MAG2 NEWS MENU

ロシアは絶対悪なのか。シリア空爆の驚くべき「裏側」

ついに開始されたロシアによるシリアへの空爆。当初ロシアは「イスラム国の掃討に絞った攻撃」としていましたが、「反アサド派の拠点を空爆した」として各国の批判が高まっています。なぜロシアはイスラム国以外の勢力を標的にしたのでしょうか。その裏側を無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係アナリストの北野幸伯さんが2つの仰天情報を交え解説しています。

ロシア、シリア空爆の「裏側」

昨日目が覚めたら、アメリカの読者さんから、こんなメールが届い
ていました。

北野さん、大変ですね!!

 

那由他です。

 

すみません、返信いただいたばかりなのでついつい気軽に用件だけ送らせていただきます。

 

今日は朝からTVではロシアのシリア空爆で持ちきりです。明らかにISISのいるところではなく、反アサドのいるところに空爆したと、みな怒りまくっています!!

 

確かにインタビューでもプーチンは、アサド支持をはっきり打ち出してはいましたが、このタイミングでこんなことしてプーチン(のロシア)が得することはあるのでしょうか?

 

私にはとうていそうは思えないのですが、いったい何が起きているんでしょうか??

 

100歩譲って本当にあるとして、このタイミングでのこの行動の理由はなんでしょうか? このタイミングだからこそなのでしょうか?

 

朝から悩んでいましたががまんできなくてメールしてしまいました。きっと北野さんも今、説明記事を考えているところかもしれませんね。待ちます。

ポイントを整理します。

  1. ロシアは、「シリア空爆」をはじめた。
  2. プーチンは、「イスラム国を空爆する」といっていたが、実際は、「反アサド派」を空爆している。

どの新聞にも出ていますし、日本のテレビニュースにも出ていることでしょう。というわけで、今日はこの話をします。

ここ数年の動きを順番に追っていきます。

とはいえ、全部詳細に話すと長くなるので、ポイントだけ抑えていきます。

反アサド派、驚愕の正体とは?

まず基本的な知識として。シリアのアサド政権は、「反米」「親ロシア」です。

中東における親ロシア勢力は、主にイランとシリア(アサド)。

中東における親アメリカ勢力は、主にイスラエルとサウジアラビア

7月にアメリカ、ロシア、イラン(と英独仏中)は、イランの核開発問題を事実上解決しました。米、イラン関係がよくなった。それで、アメリカと、イスラエル、サウジアラビアの関係に亀裂が入っています。

しかし、本題ではないので、詳しくは触れません。

シリア。

中東、北アフリカ諸国で2010年ごろから「アラブの春」と呼ばれる革命運動が活発になりました。実際にいくつかの国で、独裁政権が崩壊しています。

2011年末、独裁者アサドが支配するシリアでも、「革命運動」がおこってきた。ロシアは当然、事実上の同盟国であるシリアのアサド現政権を支持

一方、アメリカは、「反アサド派」の支援を開始しました。この辺は、皆さんご存知ですね。

欧米マスコミは、「反アサド派=民主主義を求める善の勢力」とプロパガンダしていた。

しかし…。

実をいうと、「反アサド派」は、とても「民主主義勢力」と呼べるような人たちではないのです。皆さん、「目を皿のようにして」次の記事を熟読してください。「反アサド派が仲間割れしていたが、仲直りした」という記事です。

シリア北部の町占拠、反体制派とアルカイダ系勢力 対立の背景

 

トルコとの国境沿いにあるシリア北部アレッポ(Aleppo)県の町、アザズ(Azaz)で18日に戦闘になったシリア反体制派「自由シリア軍(Free Syrian Army、FSA)」と国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the Levant、ISIS)」が停戦に合意したと、イギリスを拠点とするNGO「シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)」が20日、明らかにした。

([AFP=時事])

同じ反体制派(=反アサド派)内の「自由シリア軍」と「イラク・レバントのイスラム国」(ISIS)が仲間割れして、戦闘になったと。そして、この「イラク・レバントのイスラム国」は、「アルカイダ系武装勢力」である、とはっきり書いてあります。

