氏が社長になり勝久氏が会長になる人事が発表されました。勝久会長がクーデターだと発言した経緯です。2015年2月13日に「新経営体制に関するお知らせ」が発表されました。

それによると社内取締役は久美子社長、大塚雅之氏、佐野氏、山田氏の4名となります。この体制となる前の勝久会長体制の取締役だった、一族の勝之氏とプロパー役員の渡辺氏の名前が消えています。

では、このクーデターと発言した取締役会がどういう形で開催されたかが気になります。この時点で3名の社外取締役がいました。中尾氏、阿久津氏、長沢氏の3名です。この3名の中で新経営体制に、阿久津氏と長沢氏の名前が列記されています。そうなると考えられるのが、久美子氏支援に回ったのが佐野氏、阿久津氏、長沢氏の3票であると考えるのが自然です。一方、勝久会長派は大塚勝之氏、渡辺氏の2名です。なので社外取締役の中尾氏が勝久会長側につけば、この社長交代劇は成り立たなかったのですが、久美子氏体制になった結果があるので棄権か久美子氏支援についたと考えるのが自然なのかと思います。

以後は株主総会を開催し勝久会長の辞任を提案する運びとなったのが今回の騒動です。ここまで説明すればわかると思いますが、上場企業として考えた場合に、この度の久美子社長の行為は至極当然のことだった訳です。

財務内容がいい状態であれば、いかように企業は変革を図れますが、これが財務内容が悪い場合、何も手を打つことができません。無借金で100億円もの現預金と70億円の有価証券があれば、変な話アーリーが経営しても会社は潰れないと思います。まぁ何もやらせてもらえないと思うけど。

とにかくこの状態では社員が可哀想だからお父さんもこのあたりで引くべきかと思うのですが、どうなるんでしょうね。

個人的には全く興味のない話ですがメルマガのネタになったことを感謝しております。

 

『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』 187号店より一部抜粋

【187号店の目次】
★ご挨拶
★レストラン訪問記
★井戸実コンシェルジュ
★『イヌオク』コラボ今週の物件!
★新コーナー!! 失敗の軌跡
★アーリーの失敗例から学ぶ Mr.Idoの成功哲学
★Q&Aコーナー
★物語 「チバカラス」
★最後に

 

『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』

著者/井戸実
神奈川県川崎市出身。寿司職人の修業を経て数社の会社を渡り歩く。2006年7月にステーキハンバーグ&サラダバーけんを開業。レストラン訪問記やQ&Aが充実のメルマガは毎週水曜配信。
≪無料サンプルはこちら≫

 

source: 大塚家具

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け