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現時点で見えた「トランプ政権」の輪郭を、しっかり分析していく

世界中が驚いた、ドナルド・トランプ氏の米大統領選の勝利。その政策や方針が徐々に明らかになってきていますが、まだまだ不透明な部分が多く、各国のマスコミは「世界や日本はどうなってしまうのか」と、少々煽り気味な報道を垂れ流している状態です。 そんな中、メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』は、前号に続いて緊急号外を発行。著者でアメリカ在住の作家・冷泉彰彦さんは「トランプ政権の輪郭、見えてきた部分」と題して、新政権誕生を受けたアメリカ国内の反応、今後の政策方針、脇を固める人事、そして日本がとるべき外交姿勢について、今回も緊急号外ならではの箇条書きで綴っています。

トランプ政権の輪郭、見えてきた部分(速報メモ)

11月10日の朝(日本時間)にお届けした号外版では、トランプ次期大統領の当選直後の雑感、そして様々な動向についてメモ書きでお届けしました。

今回はもう少し「まとまった」論考をと思ったのですが、引き続き、かなりのスピードで事態の推移がありましたので、前回同様のメモ書きでお届けしたいと思います。

本格的な「新政権論」について、整理できるのは、まだ少し先になりそうです。

▼とにかく、スピード感があるのは良い。トランプ次期大統領は、当確後30時間と少しでオバマに会いに行き、その後は日替わりで人事、政策の話がドンドン出て来ている。ただ、走りながら考えている、走りながら調整しているという面も相当にあり、まだまだ試行錯誤が続きそうだ。

▼一方で抗議デモはなかなか止まない。ニューヨークでは連日行われているし、市警も五番街を開放してデモを許可している。ルートは南のユニオンスクエア(14丁目)で集合して、五番街を北上、デモ隊としてはトランプタワー(五番街と57丁目の交差点)まで行きたいのだろうが、ここはとにかく鉄柵と装甲車で厳重に警備されているので、その少し前ということで「54丁目のユニクロ前」で止められて、そこでシュプレヒコールという感じになっている。

▼NYU(ニューヨーク大学)のムスリム学生用の祈祷室前に書かれた「トランプ!」という落書きは、かなり波紋を呼んでおり、同様に「白人オンリー」など「ヘイト落書き」は全国で散発的に発生している。

▼これに対してトランプが自身の口から沈静化を図ったのは良かった。CBSの「60ミニッツ」のインタビューで、司会のレスリー・スタールが「ラティーノ(ヒスパニック)とムスリムが嫌がらせ(ハラスメント)に遭っている」と指摘すると「私はこれを聞いて悲しくなった。これは止めて欲しい、そう申し上げる。カメラに向かっても申し上げる、止めて欲しい」とハッキリ述べたのである。「イスラム教徒の入国禁止をウェブサイトから削除したことと併せて、当然ともいえるが、重要な動きだ。

▼政策の関連だが、オバマケア廃止」という強硬姿勢は修正するようだ。もっとも、トランプは選挙戦の初期から「オバマケアは不十分」だとして、「日本やカナダのような皆保険」を主張していたし、ある時には「サンダース派へのラブコール」という人脈で似たようなことを言っているので、驚くには足りない。だが、共和党の主流派の方で「廃止論」を今でも言っている勢力があるので、調整には色々なジグザグがありそう。

▼「同性婚は支持するが中絶の合憲判例への変更は支持というあたりは、選挙戦での言説どおり。但し、後者は民主党系の世論が受け入れるとは思えず、国論二分の大変な事態になるかもしれない。

▼ということは、年内の「レイムダック議会」で、オバマの推した最高裁判事候補ガーランド判事の承認はないだろう。もっと保守派の人物にスイッチして、1月の新議会でという流れになりそうだ。

不法移民摘発は犯罪歴のある人だけメキシコの壁はフェンスのみとの発言も出た。犯罪歴のある不法移民については、今のところ300万人を強制送還と言っているが、物理的に無理なので更にトーンダウンするのではないか。

▼ただし、TPPについては、極めて具体的に反対してきたので、分からない。NAFTA(北米自由貿易協定)は完全には潰せないので、象徴的な意味でTPPへの反対は続けるのではないか。名前を変えるとか、再交渉というような「生ぬるい」対応でも難しいように思われる。

▼そんな中、14日(月)の午後。オバマ大統領が記者会見をして、「トランプ次期大統領は自分に対して、NATOにはしっかり関与すると明言した」として、「私はその旨を欧州の各首脳に伝える」と言明。この「慌てて欧州首脳に伝えて既成事実化しよう」という拙速さに見られる「狼狽すれすれのニュアンス」はちょっと気に入らない。

▼気になるのは対ロシア外交だ。14日の月曜日には、トランプが当選後初の電話会談をプーチンとやったそうだが、現時点では詳細は不明。大変に気になるところだ。

▼とにかく、国際紛争全般におけるアメリカの抑止力が消滅した場合、ロシアがアメリカや西側諸国の結束を「試す」動きをしてくると、世界の不透明感が増す。そのテストは、まずシリアだろう。アレッポ、ラッカ(?)の戦闘にロシアがどう出てくるか、そしてトランプ政権がどう振る舞うかは極めて重要。

政権人事が始まった。まず、全体像としては以下のような構図が見られる。

▼第1グループとして保守系の優秀なブレーンをどう使いこなすか、すでにワシントンでは多くの「まともな」人材が次期政権への売り込みを開始しているが、そこからしっかり一流を見抜いて抜擢できるか。

▼第2グループとしては、それでも「コアの支持者を納得させられるようなユニークな政策」をどこかに「まぶす」必要があるし、選挙運動初期からの功労者にはポストを配分しないといけない、つまりトランプ色を完全には消せない、そのバランスがどう作れるか?