ここで重要な事実が明らかになります。

欧米が「民主主義を求める善の勢力」と宣伝している「反アサド派」の中には、アメリカで9.11を起こしたとされる「アルカイダ系」がいる

もう一度、最重要部分を引用します。

国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力

 

「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the Levant、ISIS)」

じっくり声に出してよんでください。国際テロ組織アルカイダ系武装勢力「イラク・レバントのイスラム国」とあります。

皆さん、もうおわかりですね。

欧米が大騒ぎしている「イスラム国」は、つい最近まで、「民主主義を求める善の勢力」であるはずの「反アサド派」に属していた

整理します。

  1. 欧米が「民主主義を求める善の勢力」と宣伝している「反アサド派」にもいろいろな勢力がいる。
  2. その中には、アメリカで9.11を起こしたとされる「アルカイダ系」もいる。
  3. 欧米が敵視している「イスラム国」は、「元アルカイダ」であると同時に(善であるはずの)「反アサド派」だった。
  4. 欧米は、この仰天の事実を知りながら、「反アサド派」への支援をつづけていた。
  5. 「イスラム国」が急速に勢力を拡大した最大の理由は、欧米からの支援が間接的に彼らに流れていたことである。

「化学兵器」を使ったのは誰だ??

さて、アメリカの欺瞞は、これで終わりません。

欧米の願いに反して、アサド政権はなかなか崩壊しませんでした。業を煮やしたオバマは2013年8月、「シリアを攻撃する!」と宣言します。

理由はなんでしたか?

皆さん覚えておられることでしょう。そう、「アサド軍が、『化学兵器』を使ったから」です。

これ、「世界の常識」と思われていますが。以下の記事、「目を皿のようにして」熟読してください。

シリア反体制派がサリン使用か、国連調査官 AFP=時事5月5日(月)配信

 

[AFP=時事]シリア問題に関する国連(UN)調査委員会のカーラ・デルポンテ調査官は5日夜、シリアの反体制派が致死性の神経ガス「サリン」を使った可能性があると述べた。

 

スイスのラジオ番組のインタビューでデルポンテ氏は、「われわれが収集した証言によると、反体制派が化学兵器を、サリンガスを使用した」とし、「新たな目撃証言を通じて調査をさらに掘り下げ、検証し、確証をえる必要があるが、これまでに確立されたところによれば、サリンガスを使っているのは反体制派だ」と述べた。

どうですか、これ?

化学兵器=サリンガスを使っているのは、「反体制派だ!」とはっきり書いてあります。

皆さん今まで、

「悪のアサド」
「善の反アサド」

と思っていませんでしたか?

もちろん独裁者アサドが「善だ」とはいいません。しかし、「反アサド」が「善だ」とも、とてもいえない状況なのです。

プーチンの目的

さて、オバマが「シリア攻撃」を断念したのは2013年9月です。

アサドは、プーチンの指示に従い、「化学兵器破棄」に合意した(アサドが化学兵器を使ったかどうかは不明だが、化学兵器を保有していたことは事実である)。

その後「元反アサド派」だった「イスラム国」は独自の勢力と化した。イラクとシリアで急速に勢力を拡大しています。日本人を含む多くの人々を「公開処刑」し、動画をユーチューブにアップする。確かに深刻な脅威になっています。

で、アメリカと同盟国は、2014年8月から「イスラム国空爆」を開始した。1年ちょっとで、空爆を3,000回も実施したといいます。

ところが、それでイスラム国は弱体化するどころか、ますます勢力を拡大している。そして、欧米が支援する「反アサド派」同様、アサド政権にとって、「深刻な脅威」になってきた。

こういう状況を、ロシアはどう見ているか?

「イスラム国」はアメリカの敵ではある。しかし、アメリカは、「反米親ロ」のアサド政権を打倒するために、「イスラム国を利用しているのではないか??」

こう見ている。

だから、シリア空爆の第1の目的は、当然、

・反米親ロシアのアサドを守ることである

空爆のターゲットになるのは、アサド政権を脅かす

・イスラム国
・欧米が支援する「反アサド派」

である。

今、アメリカは、「プーチンはウソをついて、イスラム国ではなく『反アサド派』を空爆している」と批判しています。

こういう批判が出ることはわかっていた。それで、ロシアはこんなことを主張しています。

今回の空爆について、ロシア側は「シリア側の要請を受けており、合法的」と訴えている。

 

