ここ数年、若者の間で大流行している「チープカシオ」というデジタル腕時計をご存じでしょうか? G-SHOCKでおなじみのカシオが90年代から製造・販売する数百円〜数千円前後の格安時計の総称ですが、これが今20〜30代の若者を中心にファッションアイテムとしてバカ売れしています。今春、英国人男性が20年前に無くしたチープカシオを庭の土の中から見つけ、たった7分遅れで動いていたことが世界中で話題になったばかり。安くて丈夫な「チープカシオ」は、なぜここまで流行しているのか? メルマガ『【最も早くオシャレになる方法】現役メンズバイヤーが伝える洋服の着こなし&コーディネート診断』の著者・MBさんが、このブームの源流から、服との合わせ方までを詳しく解説しています。
「チープカシオ」は何故流行っているのか? トレンドの源流から合わせ方までを論理的に解説します
「チープカシオ」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
今、巷で大きな流行となっている時計のこと。
1000円程度の格安カシオ製ウォッチのことです。
「チープ」と聞くと安っぽい印象ですが、国産良質品の代表格でもある「Gショック」の源流とも言えるカシオ時計。
今回は流行品である、この「チープカシオ」を、あくまでもファッション的に解説します。
そもそも「チープカシオ」は何故いまさら注目を浴びているのか?
ホームセンターなどでも売っている1000円台のカシオ。
もちろん今になって、カシオがことさらに力を入れて売り出しているワケでもありません。
何故今注目を浴びているのでしょう?
実は偶発的に起こったトレンドではなく、チープカシオが流行する流れはきちんと説明できるものです。
まず「時計」と言われてパッと思いつくのは「アップルウォッチ」。
世間の注目を浴びていたアップル社の製品です。
MacやiPhoneなどを手がけてきたアップル社が初めて手がけるウェアラブル製品(身につける製品のこと)。
アップルはファッション雑誌などにも露出を強め、世界各地のファッション誌に広告展開を行っています。
実はこの「アップルウォッチ」、何もポッと出で注目されているのではなく、明らかに流行の下地がありました。
時計業界を振り返ると大きな出来事が1970年代に一つあります。
それは「クォーツショック」。
それまではロレックスなどに代表されるゼンマイ駆動で動いていた職人が作る「機械式時計」が時計のメインストリーム。
しかしそこに、水晶振動子で科学的に作られる「クォーツ式時計」が登場したのです。
職人が細かい仕事を手作業でこなして作る高価な「機械式時計」に対して、工場で低コスト大量生産が可能な上に、時計としての精度が圧倒的に高い「クォーツ式時計」。
勝敗は誰の目にも明らかでした。便利で圧倒的に安い価格、そりゃ誰もがクォーツを買うでしょう。
日本のセイコーが手がける「クォーツ式時計」に押され、バタバタとスイスの時計会社は倒産していきました。
なんとスイスの機械式時計会社は10年で全盛期の半分以下まで会社数が減ったと言われています。
その後、「機械式時計」はその職人気質な作りが再評価され、シェアは失ったものの「高級嗜好品」として生き残る道を作りました。
G-SHOCK Camouflage Dial Series GA-100CF
その後クォーツ製品などのデジタル時計は90年代などに最盛を迎えます。
Gショックなどのフューチャーライクなデザインが注目され人気となりますが、ファッションの流行には必ず揺り戻しがあるものです。
2000年代になるとベッカムなどをはじめとした、
「セレブファッション」
「ラグジュアリーブーム」
が流行となりました。
再び高級志向の「機械式時計」は再評価されるとともに、老舗時計ブランドなどもきらびやかな装飾を施した時計などをリリースするようになりました。
そうしてGショックは、
「安っぽくてイマイチ」
「子供っぽい」
などの手のひら返しをされてしまいます。
流行は「らせん状」に繰り返す
しかし2010年代に入り、再び「フューチャーライク」なデザインが流行となってきました。
そしてその流れを汲んで満を持して登場したのが「Apple Watch / アップルウォッチ」というわけです。
クォーツショックから、フューチャーデザイン → 高級志向 → フューチャデザインと、繰り返している流行が理解できると思います。
しかし以前KnowerMagでも書いた通り、流行とはそのまま同じことを繰り返すものではありません。
微妙な変化と進化を加え、ある種、スパイラル状に螺旋を描くように流行とは繰り返すのです。
例えばオジサンの定番アイテム「セカンドバッグ」。
80年代までは丸みのあるカジュアルなデザインが定番ですが、2000年代「80年代リバイバルブーム」で出てきた新たな潮流のセカンドバッグこと「クラッチバッグ」は直線的な四角いデザインが目立ちます。
流行は繰り返すものの、わずかに変化を加えながら螺旋状に続いていくものなのです。
そしてクォーツショックから繰り返してきた時計の流行も同じです。
今回のフューチャー志向のトレンドは、90年代に流行ったものと違い、「レトロフューチャー」と呼べるもの。
アップルウォッチなどは特にそれを意識していますが、斬新で前衛的な、純粋な意味での「フューチャー」デザインではなく、どこかレトロな表情を感じるデザインとなっています。
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例えるなら「鉄腕アトム」など70年代、80年代の人たちが夢見て憧れていた「未来の想像図」。