▼第3グループとしては、実はトランプの政策のかなりの部分がクラシックな民主党政策、民主党系で国民の信頼があり、共和党とも協調できる人間を取り込めるかも重要なポイント。

▼レインス・プリーバス(共和党全国委員長)をチーフ・オブ・スタッフというのには、1と2の妥協を期待してというニュアンスを強く感じるが、彼は豪腕ではないので、先行きは分からない。もしかしたら持たないかもしれない。とにかく、3月にはトランプ下ろしを画策して失敗、今度は7月にはトランプ勝利確定に動いたという変節漢であるし、そもそも「そんなに大物ではない」。

▼政権移行委員会のトップを、クリスティNJ知事からペンス次期副大統領に代えたのは良い兆候。第2Gから第1G重視にシフトということだろう。ちなみに、同性婚支持をハッキリ言ったのは、(これは選挙運動中からブレてはいないが)ペンス氏などの「宗教保守派」の勝手にはさせないという政治的駆け引きも感じられる。

▼個人的な期待感は、アシュトン・カーター国防長官の留任だが、これは無理だろう。オバマがブッシュ後半のゲイツ国防長官を留任させたのとは文脈が違いすぎる。カーター氏は、ここ数ヶ月、トルコ、イラクの現地視察で、込み入った現場の情勢をようやく把握しつつあるだけに、続投させたいが。

▼軍の関連では、共和党政権らしく軍備の更新には積極的なようなことを言っているが、まだ序の口。例えば、オバマが途中でキャンセルした「究極の戦闘機F22」や「ハイテクの塊である次世代駆逐艦の「ズムウォルト級の増備を再開するようならホンモノ。まだ、そこまでは言い出していない。

政権への家族の関与というのは、一見すると公私混同でおかしいが、ビジネスも子どもたちとの集団指導でやってきているので、仕方ない面もある。それに親父さんより常識的な人々特に長女とその夫、あるいは次男)なので全く悪い動きではない。第1Gにシフトするという動きも、子どもたちの意向が入っていそう。

▼それより、一家のビジネスをどうするのか、利益相反は絶対にダメなので、全部売っぱらうしかないのでは?

▼17日には、安倍首相が会談を行う予定だが、とにかく悪いアイディアではない。トランプ側が人事も政策もできていない時期に、堂々と胸を張って会うのは決してマイナスではない。ただ、一瞬で人物鑑定をやる才能がありそうなので、絶対にナメられてはダメ。胆力と、瞬発力で負けてはダメだ。日本人独特の謙遜や卑下というのは、このリアリズムの塊のような人物には通用しない。

▼日米関係の今後だが、本来は、日米というのは、アメリカの太平洋戦略の要(かなめ)と言っていい重要政策。戦後のアメリカは、国連に加盟し、日米協調を行うという「国のかたち」を選択してきた。だから、理由なく変更というのはあり得ない。だが、これだけ「日本批判」を言い続けて当選した以上、何も変わりませんでしたというのは、難しい。

▼例えば、日米安保の防衛負担費について「思いやり予算」という言い方があるが、この言葉は、ワシントンの日本語のできる知日家の間で、ものすごく評判が悪い。俺たちが守ってやっているのに「一国平和」とか「戦前回帰」とか勝手なこと言いやがって、そのくせ負担費を「思いやり」というのは我慢できないというわけだ。せめて、こうした「言い方」だけでも「トランプ時代のワシントン」から文句を言われる前に改善できないものか。

▼また沖縄でヘリなどの事故があって米兵が負傷した場合に、「危ないじゃないか」といって批判されるというのは、多分この機会に「もう少し何とかしてよ」というのは出るのではないか。身体を張って守ってやっているのに、怪我した若い米兵にお見舞いの一言ぐらいないのか、そのぐらいは言いそうだ。その辺については、オバマやケネディ大使のような「物分りの良さは期待できない。この辺の話も、国の威信を壊してまで卑下する必要はないが、かといって現状でそのままというのは危険だ。

在日米軍撤退まで行く可能性は少ないと見ている。今申し上げた負担費の名称とか、双務性、特に大事なのは地位協定を改善しつつ、沖縄の米軍に対してウエルカムという国と沖縄としての姿勢を見せることができれば、日米安保の「実」の部分は守れるのではないか。

▼気になるのは台湾と韓国。明らかにトランプのアメリカが「守る意志を弱めてきた場合には、危険な力の空白が生まれる。こうなったら、尖閣とか南シナ海というような問題は、まだ枝葉末節に思えてくる。とにかく台湾と韓国だ。

▼台湾は「脱原発」や「中華民国のアイデンティティー」などと、民進党色を出そうと蔡英文主席が頑張っているが、トランプ政権登場という文脈からは、何ともズレまくりという感じがする。韓国に至っては、力の空白への恐怖、つまり大統領の求心力と、米国のプレゼンスの双方が空白化することへの危機感が薄すぎる

▼経済だが、とりあえず円安ドル高で来ているが、あくまで「トランプ=強いドル」という思惑から来ているのではないか? トランプは、確かに連銀批判を繰り返しており、そうなると緊縮とドルの高値誘導になるのかもしれないが、必ずしもそうとも限らない。緩和継続も十分にある。公共インフラ拡充で内需喚起という政策は、要するに緩和とセットでバブル許容政策にというメッセージにも取れるからだ。12月の連銀の利上げ、もしかしたら見送りかもしれない。

image by: Joseph Sohm / Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。「ニューズウィーク」日本版にてコラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」を連載。また、メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。

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