「米、オーストラリア、フランスによるシリア空爆は、アサド政権や国連安保理の承認を得ておらず国際法違反」(プーチン氏)との主張を強調し、ロシアの軍事行動の正当性を訴える狙いがある。

(毎日新聞10月1日)

ウクライナ情勢との類似点

シリア問題は、ウクライナ情勢と似ている部分があります。アサドと、2014年2月の革命で失脚したヤヌコビッチは、共に

独裁者である
反米親ロである

さらに、ウクライナのクリミア(ロシアに併合された)には、ロシアの「黒海艦隊基地」がある。つまり、「軍事的に重要」である。

同じようにシリアのタルトゥースには、ロシア海軍の拠点がある。

ロシアがクリミアを併合した一番の理由。それは、革命で政権についた親欧米派政権が、「ロシア黒海艦隊を追放し、NATO軍をクリミアに入れよう」としていたこと。

同じように反米親ロのアサド政権が崩壊し、親米傀儡政権が誕生すれば、ロシアは中東の重要な軍事拠点を失いかねない。それで、ロシアはアサド政権を守りたいのですね。

なぜ今空爆をはじめたのか? ロシアの情勢判断

シリア問題は、2011年末からつづいている。では、なぜ「今」空爆をはじめたのでしょうか?

まず、シリア問題がはじまったとき、プーチンは首相。大統領は軟弱メドベージェフでした。

2012年プーチンは大統領に返り咲いた。そして、上に書いたようなアメリカの「ウソ」を拡散することで、2013年9月に予定されていたアメリカ主導の「シリア戦争」を止めました。ちゃんと「シリア情勢」に関与しているわけです。

2013年11月、ウクライナでデモが活発になってきた。

2014年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が倒れた。同3月、ロシアはクリミアを併合。プーチンは、アメリカの「敵ナンバーワン」になり、厳しい制裁を受けることになった。それで、シリアに関与する余裕がなくなった。

しかし、2015年になってから状況が変わってきます。まず2月、ウクライナで「停戦合意」がなり、今も継続中。3月、「AIIB事件」が起こり、中国がアメリカ最大の敵となった。5月、米中は「南シナ海埋め立て問題」で対立。「米中軍事衝突」の懸念も聞かれるようになる。

同じ5月、米ケリー国務長官はロシアを訪問。「ウクライナの停戦合意が維持されれば、『制裁解除』もありえる!」と発言。

7月、アメリカとロシアは、「イラン核問題」を解決。9月末、習近平訪米するも、まったく歓迎されず。米中の対立が深刻であることが明らかに。

こういう状況の中で、ロシアは、

  1. アメリカは中国との戦いで忙しく、シリア問題に本気で取り組めないだろう。
  2. 欧州は、シリアからの「大量難民問題」で苦しんでおり、批判はしても、ロシアのシリア介入を歓迎するだろう。

皆さんご存知のように、欧州は今、シリアなどからの大量難民問題で苦しんでいます。なぜ、彼らは欧州に逃げてくるのか?

1つはシリアで内戦がつづいているから。

もう1つは、恐怖のイスラム国が勢力を伸ばしているから。

結局難民の流れを止める一番の方法は、「シリアを安定させること」しかない。でも、彼らはアメリカと一緒に「反アサド」ということになっている。だから、「アサドを支援してシリアを安定させる」という選択肢がとりにくい。

それで、口ではロシアの空爆に反対しつつも、本音では「プーチンがんばれ!」ということなのです。

というわけで、アメリカも欧州も、ロシアを非難する。そうなのですが、「実際何もできやしない」とプーチンは読んで空爆を実施した。

何度も書きますが、目的は「反米親ロ」の「アサド政権を守ること」。だから、空爆のターゲットは、「イスラム国」と「反アサド派」なのです。

アメリカメディアは、ロシアが「反アサド派を空爆した!」怒っている。アメリカは、「反アサド派」を支援しているので、怒るのは当然ですね。

しかし、上に挙げた2つの「仰天情報」を見てもわかるように、単純に、「アメリカは絶対善」「ロシアは絶対悪」ともいえません。

ただ、「事実はこういうことなのだな」と認識しておきましょう。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
≪登録はこちら≫

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け