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似て非なるもの。トランプとレーガンの「決定的な相違点」

「レーガンの再来か!?」などとも称されるトランプ大統領。かたや俳優、かたや不動産王のタレントとしてテレビにも度々登場するなど、メディア慣れしている両氏にはいくつもの共通点がありますが、無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者で世界情勢にも精通する嶌さんは、「二人とも強いアメリカを基本とした政策を前面に打ち出しているが、実は両者の考える『強い』の意味が全く異なる」との見解を記しています。

就任当初は不安がられていたレーガン大統領

1981年に就任したレーガン大統領は就任わずか2カ月で襲撃されたことがあった。この事件は精神に障害のあるジョン・ヒンクリーによるもので、このニュースが入った時はかなり衝撃的だった。森本毅郎さんはニュースをNHKで読み、非常に衝撃を受け、私はワシントンに駐在していた時だった。

銃弾は心臓をかすめ、肺の奥深くで弾丸が止まるという重傷だった。そのため緊急手術を要する状態に。そんな状態にもかかわらずレーガン大統領の意識はしっかりし、ユーモアに富んでいた。さらに、レーガン大統領(共和党)は医師たちに向かって「君たちは皆、共和党員だろうね」とジョークを飛ばしたところ、執刀医で民主党員もいたのだが「今日一日は皆、共和党員です」とユーモアで返した。このエピソードはかなり印象的で、この出来事によりレーガン大統領の人気は一気に沸騰した。

ユーモアで一躍人気者に

レーガン大統領はこういった危機に瀕しているのに関わらずうまくユーモアで乗り越え、それ以後「タフな時にユーモアを忘れない」と皆に愛された大統領となった。それまでは二流の俳優上がりと揶揄され、「本当に世界をリードできるのか」ということを案ぜられていた。

さらに、俳優だったこともあり演説やジョークが非常にうまかった。プロンプターを使い、左、正面、右と聴衆に語りかける話し方は当時珍しく、評価された。また、狙撃後もCIAやシークレットサービスが止めるのも聞かず、市民の中にどんどん入り込んで握手したりするので周囲がヒヤヒヤしていた。レーガン大統領は「大統領が市民とともにいなくては信用されないだろう」と命の危険を顧みず民衆の中にどんどん溶け込んでいった。このことも人気が高かった理由の1つだろう。

レーガン大統領を意識するトランプ新大統領

トランプ新大統領の就任式をみてどうかというと、トランプ新大統領はレーガン大統領を意識しているように感じる。レーガン政権時代にトランプ氏はレーガン夫妻に会いに行っている。しかも、トランプ新大統領の発言は非常にレーガン大統領に似ている。共通点としては、「強いアメリカ」。トランプ氏は選挙戦からレーガン氏が使っていた言葉「再び偉大なアメリカを作る」を打ち出している。

THANK YOU for another wonderful evening in Washington, D.C. TOGETHER, we will MAKE AMERICA GREAT AGAIN
(@realDonaldTrump) 2017年1月21日

MAKE AMERICA GREAT AGAIN!
(@realDonaldTrump) 2017年2月4日

政策を比較してみると

  1. 大型減税(法人税・所得税率の引き下げ)
  2. 社会保障費の削減と軍事費の拡大
  3. 規制緩和による投資の拡大
  4. 金融政策によるインフレ率の低下を大きな柱
  1. 大型減税
  2. オバマケア撤廃による社会保障費削減
  3. インフラ支出の拡大
  4. 規制緩和
  5. 軍事費の増大

上記を見ると非常に類似している。しかしながら、共通項があるものの、本当にレーガン大統領のように実施できるのか否かはまだ見えない。

合意による形成を

トランプ新大統領は、最近の状況を見ると貿易赤字の解消などに取り組もうとしている。一番の特色は自身の「ツイッターにて口先介入を行ない、個別の企業などを追い込み自分の意図を通そうとしている手法が目立つ。

レーガン大統領の場合は、日本も円安から円高に変わるわけだが、これはプラザホテルで行われた「プラザ合意によって協調介入という方法でドル高是正を行なっている。このことから、レーガン大統領とトランプ新大統領の手法は全く違うといえる。

しかしながら、レーガン大統領の政策は財政赤字などを招き、必ずしも成功とはいえなかった。「双子の赤字」と言われたり、貿易摩擦も起こったため、それをどうするのかという問題があった。問題解決においては、今回のトランプ新大統領のようにツイッターによって一言でひっくり返すというようなやり方ではなく、関係者を集め合意をしたうえで物事を変えていくやり方をするべきだと思う。

似て非なる強いアメリカ…

トランプ新大統領の「アメリカ第一」は、レーガン大統領の「強いアメリカ」とは似て非なるものだ。それは、トランプ新大統領の「アメリカ第一アメリカの国益が第一」という意味だ。それに対して、レーガン大統領の「強いアメリカというのは、「強いアメリカにすることで世界の安定に役立つ」という発想だ。ここに、哲学の違いが大きくあるように思う。

レーガン大統領は「アメリカは世界の警察官である」ということを前面に出していた。「自由主義」、「共産主義」や「人種差別」への反対となど、世界に目を向けた基本的な哲学があった。

それに対して、トランプ新大統領は「アメリカの国益が大事、「世界の警察官はやめると表明している。国益を大事にするために、「フォード」「トヨタ」「メキシコ」などに口先介入している。これをツイッターを使い140文字という短文で表現するため、その背景にどんな哲学があるのか全く理解できないのだ。世界をどうやって引っ張っていこうとしているのかということも全く見えない。

正念場を迎える日本外交

「世界の警察官をやめる」というのは、各国に対する自分たちで国を守ってほしいという要求の表れだ。これは、日本にとっても影響は大きく、トランプ新大統領は日本に対して防衛費の増額も要求している。さらに、「日本の自動車産業が貿易赤字を増大させている」と個別の会社に対して要求している。

そういう意味からもアメリカは「どういった哲学や方針で世界に臨もうとしているのか」ということが皆目見当つかず、ただ単に「自分たちの利益を追求している」ようにしか感じられないため、世界が混乱している。しかも、先に述べたとおりツイッターという短文で表現することで、哲学が全く分からないことが混乱の主たる要因となっている。

今後、気になるのは米中関係だ。トランプ新大統領が当選後から米中双方で激しい応酬が続いている。以前もお話したがトランプ新大統領の「二つの中国問題は中国の根幹を揺るがす発言。さらに、トランプ大統領の中国がアメリカの潜水艦を盗んだことに対する発言や、中国が南シナ海に基地を作ったことに対して「誰の許しを得てやっているのか」と発言したことにより、中国は台湾付近に空母を周回させたり、南シナ海に爆撃機を飛ばすなど、偶発的な事故が発生することも危惧される。

現在、衝発的なことが多く、見通しがつかないことは今後どのような影響がでてくるのか非常に心配も多い。日本がその部分をどう解決していくことができるのか、日本の外交の正念場でもある。

(TBSラジオ「日本全国8時です」1月24日音源の要約です)

image by: Ken Wolter / Shutterstock, Inc.

 

嶌信彦この著者の記事一覧

ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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