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狂犬は中国に噛み付いた。米国防長官「尖閣を守る」発言の破壊力

トランプ新政権の閣僚として初外遊を行っているマティス米国防長官が先日、来日しましたが、その発言は思った以上に日本にとって「好意的」なものでした。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で世界情勢に詳しい北野幸伯さんも今回の来日を「大成功だった」と絶賛した上で、今後我が国が米国、そして中国とどのように接していくべきかについて記しています。

マティス米国防長官来日~4つの重要ポイント

全世界のRPE読者の皆さま、こんにちは!北野です。皆さんご存知のように、アメリカのマティス新国防長官が来日しました。今回は、この訪日の成果について考えてみましょう。

一つ目のポイント、「尖閣は日米安保の適用範囲」を明言

一つ目の重要ポイント。マティスさんは、「尖閣は日米安保の適用範囲」であることを明言しました産経新聞2月4日。

安倍晋三首相は3日、官邸でマティス米国防長官と会談した。マティス氏は、米国の日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲に尖閣諸島(沖縄県石垣市)が含まれると明言。中国を念頭に「尖閣諸島は日本の施政下にある領域。日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」と表明した。

これ、本当に大事です。

日本には、「尖閣有事の際、アメリカは日本を絶対守りません!」と断言する「専門家」がたくさんいます。

実際、心配な事例もある。たとえば、08年8月、ロシア―ジョージア(旧グルジア)戦争が起こった。ジョージアは、03年のバラ革命以降、アメリカの傀儡政権だった。しかし、戦争が勃発した時、アメリカは軍事力を使ってジョージアを守りませんでした。結果、ジョージアは、南オセチア、アプハジアを失ってしまいます。ロシアが、両自治体を国家承認」した。

たとえば14年2月、ウクライナで革命が起こり、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が倒れた。そして、親米政権が誕生した。14年3月、ロシアはクリミアを併合。アメリカは、日本、欧州を誘って対ロシア制裁を発動しました。しかし、軍事力を行使してクリミアを取り戻すことはなかった。こうして、ウクライナは、クリミアを永遠に失ったのです。

確かに、ジョージアやウクライナは、日本と違いアメリカの軍事同盟国ではありません。NATOにも加盟していない。だから、アメリカに両国を守る「法的義務」はありません。しかし、両国は、事件が起こった時、事実上の「アメリカ傀儡政権」だった。アメリカの冷淡さに対し日本が心配になるのは当然なのです。

とはいえ、この件での「最重要ポイント」は、「尖閣有事の際アメリカは日本を守るのか?」ではありません。正直言えば、そんなことは、誰にもわからない。大事なのは、「尖閣有事の際アメリカが日本を守る」と「『中国が信じているかどうか?」なのです。

皆さんご存知のように、中国は尖閣を固有の領土で核心的利益である!と世界に宣言しています。機会があれば、「いつでも奪いたい」と考えている。

習近平と側近は、考えます。「尖閣を奪えるだろうか?」と。その時検討されるポイントは、「たった一つ」です。「アメリカは動くだろうか?」。中国が「アメリカは動かない」と確信すれば、必ず侵略することでしょう。しかし、「アメリカは動く」と思っていれば、なかなか動けないでしょう。

アメリカが出てくれば中国は必ず負けます。負ければ、習近平は失脚するかもしれない。「リスク高いよな~」。こう習近平に思わせておくことが大事なのです。

では、中国は、「アメリカが動く、動かない」をどうやって判断するのでしょうか? アメリカ政府高官の発言によってです。「マティス国防長官が『守る』と言うのだから、守るのだろう」と。それ以外に判断基準はありませんから。

実際、中国は、10年の「尖閣中国漁船衝突事件」の時も、12年の「尖閣国有化」の時も、16年の、「巨大船団領海侵犯」の時もアメリカ政府高官が「尖閣は日米安保の適用範囲」と明言した途端に大人しくなっています。嘘だと思う人は、興味をもって調べてみてください。

というわけで、マティスさんの発言は日本の安全に大いに貢献しました。中国は、激怒しています。

中国外務省「釣魚島は固有の領土」 日米会談に反発

朝日新聞デジタル 2/4(土)11:30配信

 

安倍晋三首相とマティス米国防長官が3日の会談で、中国が領有権を主張する沖縄県の尖閣諸島(中国名・釣魚島)に日米安全保障条約第5条が適用されると確認したことを受け、中国外務省の陸慷報道局長は同日夜、「釣魚島は古来、中国固有の領土であり、これは改ざんが許されない歴史的事実だ」と反発するコメントを出した。

二つ目のポイント、辺野古は?

