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【王様と私】日本人が気づいていない、ケン・ワタナベが掴み取った歴史的成功

(この記事は2015年6月に書かれたものです)

ミュージカルの本場ブロードウェイで『王様と私』の主演を勤め、目の肥えたアメリカの観客たちから高評価を得ている渡辺謙さん。実際に舞台を観た『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』の著者・りばてぃさんは、その熱意にしびれ、1人でも多くの日本人に観劇してほしいと言います。

渡辺謙さんの熱意にしびれた

今週、改めていろいろと考えさせられる出来事があった。なんだかんだ言っても、やっぱり今は、グローバルな時代なのだと改めて実感。

何があったのかと言うと、リンカーンセンター劇場で上演中の名作ミュージカル『王様と私』(The King and I)を観てきたのである。

19世紀のタイ・バンコクが舞台。タイの王様と、王室で子供たちの教育係を務めることになった英国出身のアンナ(ケリー・オハラ)が文化の違いから反発しながらも次第にひかれ合う、という物語。

文化や価値観の違いがどのように共有できるのか、と訴える作品で、「個人と国の在り方が問われている時代にやるべき作品だ」という明確なビジョンが掲げられているという点でも、ひじょーに興味深い作品だが、日本人にとっては、日本人俳優の渡辺謙さんが主演されているということで、今、最も注目を集めているミュージカルだ。

ちょうど偶然、25日に、日本でもNHKが「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも取り上げていたので、ご覧になられた方もいらっしゃるかもしれない。

〔ご参考〕 The King and I

渡辺謙さんは、2003年公開の『ラスト・サムライ』でトム・クルーズさんと共演し、アカデミー賞の助演男優賞にノミネート。2006年公開の『硫黄島からの手紙』では、主役の栗林忠道陸軍中将を好演した。

『硫黄島…』の監督は、アメリカを代表する俳優でもあるクリント・イーストウッドさん。この作品は、アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞・音響編集賞にノミネートされ、CNNは「今年のアメリカ映画で唯一『名作』と呼ぶことをためらわない映画」と評価。その他各種メディアからも尋常じゃない絶賛を受けた。

この2つの作品だけを見ても、超スーパー・スペシャルなハリウッドの大作映画であり、しかも、めちゃめちゃ評価が高い。

〔ご参考〕 ハリウッド映画から日本文化を学ぶ時代、小学校の総合学習にラストサムライはピッタリ?! 

今回、渡辺謙さんにこのミュージカル『王様と私』への出演依頼が届いた理由も、王様に相応しい俳優を探していた演出家のバートレット・シェール(Bartlett Sher)さんが、『硫黄島からの手紙』を見て、謙さんに一目惚れしたからだという。

また、東日本大震災の被災地支援のため、米ニューヨークで行われたチャリティー・オークションで、謙さんが詩の朗読をしたのに惚れ込んだという説もある。

いずれにしても、まぁ、素人が見ても、だいたいみんな、「謙さん、王様ピッタリじゃん。」って思われるだろう。

また、当初発表された公演期間は4月から6月までの3ヶ月間だったので、「謙さんなら、そのくらいやるでしょ。」みたいに感じちゃう気がする。

だから、たぶん、かなり多くの日本人は、渡辺謙さんが『王様と私』で主演されるというニュースを聞いても、別にたいしてそこまで驚かなかったのではないだろうか?

でも、冷静になってよくよく考えてみると、コレはとてつもなくすごい決断だ。

 

まず、渡辺謙さんには、TVドラマや映画や舞台での経験はあるが、ミュージカルの経験がない。まったくの初挑戦だという。歌って踊る練習が必要不可欠。しかも、ここで要求されるレベルは、世界最高峰のブロードウェイ水準。普通、55歳になった人が、そんな挑戦しようと思うだろうか?

さらに、謙さんは、そんなに英語が得意というわけでもない。これは本人も認めている。信じられない話だが、『ラスト・サムライ』のオーディションに合格してから、本格的に英語の勉強をはじめたという。これだけでも超すごい。

でもまぁ、確かに、ハリウッド映画と言っても映画では、最悪、撮りなおしできる。英語でのセリフに問題があっても、撮りなおしができる映画と、生でそのまま演技し続けなければいけない舞台とでは、要求される英語力のレベルは大違いだ。

さらに、映画と生の舞台とでは、実は、セリフの英語もまったく違う。舞台のセリフでは韻を踏んだり、日常会話では使わないような言葉遣いをしたりする。

セリフを届かせる距離も違う。だから、シェークスピアが書いたセリフのような演劇的な英語力を鍛える必要がある。

それだけじゃない。ミュージカルだから当然、歌もある。歌唱力も求められる。謙さんは過去に歌手としてCDを出したこともあるそうだが、今回は、すべて英語の歌だ。しかも、踊りながら歌うことになる。

いや、本当に55歳で、こんなハードルの高いチャレンジに挑戦しようなんて、よく思えたなぁと心から感心する。

何しろ、ミュージカル『王様と私』の上演時間は、15分の休憩を挟んで1公演あたり2時間55分(約3時間)もあるのだ!! これが、月曜日を除き、火曜日から日曜日までずっと毎晩!! (夜7時または夜8時開演)。おまけに、水曜日と土曜日には、昼の2時からのマチネ公演を含め、1日2公演、計6時間!!!!!!

