横浜傾きマンション問題で注目されるようになった「建設工期」。『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』の著者・廣田信子さんはかつて関わったトラブル続きの物件の具体例を出しつつ、工期が短いマンションは買うなと警告しています。
工期が短いマンションは買うな!
こんにちは! 廣田信子です。
傾きマンション問題で、厳しい「工期」が、データ偽装や不良工事の背景にあると「工期」の問題がようやく俎上に。ほんとうにその通りで、やっとという思いです。
土地を仕入れた時から、借り入れた資金に金利が発生しますので、ディベロッパーはできるだけ早くマンションを引き渡して、代金を回収して金利を圧縮しようとします。ですから、ほんとうに工期がぎりぎりなんです。
杭工事も、できるだけ工期が短い工法が採用されますし、余裕のない日程で工事が組まれます。
そして、その予定でマンションを売ってしまうので、ちょっとしたアクシデントも許されないのです。もし、契約通りに引き渡すことができず、契約解除、違約金の支払いとなったらたいへんなことになります。
余裕がない工期は建物の品質に大きく係わるということに、ディベロッパーはあまりにも無関心です。できるだけ早く造って引き渡して資金を回収するのが重要という経済論理の元、マンションの品質は軽視され続けてきたと思います。
そして、マンションを購入する側も「工期」に無関心です。買う人の要望で、ただでさえ厳しい工期をさらに縮めるという無謀な突貫工事で造られたマンションすらあるのです。
私が以前、新築から管理を担当したあるマンション。施主検(ディベロッパーによる竣工検査)に立ち会ってびっくり。まったくできていないのです。こんな状況で、どうやって竣工検査ができるんだ~という状況です。買った人たちの内覧会の日程が迫っているので、とにかく手続きとしてやってしまおうという感じです。
で、どう考えても工事が遅れている状況なのに、施主が現場監督に対して厳しい言葉を言うこともなく、形式だけの竣工検査をしている様子に強い違和感を覚えましたが…、その理由は、鍵や書類の引き渡しの時に判明しました。
施主であるディベロッパー、ゼネコン、管理開始時の管理者である管理会社が立ち会い、共用部分の鍵、竣工図書を始めとする引き渡し書類を確認して受け取る場面です。
ディベロッパーの担当者が現場監督に深々と頭を下げ、「今回は、1ヶ月半も工期を縮めるというこちらの難題を聞いて頂いてありがとうございました。お陰で完売することができました」…と。
そうなんです。
工事が始まってから、何とか4月の学校の新学期に間に合うように引き渡してほしいという購入者の要望を聞いて、途中から工期を1ヶ月半縮める突貫工事に切り替え、3月末に引き渡しに間に合わせたというのです。
私は、正確には、この物件に興味を示した人に、「新学期に間に合うように引っ越せるなら検討するけど、完成時期が5月というのでは難しいね」という反応が多かったので、売るために工期短縮をゼネコンに頼み込んだというのが真相ではなかったのかと思っています。
突貫工事がどんな結果をこのマンションにもたらしたかは言わずもがな…です。
管理開始日になって引っ越しが始まっても、共用部分はまだ完全に工事中です。どうやって役所の竣工検査済証とったんだ?? いったん仮仕上げして、やり直しているの?? 状態です。
突貫なので専有部分も問題が多く内覧会での指摘事項も半端じゃありません。図面と間取りが違っていて、壊して造り直しなんていう部屋もありました。
価格と間取りが手頃なのか、幼稚園や小学校低学年のお子さんがすごく多くて、引っ越し直後に、入園式、入学式にお母さんと出かける子供たちの姿を見ると、工期を縮めても、この日に間に合って引っ越せたことは、意味があったのかと複雑な思いでした。
で、そのうち、当然、もっと本質的な問題が発生します。
その中でも、ほんとうに悩ましかったのは最上階での広範囲にわたる漏水です。直しても直しても止まりません。ちゃんとコンクリートの養生期間をとらずに型枠外したんじゃないかと疑ってしまいます。
他にもいろいろあったな~。
2年間は、不具合箇所の補修状況の確認が理事会の仕事の大部分でした。さすがに住民の皆さんも不安で、総会や説明会にはほぼ全戸が出席し、出る質問は、不具合箇所の修理に関するものばかりでした。全戸に共通する大問題だったので、誰も無関心ではいられませんでした。
で、私のできることとしては、とにかく情報を理事会に集めようということで、専有部分も含め、不具合箇所の情報を集め、理事会で進捗状況の確認をしていきました。ですから、常に理事会には、困った状況を抱えている居住者がオブザーバーで参加して、状況説明をしている感じでした。
結局、2年点検までに洗い出した不具合箇所が解消されるのには、さらに1年かかったと思います。屋上防水も結局やり直したと記憶しています。
その間、私もゼネコンやアフターサービスの窓口と何度、やりやったことか…。
何とか表に出ている不具合については3年でやり切ったと思いますが、工事を急いだことによってコンクリートの強度等に問題がないのだろうかと今でも気になっています。そんな不安を与えること、住民には言えませんが…。
ただ、怪我の功名ではありませんがあまりに問題が多かったために、居住者間のコミュニケーションはものすごく進み、とてもいいコミュニティが生まれていました。子供文庫も開かれ、とても子育てしやすいマンションと住んでいる方にも評判で、建物の不具合の苦労は何とか帳消しにしてもらえていたかな…。
でもね~。マンションの寿命を思ったら1ヶ月半はほんの一瞬です。1ヶ月半工期を短くしたことによってコンクリートの品質に影響があったとしたら…、そんなことはないと思いますが、もし杭工事に手抜きが生じていたとしたら…、と思うと何だか悲しいですね。
まず、マンションがかわいそう。もっと大切に造ってあげたかった…。もちろん、そんな事情をわかっていない区分所有者もかわいそう。大地震等で問題が起こらないといいのですが…。
そして、こんな工事をさせられたゼネコンもかわいそう…。やりたくなんてなかったはずです。
じゃあ、ディベロッパーがすべて悪い?
私はそうも思い切れません。買う側のニーズと売る側の姿勢はどこかで連動しているからです。どんなにいいマンション造っても価格と時期が合わなければ売れない…売る側の言葉です。
結局、お金と時間に縛らているという現実は、今を生きる私たちに共通の問題かもしれない…そう思えるからです。
ミヒャエル・エンデの「モモ」が頭をよぎりました。
そうは言っても、自己防衛のためには、工期が短か過ぎるマンション、複雑なつくりなのに工期が通常通りというマンションは買わない方が賢明だと思います。
image by: Shutterstock
『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』
マンションのことなら誰よりもよく知る廣田信子がマンション住まいの方、これからマンションに住みたいと思っている方、マンションに関わるお仕事をされている方など、マンションに関わるすべての人へ、マンションを取り巻く様々なストーリーをお届けします。
<<登録はこちら>>