マティスさんは、もう一つ、非常に重要な発言をしています。

沖縄県の米軍基地負担軽減に伴う普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に関しては「2つの案がある。1つが辺野古で、2つが辺野古だ」と述べ、辺野古移設が唯一の方策とする日本政府の立場と足並みをそろえた。

(同上)

翁長知事は、ショックを受けていることでしょう。沖縄県民で米軍基地に反対している皆さんの気持ちもわかりますが。中国が、「尖閣だけでなく、沖縄も日本領ではない!」と宣言しているご時世(「反日統一共同戦線を呼びかける中国」)。米軍を追い出したら代わりに人民解放軍が入ってくるだけです。そうなれば、「悲惨なことになる」こと、チベットやトルキスタンの歴史が証明しています。

三つ目のポイント、「米軍駐留経費増」要求は?

トランプさんは選挙戦中、二つの発言で日本に衝撃を与えました。一つ目は、「日本が在日米軍駐留費用をもっと払わなければ、米軍を撤退させる!」。二つ目は、「日本が核兵器をもつのは、悪くない」。

一つ目の「米軍駐留費用増」について、マティスさんはなんといったのでしょうか? 読売新聞2月4日から。

稲田防衛相は4日午前、トランプ政権の閣僚として初来日したマティス米国防長官と防衛省で約1時間会談した。

 

この日の会談では在日米軍駐留経費の問題は取り上げなかったが、マティス氏は共同記者会見で「日本のコスト分担は他国にとってお手本だ」と述べ、日本の負担は適切との認識を示した。

「日本のコスト分担は他国にとってお手本だ」そうです。思うに、トランプさんは日本が米軍駐留経費の75%を負担していること知らなかったのでしょう。

四つ目のポイント~これからの日米同盟は?

  1. 尖閣は、日米安保の適用範囲
  2. 辺野古移設、推進で一致
  3. 米軍駐留費用負担増は求めず

ということで、言ってみれば「現状維持」ですね。

しかし、マティスさん、「これから」のことも発言されています。毎日新聞2月4日。

一方で、マティス氏は「日米双方はそれぞれの防衛力を強化しなければならない」と語り、日本側も防衛力の増強が必要との認識を示した。

 

安倍政権では防衛費を増額しているが、対国内総生産(GDP)比1%弱程度で推移している水準には米側に不満があるのが実情だ。

 

稲田朋美防衛相は自衛隊の役割拡大を図る考えを伝えたが、今後、米側から防衛費の大幅な増額を求められる可能性が高まってきた。【村尾哲】

防衛費の増額を求められる可能性が高まってきた」。トランプさんは、NATO加盟国に対し、「GDPの2%を防衛費にあてるように」と要求しています。ですから、日本にも「もっと防衛費を増やせ!」という要求が来るかもしれません。

この件で、二つポイントがあります。一つは、「防衛費を増やすのは良いこと」である。日本人は、右も左も、「自分の国は自分で守れるようにしたい」と願っています。左の人は、「米軍を追い出せばすべてうまくいく!」などと言いますが、現実的ではありません。米軍が出ていけば、中国は喜々として尖閣、沖縄を侵略することでしょう。

結局、防衛費を少しずつ増やしながら、徐々に「軍事の自立」に向かっていくしかありません。しかし、日本が独断で防衛費を増やせば中国が軍国主義化している!と大騒ぎするでしょう。だから、「アメリカの要求で防衛費を増やさざるを得ない」というのは、藤井厳喜先生的にいえば、「良い外圧」なのです。

もう一つのポイントは、「アメリカのバックパッシングに気をつけろ」ということ。2015年3月からずっと書き続けてきましたが、アメリカが中国と覇権争奪戦を行うことは間違いありません。その時、「バックパッシング」(責任転嫁)という方法があります。

これは、「他国を敵国と戦わせる」という意味。たとえば、アメリカは、プーチンをつぶしたいと考えている。しかし、米ロが直接戦えば、核戦争になって人類が亡びます。そこで、傀儡国のジョージアやウクライナをロシアと戦わせる。これを、「バックパッシング」という。

アメリカは、「中国に勝つために日本を中国と戦わせよう」と発想するかもしれない。これ、「ひどい!」と思うかもしれませんが、戦略の「常識」です。

実をいえば、トランプさんも「日本は、アメリカをバックパッシングしている!」と考えている。もちろん、彼はそういう言葉を使いません。「もし日本が攻撃されたら私たちは直ちに救援に行かなくてはならない。もし私たちが攻撃を受けたら日本は私たちを助けなくてもいい。この取引は公平なのか?」と言います。

いずれにしても、アメリカが日本をバックパッシングする可能性については、いつでも覚えておく必要がある。

では、日本は防衛費を増やしながら、「バックパッシング」を回避するために何をしなければならないのか? これは簡単で、「中国を挑発しない」ことです。日本政府は、「アメリカがバックにいる!」と喜んで、中国を挑発してはいけないのです。

アメリカが日本に疑念を抱くほど中国と仲良くするのもダメですが、挑発して、わざわざ戦争を招くのも愚かなことです。

いずれにしてもマティスさんの来日。日本にとっては、「大成功」といっていいようです。

image by: 首相官邸

 

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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