プロのアスリートもビックリ。想像しただけで、ゾッとする。でも、主演の謙さんは、このスケジュールを3ヶ月、1人で体調管理し続けて、やり続けるというのである。

報道によると、単身赴任状態で、リンカーン・センターの近くに滞在するアパートを借りて、食事は、もっぱら自炊しているらしい。お昼ごはん用に、毎日、劇場に、自分で作ったおにぎりを持参するという。日本から奥さんが訪れることもあるようだが、基本は1人。お手伝いさんもいない。

たぶん、公演期間中は、余計なものを一切排除し、全身全霊をかけて、生活のすべてをミュージカル『王様と私』に捧げるため、だろう。

そりゃそうだ。もし失敗すれば、今まで積み上げてきた俳優としての実績が、すべて吹き飛んでしまうリスクすらあるわけで、ある意味、命がけと言ってもいい。尋常じゃない熱意を感じる。

謙さんは、自分がすでに出来ることや慣れたことだけやっているよりも、ギリギリ手が届くかどうかということに、挑戦し続けることにこそ意味があると考えているらしい。

うーむ、すごい発想としか言いようがない。しかも、ただ口で言ってるだけじゃなく、本当に実践していらっしゃるから、もう素晴らしいったらありゃしない。

もしかすると、渡辺謙さんのこうした考え方は、先ほど挙げた以下の疑問:

「いったいどうすれば、近年、ますます世界的に高い評価を受けるようになった日本の文化や伝統や、日本的な価値観や、日本人ならではの国民性や考え方などなどを武器に、チャンスを掴んで、世界で羽ばたくことができるのか?」

に対する1つの明確な答えなのかもしれない。

うーむ。

そういう意味では、チケット入手はかなり困難なようだけど、もし可能であるならば、できる限り多くの日本人の皆さんに、この謙さんの『王様と私』をご覧になって頂きたい。

謙さんの命がけの、本当の熱意を、1人でも多くの人に感じて頂ければ、なんとなく、日本の未来も何かが変わる気がする。

…っていうか、今の謙さんは、日本のマスコミにもっと評価されたり、注目されていい気がする。

日本のマスコミ関係者の方々は、しょーもないニュースを取り上げる暇があるなら、今の謙さんの生き様を、少しでも取り上げてくれたらいいのに。

なーんてことを漠然と考えていたら、突然、モデルのローラさんがまたニューヨークを訪れていらっしゃるそうで、

謙さんとの2ショット写真を自身のInstagramで公開し、話題を呼んでいる。

とニュースに(正確には、Instagramじゃなくてmobypictureだけど、まぁ、そのくらいの間違いはいいでしょう)。

今の謙さんが少しでも注目されることは素晴らしい。あと、こういう時にやってくるローラさんも、やっぱりすごい。

〔ご参考〕 Kenさんは男性としてほんとにかっこいいなぁ 

最後に、すでにご存知の方も多いと思うが、一応、このミュージカル『王様と私』のこれまでの評価についても書いておこう。

主役の王様を演じる謙さんの熱意によるものなのか(ご本人はまったく満足していない様子だが)、これまでのところ、歴史的と言っても良いほどの成功を収めている。

ブロードウェイ・ミュージカル業界の優れた作品や関係者を表彰する今年のトニー賞(授賞式は6月7日)では、謙さんご自身の「最優秀主演男優賞」(Best Leading Actor in a Musical)を含め、以下9部門にノミネート。

【2015 Tony Award Nominations】
◆Best Revival of a Musical
◆Bartlett Sher, Best Director of a Musical
◆Kelli O’Hara, Best Leading Actress in a Musical
◆Ken Watanabe, Best Leading Actor in a Musical
◆Ruthie Ann Miles, Best Featured Actress in a Musical
◆Michael Yeargan, Best Set Design of a Musical
◆Catherine Zuber, Best Costume Design of a Musical
◆Donald Holder, Best Lighting Design of a Musical
◆Christopher Gattelli, Best Choreography of a Musical

また、このノミネート発表を受けて、5月中旬には『王様と私』の週間チケット売上額は、100万ドル(1ドル=120円換算で1億2千万円)を超えてニュースにもなっている。

〔ご参考〕 Broadway Box Office: ‘The King and I’ Tops $1 Million 

渡辺謙さん、すご過ぎです。しびれました。本当に観に行けてよかったです。謙さんのお陰で、いろいろと考えさせられました。

ちなみに、『王様と私』は、高い評価と人気を背景に、当初、4月から6月までの3ヶ月の予定だった公演期間を、来年1月まで延長することが決定しています。

ただし、謙さんがそのままご出演されるかどうかはまだ未定ということですので、
もし可能なようであれば、やっぱり謙さんがご出演される6月末までにご覧になられた方が良いでしょう。

念のため、最後にもう一度、公式サイトへのリンクをどうぞ。

〔ご参考〕 King and I 

image by: Wikipedia

『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』 Vol.137より一部抜粋

著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。
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