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邦人、シリアで拘束か? 治安当局に泳がされている可能性も

3週間以上も消息がつかめず、安否が心配されている日本人ジャーナリスト・安田純平氏。トルコに入国後向かったシリアでイスラム過激派組織に拘束されている、という報道もあります。この件について元戦場ジャーナリストの加藤健二郎さんはメルマガ『異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで』で詳しく述べた上、不法入国の前科のある安田氏の入国を認めたトルコ政府の思惑について解説しています。

シリア:行方不明日本人公開可能情報 前篇

7月7~8日頃から、ジャーナリスト安田純平氏がトルコ~シリア地域で行方不明かも、という報道が出始めた。過去の人質事件などから、むやみに大騒ぎすることのマイナスを考えてか、日本政府もメディアもほとんど騒ぎ立てないまま日にちが過ぎ去っている。そのため、ここ本号でも、関係者が秘匿しようとしている内容については触れないよう記述しておきます。

メディアがいつから把握していたのかは知らないが、もし7月第2週だとしたら、今回は、首相官邸の方が先に把握していたことになる。7月3日の時点ではすでに関係各省庁の要所にこの情報はまわされていた

安田純平氏は、身近な友人知人にも内密にしたまま中近東へ向かったため、カトケン東長崎機関も彼が日本を出たことすら知らなかった。現地に通じてる友人も知らされてなかったという。このように友達関係には内緒にできたのだが、パスポートの出入国電子管理が一般化されているため、関係各国政府は、労せずして安田氏の移動経路を把握できていたことになる。

別の話によると、IS絡みで出入国をした多くの日本人が、トルコ入国を拒否されているようで、イスラム教徒ジャーナリストの常岡氏が、それを試して入国拒否に遭った件をツィッターでアピールしている。そのように入国禁止措置を厳しくしているトルコへ、2012年にシリアからトルコへの不法入国で逮捕された前科のある安田氏がなぜ入国できたのか。

治安機関が、ウォンテッドの人間を入国させる目的は、その人が会う人、動くルート、通信し合う相手などを監視追尾し掌握してゆくことである。フリージャーナリストは、個人で動いていろいろな人に会うので、治安機関としての収穫は大きい

ゲリラ隊長のような取材対象者だけでなく、案内人、通訳、運転手、それらの人脈を紹介してくれた難民とか。それらの中には、現地国政府と敵対する人たちが多いから彼らの個人情報をゲットできるのは治安機関としては、おいしい。また、連絡員や案内係を割り出せれば、複数の組織の関連もわかってきて、組織の全体図が見えてくる

ひと昔前だったら、尾行監視かもしれないが、最近であれば、携帯電話の番号を把握しておけばGPS追跡できる。トルコのような検問の多い国ならば、検問での所持品チェックで外国人ジャーナリストの携帯電話の番号とアドレスを抜くくらい簡単なことだ。

>>次ページ 治安機関に目をつけられた現地の人間はどうなるのか?

安田氏がどこかの組織に囚われているとした場合、ISだとかヌスラだとかいろいろな推測が出ている。案内人と金銭交渉などでトラブれば、日本人の人質を高く買ってくれそうなISに売り渡されることは、今年1~2月の人質事件でわかっているので、ヌスラと行動していても知らぬうちにISに、ということもある。で、今回の安田氏の件では、トルコ国内ですでに金銭交渉トラブルがあったとの推論もある。

今回の行方不明事件がトルコ治安機関のシナリオと考えると、ISにいたとしてもヌスラにいたとしても、トルコ治安機関の息のかかった組織という線が出てくる。ISもヌスラも、トルコ政府とはどこかでうまく繋がってるパイプを持っていないと、現在までの勢力維持も難しいはずだから、情報機関が相互乗り入れしているとみるのが自然だ。

さて、自分の意志で危険とわかっている場所へ行った日本人がこのように安否不明になると、同じ日本人ということを強く意識して「無事解放を願う」論と、「自業自得見捨てろ」論が盛り上がる。だが、カトケンのように戦争国を取材したことある者たちのホンネは「日本人の不幸が、戦争当事国の人の不幸よりも、悲惨で同情されるべき、ということはない。また、日本人だからといって強いバッシングをという必要もない」である。ある戦争の数十万人の戦死者の中に数人の日本人がいたとしても、それほど感情を動かされない。日々、日本国内で事件事故で死んでゆく日本人よりも、異国の戦場で死ぬ日本人の命の方が価値あるともかわいそうだとも思わない。

それよりも、東長崎機関的にいつも感じるのは「金や名誉が目的の外国人ジャーナリストの動きによって、治安機関に目をつけられて不幸な人生に急転直下する人間は少ないほうがいいよなあ」という点だ。イラクやチェチェンなど、「治安機関に目をつけられる」=「拷問の数週間」という国もあり、生きて出獄できたことで「無事でよかったね」と言われている陰には、拷問でズタズタな身体にされちゃった人は東長崎機関が直接お世話になった現地人にも複数いる。外国人ジャーナリストが1人犠牲になる周辺には、数倍かそれ以上の関連現地人が犠牲になっていると見てもよい。ただ「犠牲を避けていては真実は伝えられない」という論が、ジャーナリスト論の正論なのだそうだ。

image by: twitter

異種会議:戦争からバグパイプ~ギャルまで』より一部抜粋

著者/加藤健二郎(建設技術者→軍事戦争→バグパイプ奏者)
尼崎市生まれ。1985年早稲田大学理工学部卒。東亜建設工業に勤務後、軍事戦争業界へ転職。1997年より、防衛庁内局OPL。著書は「女性兵士」「戦場のハローワーク」「自衛隊のしくみ」など11冊。43才より音楽業に転向し、日本初の職業バグパイプ奏者。東長崎機関を運営。自分自身でも予測不可能な人生。建設業→戦場取材→旅行業→出版→軽金属加工→軍事戦争調査→探偵→バグパイプ奏者・・・→→次はなに?
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