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中国が大量の「米国債」売り…そして加速する世界のドル離れ

昨年末に発表されたアメリカの利上げ。『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さんによると、この政策はリーマンショック後にアメリカが世界にばらまいた膨大な資金を回収するためとのことなのですが、引き上げられる側の新興国の多くに、その「痛み」などから基軸通貨をドルから人民元へ変更する動きが出始めているとも指摘しています。ドル基軸通貨制度崩壊につながるこの動き、止めることはできるのでしょうか。そして日本への影響は?

ドル基軸通貨崩壊と防衛

黒田日銀総裁のサプライズ賞味期限は2日しかなかった。世界のバブル崩壊をどう歯止めするか、真剣に考える必要がある。それと、バブル崩壊は米国のドル基軸通貨制度の崩壊でもある。

バブル崩壊にバブルを作り解消

最初のバブルは、1999年のITバブルであり、その過剰なドル流通量は10%UPであった。その崩壊で米国は、金利を引き下げて、住宅を買いやすくして、ITバブルで傷ついた銀行を救う。しかし、これが住宅バブルを生み、崩壊する。これがリーマンショックになり、世界の激震が起こった。この時のドル流通量は20%UPであり、まだ海外への影響が限定的であった。

このリーマンショクを受けて、米国は本格的に中国へ技術と資本を投入して、より大きなバブルを作る。FRBは量的緩和をして、この動きを支援した。QE1からQE3までに450兆円という膨大な資金を新興国などにばら撒いた。それまでの4.5倍という通貨量を流し込んだ。

このバブルの摘取期を迎えている。ばら撒いた資金を回収してバブルを防ぐというのがFRBの目的である。このための利上げであるが、ドル資金を摘み取られる新興国、ベンチャー企業、資源企業などに痛みが伴う。その痛みを今、世界は味わっているのである。もしかすると、バブル崩壊を引き起こす可能性があり、FRBもバブル崩壊にならないように注意して、その資金回収に向かうしかないのである。

非伝統的金融政策である量的緩和を行うと、それまでの資金量の数倍から数十倍の資金が出るので、バブルを起きやすくしてしまい、そのままにすると、今までに何遍も経験したバブル崩壊なるのである。しかし、現在、バブルの規模が世界的になってきたのだ。

江戸時代、各藩が藩札を出して苦境に陥った経験や戦後のインフレを味わっている日本も経験を持っている。このため、長らく量的緩和は御法度としていたのである。反省をしていたので、量的緩和をしなかったのだ。

それを1990年のバブル崩壊で、日本がゼロ金利でも浮揚しなかったので量的緩和をクルーグマンが提唱した。2008年米バブル崩壊でこの量的緩和を行い、ある程度成功して世界に広まったのである。しかし、その副作用が出てきたのだ。資金が市場にだぶつき、景気回復すると、いつバブルが起きてもおかしくない状況になってきた。特に米国で景気回復期になり、これから苦悩が始まる

新興国、資源国の苦境

米国資金をばら撒かれた中国の企業債務残高は、実に18兆ドルという膨大なものであり、そのうちでドル起債の社債もある。米国からの投資を受けるために人民元はドル・リンクしていたが、リンクすると、ドル高になってしまうので人民元も高くなり輸出ができなくなり、リンクを外して人民元を安くする方向である。

インドネシアもドルベースから人民元ベースに変更している。東南アジア諸国は、中国との貿易量が大きく、人民元ベースの方が安定する。このため、ドルから人民元に切り替えている。もちろん、準備預金もドルから人民元に切り替える。

資源国のサウジは、安全保障上からドルリンクを続けているが、米国は石油を自給できるようになり、サウジから買う必要がない。サウジも石油輸出としては中国の方が断然多い。

現時点、米国が中東離れを起し、イランとサウジの中間に位置して中立になることをサウジは恐れているのでまだドルリンクのままであるが、米国が安全保障的にサウジ離れをすると、ドルリンクを解消するはずである。しかし、米国も最新武器のお得意先であるサウジを手放すことはできず、外交的な位置としてはサウジ寄りにして、実行上は中立という際どい外交をしている。

というように、米国が資金を引き上げているので、中国やサウジなど多くの国で、ドルから人民元などに通貨基軸を変更してきているようである。ドルの通貨量が大きく出来たのは、今まではドルが基軸通貨であり、各国が準備預金をして、米国債などのドル資金化していたからである。

ドル基軸通貨制度崩壊と防衛

もし、ドルリンクを外す国が増えると、基軸通貨制度が崩壊するのであるが、各国は米国債を一斉に市場で売ることになり、ドルの長期金利がUPしてしまい、そのことでドル暴落になる。このため、より多くの国がドルリンクを止めることになる。ドル基軸通貨制度の崩壊である。現在、中国が米国債を大量に売り出しているが、まだ中国だけであるので、なんとか対応できるのである。

日銀はマイナス金利にして、金融機関は金利が大きい米国債を買う方向である。米国も日本に要求した可能性もある。

このように心配をする必要に米国はなってきたのである。このため、米国は追い詰められているのだ。ドルという米国の世界支配の道具が機能しなくなる危険がある。

米国としては各国のドルから人民元への準備預金のシフトを止める必要がある。特にこの準備預金を人民元化するのは、東南アジアである。この囲い込みをしないといけない。しかし、米国一国では、貿易量が少なく、中国の貿易量にかなわないので、TPPという仕組みを作り、アジアを米国離れから守りたいということである。

中国対米国の経済戦争が起きているということは、このことを指しているのである。

痛みでどうなる

米国投資機関は、新興国、米ベンチャー企業、シェールオイル企業などに今まで投資していたが、そこから資金を引き上げている。

このため、マルチプル・コントラクションが起きて、アマゾン(AMZN)-6.6%、ネットフリックス(NFLX)-7.8%、テスラ(TSLA)-6.9%、セールスフォース(CRM)-12%、フェイスブック(FB)-6%、スターバックス(SBUX)-6.7%などの急成長してきたベンチャー企業の株価が急落した。

とうとう、急拡大でも利益率が少ないか赤字のベンチャー企業からも、投資を引き上げているようだ。

米国債が売られ、かつドルリンク国が少なくなると、ドル高から一転ドル安にシフトする。この経路で、円高になり日本企業の外需の売り上げが剥げ落ち、かつ新興国、特に中国での売り上げが減り利益率は減少の方向になる。

来年度は日本企業全体で、20%程度の利益が減少する方向であり、株価が2万円になることはない。PERが15倍でも1.6万円程度と言う評論家もいる。

さあ、どうなりますか?

image by: S White / Shutterstock.com

 

国際戦略コラム有料版』より一部抜粋

著者/津田慶治
国際的、国内的な動向をリアリスト(現実主義)の観点から、予測したり、評論したりする。読者の疑問点にもお答えする。日本文化を掘り下げて解析して、今後企業が海外に出て行くときの助けになることができればと思う。
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