今年3月、中国が世界中に「AIIB」の参加を求めたとき、多くの国が「中国についていこう」と参加を表明し、アメリカを裏切りました。その後、中国経済は一気に減速。いつしか、ほとんどの国が「中国はもうダメだ」と言い出しています。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、北野幸伯さんは「中国の不調は一過性ではない」と、長期に渡ることを示唆しています。
今や「中国はもうダメだ派」が多数
3月に「AIIB事件」が起こった時、全世界の国々(日本以外)が「アメリカはもうダメだ。中国についた方がお得だぞ!」と考えていました。
「AIIB」に参加を決めたのは、なんと57か国。
中には、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など、「親米国家」も数多く含まれていた。
「このままでは中国に覇権を奪われる!」と恐れおののいたアメリカ。
5月、突然「南シナ海埋め立て問題」を大騒ぎしはじめました。
(中国が埋め立てを開始したのは2013年。アメリカはずっと放置していた)
さらに、「中国経済はもうダメだ!」という情報が、毎日毎日アメリカのメディアに出てくるようになります。
もちろん、中国経済が数多くの問題を抱えていることは事実です。
しかし、「AIIB事件」前は、「中国はまだまだ発展する派」の人もたくさんいたのです。
今は、「中国経済もうダメだ派」がほとんどになっています。
たとえば、「ブルームバーグ11月20日付」は、タイトルが衝撃的。
中国ハードランディングが世界を揺るがすシナリオ-研究機関が警告
Bloomberg 11月20日(金)10時13分配信(ブルームバーグ):
中国の景気減速は既に世界中に影響を及ぼしつつあり、商品相場を押し下げ、貿易相手国・地域の重しとなっている。しかもそれは、中国経済がなお7%前後の成長を遂げている間に起きている。ハードランディング・シナリオでは何が起きるのか、想像してみてほしい。
「7%成長しているのに、こんなに悪い」「ハードランディングしたらどうなるんだ?」と問いかけています。
「7%成長している」と信じている人はほとんどいませんが…。
研究機関のオックスフォード・エコノミクスのグループが新たなリポートでその分析を試みた。そこに示されたのは、世界経済に関係のある全ての人にとって厳しい内容だ。中国経済は過去30年にわたって拡大基調にあり、現在では世界の国内総生産(GDP)の11%、世界貿易の約10%を占めるまでになった。資源分野での存在感はさらに大きく、世界の石油の11%、その他主要商品の40-70%が中国の需要だとオックスフォード・エコノミクスは指摘する。中国の金融システムは巨大で、広義のマネーサプライは米国を上回り、世界全体の20%余りとなった。 (同上)
「中国というのは、もはや巨大な存在なんだぜ」ということですね。
ちなみにIMFのデータでは2013年、アメリカが世界GDPに占める割合は、21.9%、日本は8.3%となっています。
影響が出ている一つの面は貿易だ。中国が輸入するモノの量は2015年1-9月に既に約4%減少。04-14年は年平均で11%増加していた。中国が今年1-9月の世界のモノの貿易の伸びを約0.4ポイント低下させたことになる。昨年までの10年間では年平均1ポイントの伸び率上昇につながっていた。最も影響を受けているのは密接な貿易関係がある開放型経済の国・地域だ。 (同上)
中国の輸入は今年1~9月、4%減少した。
中国の経済統計は「ほとんど信用できない」と思われている。
しかし、「輸出入」は、「相手国」がいるため、ウソをつきにくい。
それで「信頼できる」指標なのです。
「7%成長している国」の輸入が、「4%減る」ことがありえるでしょうか?
