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現役医師が語る、福島と韓国で甲状腺がん患者が急増した真の理由

福島第一原発事故以降、日本でも注目を集めている「甲状腺がん」。近年は、韓国でも罹患者が急増していると言います。その原因は北朝鮮の核実験なのでしょうか、それとも他に原因が? メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』では、著者で現役医師の徳田先生が最近発表された研究でわかった「驚きの真相」を報告。徳田先生は、なぜ甲状腺がん検診の見直しを推奨しているのでしょうか?

甲状腺がん異常増加の原因は過剰診断だった

世界中の先進国で甲状腺がんの罹患率が近年急激に増加しています。特に目立つのが韓国。この数年間で6~7倍も甲状腺がんが発見されるようになりました。さて、その原因は何でしようか? 北朝鮮の核実験による放射能被曝でしょうか。あるいは、謎の発がん物質が韓国国内に蔓延しているのでしょうか。

その回答は過剰診断(見つける必要のないがんを検診で見つけ出してしまうこと)です。北朝鮮の核でも発がん物質でもありません。韓国は甲状腺がん検診を積極的に行っていることで有名です。検診のやり過ぎが原因であるだろうことは以前から指摘されていましたが、最近発表された疫学研究で確たるエビデンスがついに出たのです。過剰診断が原因であったということです。

ほとんど死亡しないがん

甲状腺がんの異常増加の大部分は2センチ未満の小さながんでした。しかも病理診断的には乳頭腺がんというタイプのものです。このようなサイズのがんはほとんど症状を出しません。

しかも甲状腺の乳頭腺がんは死亡原因とならないがんという特徴があります。別の原因で亡くなられた人の全身を病理解剖すると、甲状腺の乳頭腺がんがよくみつかります。すなわち、甲状腺の乳頭腺がんは放置しても死ぬまで症状を出さないがんであることがほとんどなのです。

一方、甲状腺がんによる死亡率はどうでしようか。死亡率は変わっていませんでした。甲状腺がんがこれだけ増えたといっても、死亡率は変わらずですから、生死に関係しないがんをみつけていたということになります。

しかも、今回発表されたデータによると、甲状腺がんが見つかった人々では一般人と比較して生存期間が長かったということも判明しました。検診を受けるような人々はもともと健康意識が高いので、より健康長寿であることが原因とされています。

リンパ節転移でも死亡しないがん

また、今回の韓国の疫学研究結果では、さらに興味深い結果が判明しました。リンパ節転移をみた患者でも甲状腺がんで死亡することは非常に稀であることがわかったのです。これは、がん診療に関係する専門家にとっては理解し難い結果でした。しかしそれが事実。これまでの常識にとらわれずに医学的現象を受け入れることも必要なのです。

甲状腺がんの検診は通常、エコーと呼ばれる超音波検査で行われます。ほとんど健康な一般人を対象に大規模な検査を行うのはかなりの 高額な費用がかかります。

また、甲状腺がんの診断では、その結節に針を刺して細胞を吸引し細胞診という顕微鏡検査を行うことによってなされます。出血などの合併症のリスクもある侵襲的な検査です。

過剰診断の認知が広がる

このような背景から韓国では2015年ごろから甲状腺がん検診への見直しが徐々に広がってきています。早期発見早期治療というコンセプトは正しいこともあればそうでないこともあるということを皆が理解し始めました。これにより、直近のデータでは、甲状腺がんの罹患率が低下し始めました。

福島の東京電力原子力発電所事故のあと、周辺住民の甲状腺がん検診が定期的に実施されるようになりました。そこで甲状腺がんの発症が多数確認され問題になっています。放射線医学の専門家によると、その住民の被曝量からは発がんリスクは考えにくいということです。では、福島での甲状腺がん増加の原因は何か? それもやはり過剰診断です。検診を行うことが増加をもたらしているのです。

さて、韓国の医学会はこの事例から多くのことを学んだようでした。過剰診断がこれほど明確に目の前に現れたことで、今後の医療政策に重要な教訓として残していくべきと感じたようです。

実際、韓国の直近におけるChoosing wiselyキャンペーンに対する関心はかなり高くなっております。私自身も2015年と2016年の2年連続でソウルに招聘され、日本と世界におけるChoosing wiselyキャンペーンの現状について講演する機会を持つことができました。

韓国の様々な医学学会から多くの医師や研究者が集まり、活発な議論の機会を持つこともできました。日韓の過剰診断の領域での合同研究が今後展開されることが期待されます。

文献

Davies L. Overdiagnosis of thyroid cancer. BMJ. 2016 Nov 30;355:i6312.

image by: Shutterstock.com

 

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