あれに近いものです。ああいった「旧世代のフューチャーデザイン」のことを「レトロフューチャー」と表現します。
斬新で新しいフューチャーライクなデザインではなく、どこか懐かしさを感じるレトロフューチャー。
それを証明するのがアップルウォッチの「ミラネーゼループ」です。
アップルウォッチの人気モデルである「ミラネーゼループ」。
このチェーン状のミラネーゼベルトはアップル独特のデザインと言うわけではなく、1950年代あたりの時計によく見られる形状です。
アップルは「レトロフューチャー」の潮流を意識してデザインを組んでいることがよくわかります。
このクラシカルなバンドに丸みを帯びた四角い形状のボディを合わせることで、「どこか懐かしさを感じるレトロフューチャー」を表現していることが理解できるかと思います。
チープカシオは流行るべくして流行っていた
そんな「レトロフューチャー」の潮流の中で、感度の鋭い若者たちが見つけたものが「チープカシオ」。
初期段階で流行発信した方々は、「あれ?これでいいじゃん!」とホームセンターで見つけたのかそれは定かじゃありませんが、レトロフューチャーのトレンドを体感的にでも理解しており、「レトロだけど未来志向のデザインがオシャレ!」という感覚でチープカシオを発掘したのです。
電卓の他、電話番号を最大25件メモリーできる「DBC-611G」
「Gショックと同レベルの機能性を持っているのに安いから流行ってる」
「かわいいから」
「何にでも合うから流行っている」
などとテキトーに書き連ねたサイトやブログが散見されますが・・・きちんと流行を見れば「チープカシオ」は理屈通りに、評価されるべくして評価され、市場に需要を生み出しているのです。
また時計視点から語ってしまいましたが、時計もファッションもデザインの流行はリンクするもの。
チープカシオを見て「ノームコア」(※編集部注:「超・普通」、normal+hardcoreを合体して略した造語)を連想した人は鋭いです。
ああいった「普通の時計」が評価されるのは、ノームコアの影響もあるでしょう。
今のトレンドが純粋な「フューチャー」デザインではなく、誰もが馴染み深い「レトロフューチャー」となっているのも「ノームコア」の一潮流だと認識するのが自然ですね。
合わせ方は「ドレスとカジュアルのバランス」を意識せよ
さて、前述の通りですが
「チープカシオは何にでも合うし!オシャレ!」
なんて説明丸投げの解説も目立ちますが・・・もちろんそんなワケはありません。
ファッション的に合わせるべきスタイルを少し考えてみましょう。
チープカシオといってもいろいろありますが、多くはカジュアルなデザインのものでしょう。
こんな感じのカジュアルデザイン。
何を持って「カジュアル」と言っているか?と問われれば、「スーツを連想してください」と答えます。
スーツスタイルに使うものがドレスであり、それ以外がカジュアルであるという定義が最も「ドレスとカジュアル」を簡単にわかりやすくしてくれます。
スーツには基本、アナログ時計、シンプルなものを使いますね。
逆にこういったデジタルで装飾のある時計はカジュアル時計です(感覚的にも分かるかとは思いますが)。
KnowerMagで何度も述べている「ドレスとカジュアルのバランス」から考えれば合わせ方はわかります。
カジュアルな時計を、Tシャツやデニムスタイルで合わせてはいけません。
スタイルを言葉通りチープで子供っぽいものにしてしまいます。
合わせるならばドレスライクなスタイルです。
こういったドレスライクなカッチリとしたスタイル。テーラードジャケットやシャツやニットなどを使った小綺麗なスタイルに合わせてこそ、時計がチラリ見えた時に「グッとくる」のです。
こういった「ドレスとカジュアルのバランス」こそがメンズファッションをオシャレにさせる秘訣です。
洒落たジャケットからチラリとのぞくからこそオシャレに見えるのです。「チープ」をチープに使ってはいけません。
おしゃれの本場である海外のファッションスナップ見れば分かる通りです。
「街着のオシャレ」とはミックス感が大事です。
スニーカーをデニムやTシャツなどではなく、スラックスや細いパンツ、ジャケットなどに合わせるからオシャレになるのです。
ミックス感、「ドレスとカジュアルのバランス」こそがオシャレの方程式です。
「じゃあチープカシオはTシャツ、デニムにつけちゃいけないの?」
と思うかもしれませんが、デザインを見て、論理的に考えれば判断がつくはずです。
このようにアナログ時計でシンプルなデザインのチープカシオならば、Tシャツやデニムスタイルのドレス要素(わずかですが)として機能してくれるでしょう。
オシャレやコーディネート、組み合わせや着こなしというのは、決して感覚的に語られるものではありません。
客観的に見て「あの人オシャレだね」という評価がされるということは、一定の法則があるということです。
論理性を意識して、「どれにどれを合わせればオシャレなのか?」を考えれば、オシャレは誰でも簡単に、お金もセンスも使わず、明日にでも実践できるものなのです。
巷で流行の「チープカシオ」。
流行だからと思考停止で合わせたりせず、論理性を持って組み合わせを考えれば、あなたを自然と「ほかの人と違う、目立つオシャレさん」にしてくれることでしょう。
image by: Instagram(@hrrrrrr6)
著者/KnowerMag MB
現役メンズファッションバイヤーであり、月間100万PV以上を誇る人気サイトKnowerMag運営者。読んで実践すれば必ずオシャレになれるメルマガは読者急増中!
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