別の波及経路は商品価格を通じたものだ。特にここ数年、供給が大幅に拡大してきたことから、中国の一段の景気減速は商品相場のさらなる下落を招く。オーストラリアやブラジルのような資源国にとって悪いニュースだ。(同上)
「ここ数年、 供給が大幅に拡大してきた」というのは、アメリカ「シェール革命」のことでしょう。実際、アメリカは既に、原油生産でも、天然ガス生産でも「世界一」になっています。
さらに供給増加のファクターがあります。
今まで経済制裁を受け孤立していたイランは、7月に「核問題」を解決した。
イランが本格的に市場に戻ってくれば、これまた「供給過多」になります。
そこに、「中国の消費減」が追い打ちをかける。「資源国」の例として、「オーストラリア」「ブラジル」をあげています。
しかし、ロシアやサウジアラビアなども、大きな打撃を受けることでしょう。
「中国のハードランディングが世界を揺るがす」という題名のわりに、大げさでない記事です。
「現状認識」しているだけですね。
次ページ>>中国の経済危機は、すでに日本にも影響をおよぼしている
中国の来るべき経済危機が、世界に影響を与える構造
どんな経済危機も、構造は同じです。
中国は、世界GDPの11%を占めている(IMFによると、2013年12.2%)。
この国の景気が悪化すると、「消費」が減る。
すると、世界から「物を買わなくなる」(輸入減)。
そうなると、中国に輸出している企業は、生産を減らさざるを得なくなります。
所得が減った会社と個人は、「投資」も「消費」も減らします。
すると、「つくっても売れなくなる」ので、他の会社も「生産」を減らす。
こうして、「不景気のスパイラル」が世界に波及していくことになります。
中国消費減 → 世界生産減 → 世界所得減 → 世界消費減→ また世界生産減 → また世界所得減
以下、同じプロセスの繰り返し。
実際中国の景気減速は、すでに日本経済にも影響をおよぼしています。
少し古いですが、JETROさんのHPにはこんなデータが出ています。
ジェトロが財務省貿易統計と中国海関統計を基に、2015年上半期の日中貿易を双方輸入ベースでみたところ、総額は前年同期比12.1パーセント減の1,480億4,567万ドルで、上半期ベースでは減少に転じました(注)。輸出(中国の対日輸入、以下同じ)は10.8パーセント減の695億3,798万ドル、輸入は13.1パーセント減の785億769万ドルとなりました。
輸出、10.8%減ってすごいですね。中国に輸出している会社は、大きな打撃を受けていることでしょう。
中国の不調は「一過性」のものではない
ところで、中国について「現在の不調は一過性のものだろうか?」と誰もが考えると思います。
私は「一過性のものではない」と思います。
RPEでは、10年前から「中国は08~10年の危機を乗り越えることはできるが、2018~2020年に、深刻な危機に突入する」と書きつづけてきました。(ウソだと思う方は、過去の本をご一読ください)
08~10年の危機を超えることができた理由は、「国家ライフサイクルで、まだ成長期前期だったから」です。
2018~20年頃に起こる危機を超えられない理由は、「国家ライフサイクルで成長期後期の最末期だから」となります。
「国家ライフサイクル」。
はじめての人はわけわかりませんね。
ある国が荒れていた(移行期、混乱期)。
ある指導者が出て混乱を終わらせ、正しい経済政策をとりました。
その国は、賃金水準が安いので、「安かろう、悪かろう」で急成長していきます。
こうして「成長期」がはじまるのです。
「成長期」がつづくと、国民が豊かになっていきます。
ところが、国民が豊かになるということは、「賃金水準が高くなる」という意味でもある。
企業にとって、「生産拠点」としての魅力やメリットが薄れてくるのです。
そして、外国企業も自国企業も、「安い労働力」を求めて、他国に移っていきます。
1970年代に「世界の工場」になり、80年代に「一人勝ち」した日本も例外ではありませんでした。
いま中国で起こっていることも、同じなのです。
10年前、中国の人件費は、日本の20分の1ほどでした。
それが2013年には、5.7分の1になった。
日本企業は、「中国での生産はわりにあわないから、東南アジアに引っ越そう」となった。
インドネシアの人件費は、まだ日本の11分の1、ベトナムは20分の1。
だから、「中国で生産するのは損だ」ということなのです。
さらに、「円安だから日本に帰ろう」という動きも出てきています。
今後、中国から外国企業、中国企業が逃げる傾向は、ますます加速していくでしょう。
長くつづいた(今年廃止された)「一人っ子政策」による「労働人口減少」も、長期にわたって中国経済に打撃を与えつづけます。
というわけで、「中国で現在起こっている問題は、長期になる」と思った方がいい。
中国に期待していた欧州の国々も、ようやく気づきはじめました。
いまのうちから、対策を検討することをお勧めします。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
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