MAG2 NEWS MENU

米軍も失笑。中国海軍が報復で盗んだ「無人潜水機」のその後

先日、南シナ海で中国海軍の艦船に米海軍の無人潜水機が奪われた「事件」。これについて無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』の著者で中国情勢に精通する石平さんは、「一つの中国の原則というアンタッチャブルな部分を無視して、トランプ氏が台湾総統と電話会談に踏み切ったことに対する中国側の牽制だ」との見方を示しながらも、それらの行動に全く動じないトランプ氏の態度に戸惑う中国の「極めて不利な現状」を伝えています。

「一つの中国」覆すトランプショック 翻弄される習政権は無為無策に陥った

昨年末を飾った、米中間の意外な出来事は、南シナ海の公海で米海軍の無人潜水機が中国海軍の艦船によって捕獲された一件である。

12月16日、米国防総省は捕獲の事実を発表して、中国側に速やかな返還を求めた。それに対し、中国国防省は17日に無人潜水機を奪ったことをあっさりと認め、「適切な方法を通じて米軍側に引き渡す」と表明した。そして20日、中国国防省は声明を発表し、同日昼に潜水機を米軍側に引き渡したことを明らかにした。

これで一件落着であろうが、問題は、この騒ぎが一体何だったのかだ。

米軍が無人潜水機を使って南シナ海で偵察や海洋調査の活動を行うのは以前からのことだから今になって中国海軍が突如、米軍にけんかを売る形で潜水機の捕獲を実行したのは何らかの特別な理由があるはずだ。

タイミングからすればそれは、台湾総統との電話会談に踏み切って「一つの中国の原則」をないがしろにしたトランプ次期大統領への対抗措置であろうと解釈する以外にない。実際、日本と海外の主流メディアの多くは、「台湾問題の関連でトランプ氏に対する牽制けんせい・警告だ」との見方を示した。

つまり中国が、「一つの中国の原則」を壊そうとしたトランプ氏への反撃として上述の行動に打って出たわけだが、よく考えてみれば、この肝心の「反撃行動」自体、いかにも姑息にしてピント外れのものであった。

持ち主のいないところでその所有物をこっそりと盗んだ程度のことなら相手に対する有効な「警告」になるはずもないし、ましてや持ち主に一喝されて盗んだモノをあっさりと返すようなやり方は、国際社会の笑い種となることはあっても、トランプ次期大統領に対する「牽制にはまったくならない

実際、中国側が「返還する」と表明したのに対し、当のトランプ氏は冷笑的な態度で返さなくても良いと突き放した

本来なら、中国政府からすれば「一つの中国の原則」は自らの「核心利益」に関わる基本原則であるから、それを侵すような行為は断固として許せないところだ。しかしこの原則を公然と踏みにじったトランプ次期大統領に対し、今のところ、習近平政権は上述のような姑息な手段を使った以外には、何の有効な反撃措置をも打ち出せていない

この場合、しばらく自重してトランプ政権が発足してからの動向を見極めるのも、あるいは今のうちにトランプサイドに決定的な一撃を加えて中国の本気さを思い知らせるのも、中国にとっての合理的選択肢となるのだが、結局習近平政権は、この2つの合理的行動のいずれかも取ることができなかった。彼らは結局、米軍の無人機を盗み取るような姑息な行動で自らの反応を示し、中途半端な形でその幕引きを図った。

しかしそれは、「確信犯のトランプ次期大統領に何の警告的な効果もないこともさることながら、台湾問題に関するトランプ氏の言動に批判的なオバマ政権にまで無意味なけんかを売ることとなった。そしてその行動は結果的に、政権の交代とは関係のない米海軍を敵に回してしまい中国に対する敵愾(てきがい)心をより一層刺激することになったはずである。

このようにして、「一つの中国の原則」を覆そうとした「トランプショック」に対し、習近平政権はどうすればよいのか分からないような戦略的混乱と無為無策に陥っている。逆に言えば、台湾問題を持ち出して中国に揺さぶりをかけるトランプ氏の戦略は、緒戦段階から大きな成果を収めているのである。

「トランプ氏は与(くみ)しやすい」という当初の中国国内の楽観論はこれで完全に裏切られた。そして12月25日、中国の空母艦隊はとうとう第1列島線を越えて西太平洋へ入った。

米中対決は今年から本格化していくのではないか。

image by: Shutterstock

 

石平(せきへい)のチャイナウォッチ
誰よりも中国を知る男が、日本人のために伝える中国人考。来日20年。満を持して日本に帰化した石平(せきへい)が、日本人が、知っているようで本当は知らない中国の真相に迫る。
<<登録はこちら>>

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け