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ここにも中国の影。米国に見捨てられた中東で今後起こりうること

「シェール革命」を起こしたアメリカと違い、まだまだエネルギーを中東諸国からの輸入に頼っている日本。しかし、米国が中東への興味を失った今、シーレーンの制海権の問題など、我が国への影響はないのでしょうか? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんが読者からのそんな質問に詳しく回答、さらに日本が今後取るべきエネルギー政策についても踏み込んだ意見を記しています。

日本は中東資源依存を減らすべきか?

読者のUさまから、こんなメールをいただきました。

アメリカが中東への関心を低下させた場合、日本のシーレーン確保が困難になると予想されますが、思い切って日本も中東から距離を取るという選択肢はないのでしょうか? エネルギーはアメリカのシェールとロシアに依存を切り替えて。

 

安全保障は南シナ海までに限って、マラッカ海峡から先は無視した方が、コストとリスクが安上がりな気がします。

 

そもそもアメリカが極東からも撤退したら話にもならないかも知れませんが、素人の思い付きですが、いつか記事内で教示していただけると幸いです。

ポイントは、この部分ですね。

アメリカが中東への関心を低下させた場合、日本のシーレーン確保が困難になると予想されますが、思い切って日本も中東から距離を取るという選択肢はないのでしょうか? エネルギーはアメリカのシェールとロシアに依存を切り替えて。

どうなのでしょうか?

日本の中東依存度は?

現在、日本で使われるエネルギーの約4割は石油です。そして、石炭ガスがそれぞれ2割強。そして、2013年時点で、石油の83.5%を中東諸国から輸入しています(国別でいうと、サウジが30.7%で1位。以下UAE22.7%、カタール13%、クウェート7.2%とつづく)。

天然ガス(LNG)を見ると、中東依存度は約3割(カタール18.4%、UAE6%、オマーン4.8%)。

特に原油は、中東への依存度が高いです。

アメリカと中東関係の変化

アメリカは、自身も石油大国ですが、消費量が多いので、輸入も必要でした。それで、中東、特にサウジアラビアとの関係をとても重視していた。ところが、「シェール革命」が起こり、アメリカは世界一の産油産ガス大国になってしまった。そして、中東への関心を失いました。

現在、アメリカは、中東の主要な親米国家サウジ、イスラエルと険悪な関係にあります。親イスラエルのトランプが大統領になれば修復されるかもしれません。しかし大きな流れを見ると、アメリカは、「自国にたっぷり資源があるので中東はあまり重要ではない」と考えている。ですからアメリカは、シェール革命前ほど中東に熱心にはならないと思います。

そうなると、読者のUさまが指摘される問題が浮上してきます。

アメリカが中東への関心を低下させた場合、日本のシーレーン確保が困難になると予想されますが

そうなんです。アメリカは、中東への関心を失う。中国は、中東への関心を失わず、ますます接近していく。そうすると、中東と日本を結ぶ海路は、「中国の支配下に入るのではないか?」。当然、こんな懸念が出てきます。

アメリカは制海権を渡さない?

アメリカは制海権を手放さない

世界的戦略家ルトワックさんは、全国民必読の名著、『中国4.0 ~暴発する中華帝国』の中で、こう語っておられます。

中国は空母を20隻建造しようとも「制海」は不可能だろう。なぜなら彼らがどこにいようとも、すべて港にはアメリカ軍が存在して、その奥の陸地にはアメリカの航空機が駐留し、アメリカの友好国や同盟国に囲まれることになるからだ。
(p141)

そして、ルトワックさんは、「中国最大の弱点」について言及します。

中国の最大の弱点は、アメリカと紛争を絶対に起こせない、という点にある。
(同上)

つまり、「アメリカは制海権を握っているので中国と戦えば必ず勝つ」というのですね。ルトワックさんによると、この状況は、50年たっても変わらないそうです。

う~む。

これに関して、私は二つのことを考えます。まず、「アメリカは本当に制海権を握りつづけるのだろうか?」という疑問です。理由は、

などなど。

もう一つは、中国もこれからどんどん悪くなっていきそうである。既に、「2015年、実はマイナス成長だったのではないか?」と言われている中国。今後も、1980~2000年代のような急成長は望めないでしょう。成長率はますます鈍化していく。

そうなると、「共産党の一党独裁のおかげで、我が国は高度成長を続けることができるのだ」という政権の「正統性」が消滅する。結局、経済危機は政治危機に転化していく可能性が高い。何が言いたいかというと、「中国は制海権を握れない」というルトワックさんの話も、「そうかもしれない」と思うのです。

日本はどうするべきなのか?

そうは言っても、中国が悪くなることを期待して「何もしない」というわけにはいきません。そこで、Uさまは、こんな提案をされています。

アメリカが中東への関心を低下させた場合、日本のシーレーン確保が困難になると予想されますが、思い切って日本も中東から距離を取るという選択肢はないのでしょうか? エネルギーはアメリカのシェールとロシアに依存を切り替えて。

これ、「中東依存度を減らし多角化する」のは、当然良いことですね。

日本は、「エネルギー自給率100%」を目指せ!

日本は戦前、石油の92%を輸入していました。そして、約80%をアメリカから輸入していたのです。アメリカは、「ABCD包囲網」でこの流れを断ち切った。日本が無謀な戦争を始めた主な原因は、「石油を止められたこと」だったのです。

当時と今で、状況は変わっているでしょうか? あまり変わっていません。日本は、中東を事実上支配しているアメリカとケンカできません。ケンカすれば、アメリカは中東を脅して、「禁輸措置」をとらせることができる。

アメリカが中東から去っても、次の支配者が日本ということはありえません。中国が中東を影響下におさめれば、やはり日本への禁油を強制できるようになるでしょう。

もし日本が第2次大戦と同じ道を歩みたくなければ、「エネルギー自給率」を上げていくしかないのです。ところが日本のエネルギー自給率は、たったの6%(!)。これで「日本の自立!」なんて叫んでも、むなしいだけです。ですから日本政府は、「エネルギー自給率を100%にする!と決意すべきです。「エネルギー自給」というと、

などが思い浮かびます。「自給率アップ安全保障」という観点をもって、これらもどんどん開発普及させるべきです。さらに、

本格的に開発することで、「自給率100%」も視野に入ってくることでしょう。

こういう話、頭から否定せず、「できるかもしれないよね」と可能性を探ることが大事です。アメリカだって、10年前は、「わが国の石油は2016年には枯渇する。どうしよう」と苦悩していた。それが今では、世界一の産油、産ガス国で、輸出まで開始しているではないですか?

アメリカが10年で激変したのですから、日本だってやればできるかもしれません。

image by: Shutterstock

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
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