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「米中が南シナ海で一触即発」は本当なのか?高野孟が読み解く

米国の「航行の自由作戦」の展開により、あたかも米中が一触即発のように報じられています。しかしメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』は、今や巨大な相互依存関係にある両国が開戦するなどありえないと断言します。

「米中が南シナ海で一触即発」というのは本当か?

夕刊フジの見出しを見ていると、米中両国は今にも南シナ海をめぐって戦闘に突入しかねない一触即発の危機にあるかに思えてしまうが、そんなことはない

米中の昨年の貿易総額は6,000億ドル近くで、米国にとって中国は第1位の輸入相手国第3位の輸出相手国であるし、また1兆2,600億ドルの米国債保有国でもあって、両国は国際関係史上かつて前例のない巨大な相互依存関係にある。従って、両国が死力を尽くして国家間戦争を戦うことのメリットは何もないどころか、世界第1位と第2位の両国経済が崩壊し世界が全滅状態に陥る。それは子どもでも分かる幼稚園レベルの世界理解である。

ところが、軍部というのはどの国でも、合理的な判断を超えた特殊な集団で、Think Unthinkable を思考の基礎に置く。「そうは言っても万が一に備えなければ」と軍部から言われて、それを退けることができる政治家は、中国ではもちろん米国でも少ない。またマスコミはどの国でも、センセーショナルな見出しの方が売れるという反知性主義に傾きがちなので、軍部や軍産複合体に繋がる連中が振り撒く勇ましい主張をクローズアップする。さらに一般国民は、それに簡単に煽られて「やっぱり中国はおかしいよ」という風に思い込んでいく。

もちろん中国は相当におかしいのだが、そこで大事なのは、現象論レベルの言説に流されることなく、実体論レベルで何が起こっていて、それを本質論レベルではどう考えるべきなのかという、知性を取り戻すことである。

米中は共に抑制的に行動した

米中は戦争するつもりなど毛頭ない、という前提で、今回、米中両国は極めて抑制的に行動した。

米国は、イージス艦1隻を、中国が南沙諸島の岩礁に造成した人工島の近海12カイリ以内に送り込んだが、その目的が「公海上の航行自由」は国際的な普遍原則であること、仮に中国がそこを領海と認識しているとしても軍艦の他国領海内の「無害通航」は妨げられないこと──を再確認させるためであると中国側に事前通告していた。そのため、中国側の艦船も距離を置いて見張るだけにして、危険な接近は避けた

しかし、ここにすでにいくつもの食い違いが孕まれており、問題は何重にも屈折して複雑骨折状態にある。

1.人工島を根拠に領海を設定していいのか?

米国の主張は、海面に出てもいない岩礁を埋め立てて人工島を造成してそれを起点に周辺12カイリに領海を設定するなど、国際法上、許されないことなので、これを黙認すれば中国が勘違いして、今後もそのような行動を繰り返すことがないよう、明確な警告を与えることにある。

もちろん、公海上に人工島を作ってそれを自国領と主張し、周辺に領海を設定することなど、どの国にも許されるはずがない。

2.スービ礁は公海上か?

ところが中国は、これを公海上とは考えてはおらず、いわゆる「九段線」の中の自国の支配領域内と捉えていて、その範囲内で人工島と作ろうと何をしようと、それは勝手であると思っている。つまり、スービ礁に人工島を作って、それで初めて周辺を領海であると主張し始めた訳ではないという立場である。

それに対して米国が中国の言う「九段線」をキッパリと否定して南沙諸島全体に対する中国の領有主張を退け、南シナ海全体を公海であると規定しているかというと、そうではなくて、南シナ海の島々の領有権をめぐる争いには一貫して「中立」を保っていて、中国、台湾、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイの関係6カ国が「話し合いで解決すべき」という立場をとっている。ということは、米国は必ずしも、中国が人工島建設で公海を浸食して領海としたのがけしからんとは言っていないのである。

3.軍艦の領海通過は国際法違反か?

つまり、中国の人工島周辺が中国の領海であるか公海であるかは、中米双方において必ずしも明確ではない。しかし米国は、仮にこの海域が領有権問題が係争中の公海であれば、「公海の航行自由」の大原則が守らなければならないし、仮に中国がそれを領海とするのであれば、「領海の軍艦無害航行」の原則が守らなければならないとする立場から、敢えて軍艦を派遣して、中国がどういうつもりなのかをテストすることにしたのだろう。

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image by: Wikipedia

 

 『高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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