社員の多少の失敗には寛大な会社でも、そこに大金が絡んでくれば話は全く変わってきますよね。もし、あなたが会社でミスをして莫大な損害を出してしまったとき、損害を全額負担する責任はあるのでしょうか? 無料メルマガ『「黒い会社を白くする!」ゼッピン労務管理』では、過去の判例を例に挙げながら、身近で充分起こりうるアクシデントの防止策を探っています。
社員のミスによる損害は、どこまで請求できるのか
人間は誰でもミスをするものです。ただそれが、友人とのLINEで、文字を打ち間違えるなどの軽いものであれば良いですが、仕事であれば、ちょっとしたミスでも大きな問題になってしまうこともあります。
以前、話題になった「ジェイコム株大量誤発注事件」は「61万円1株売り」とすべき注文を「1円61万株売り」と誤ってコンピュータに入力するというちょっとしたミスが原因でした。この結果としてみずほ証券は400億円以上の損失を出したと言われています。
では、このように社員がミスをして損害が出た場合その損害を社員に請求することができるのでしょうか?
それについて裁判があります。
ある石油輸送の会社でタンクローリーで石油を輸送中に別の会社の車に追突してしまうという事故が起きました。そこで、会社はその社員に会社のタンクローリーの修理費と、その追突した車の所有者である会社へ支払った費用(つまり損害の全額)を請求するため、裁判を起こしたのです。
では、この裁判はどうなったか?
事故を起こした社員は、損害を全額負担する必要があるのでしょうか?
裁判の結果、「損害の4分の1を社員が負担」となりました。つまり、4分の3は会社負担ということです。なぜ、社員が起こした事故に対し会社が4分の3も負担しなければならないのでしょうか。
その大きな理由として「労働者の活動から利益を得る使用者はそこから生じるリスクも負担すべき」との考え方があります。一般論として、法律的には、「損害を生じさせたら、その分を負担」が原則ではあります。ただ、会社と社員の場合は上記のような考え方が取られるのです。
また、この裁判の例では次のような事情もありました。
- 経費節減のため、対物賠償責任保険及び車両保険に未加入であった。
- (事故を起こした)社員は、普段は小型貨物自動車の運転業務に従事しており、タンクローリーには臨時的に乗務するに過ぎなかった。
- この社員の通常の勤務成績は普通以上であった。
つまり、会社の体制には問題がある一方で、社員には悪意や故意の過失がなかったということです。
似たような例は、他にもあります。ある裁判では会社の店長が取引先にだまされて発生した損害につき、「会社も2分の1負担すべき」とされました(つまり、この裁判でも損害の全額は認められなかったということです)。
いかがでしょうか? 「社員のミスまで、会社が負担しなければいけないのか」と、不満に感じる人もいるかも知れません。ただ、それは「社員がミスをしない仕組みを会社が考える必要がある」ということでもあります。
損害をどちらが負担するかを考えるよりミスをしない仕組みを作ることが会社にとっても、社員にとっても喜ばしいのは言うまでもないでしょう。
さて、そのためには、今なにができるでしょうか。
※ただし、社員のお金の不正取得や背任行為では、その損害の全額請求が認められた裁判例もあります。
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企業での人事担当10年、現在は社会保険労務士として活動する筆者が労務管理のコツをわかりやすくお伝えいたします。
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