「食べても太らない人たち」の腸内が一般の人と異なっていたことは、以前ご紹介した記事「太らないにはワケがある。痩せている人だけが持つ「腸内細菌」が判明」の通りですが、メルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』で紹介されている研究によると、太らない理由の鍵を握るのは「マイクロバイオーム」という腸内の微生物叢であり、この微生物叢は肥満だけでなく人間の健康にも大きな影響を及ぼしているとのこと。一体どういうことなのでしょうか? 現役医師ドクター徳田安春先生が解説します。
いくら食べても太らない人の秘密
あなたの周りにはいくら食べても太らない人がいると思います。うらやましいですね。その人たちの「なぜか太らない」秘密が最近明らかになってきました。その秘密は腸内の微生物叢、すなわちマイクロバイオームにあったのです。
人間は成人になるまでにかなりの数の微生物をその腸内に宿します。人間と微生物という生物同士の共生です。その数は膨大なものであり、人間の体の細胞を全て合わせた13兆個よりも多いのです。しかもその微生物叢全体の有する遺伝子の数は非常に多く、一人の人間の持つ遺伝子の数の250から800倍も持っているのです。
これらの微生物叢はビタミンやアミノ酸などを作り、その家主である人間に様々な栄養を供給していることはよく知られていました。中には人が間違って食べてしまった毒物を分解するオタスケマンのような微生物もいます。
マイクロバイオームの重要な役割
最近の約10年間の研究の進歩により、この人間の体内のマイクロバイオームが人間の健康に大きな影響を及ぼす役割を果たしていることが判明しました。マイクロバイオームは重要なタンパク質を作っています。
その中には、ホルモンや神経伝達物質、そして炎症に関係する重要な分子などが含まれています。これらの物質や分子は人間の腸管の粘膜から取り込まれ吸収され、人間の体に影響を与えています。最近の研究でまた、人間のさまざまな病気が実はこのマイクロバイオームに関連したものであることがわかってきました。
肥満とマイクロバイオーム
それでは、肥満についてマイクロバイオームとの関係を見てみましょう。第一に、マイクロバイオームは人間が吸収するカロリーに影響を与えます。体重は人間が食べたカロリーによって決定するのではありません。実は、体重は人間が吸収したカロリーによって決定するのです。すなわち、食べたカロリーと吸収されるカロリーとは同等では無いのです。
もちろん、ブドウ糖や果糖などの単糖類は容易に吸収されます。しかしながら、でんぷんなどの多糖類は消化酵素によって単糖類まで分解されなければいけません。実は、多くの種類の多糖類は人間の消化酵素のみでは分解されないのです。
そこで登場するのがマイクロバイオームです。これらの腸内微生物叢が作る消化酵素によって、消化されにくい種類の多糖類であっても、人間が吸収できるような単糖類に分解されるのです。
脂質でもそうです。脂質は脂肪酸とグリセリンからできています。脂肪酸は長い分子構造を持っており、あまりにも長い脂肪酸は吸収されないため、長さの短い脂肪酸にそれぞれ分解される必要があります。これもやはり腸管内のマイクロバイオームの仕事ですね。
肥満とファーミキューツ門
ところで腸内の細菌叢の約90%は2つの種類の細菌のグループ(生物分類の階級では門と呼びます)からなることがわかっています。ひとつはバクテロイデス門であり、もう一つはファーミキューツ門です。ファーミキューツ門には、ブドウ球菌、腸球菌、クロストリジウムなどがあります。
肥満との関連で最近問題視されているのは、ファーミキューツ門です。バクテロイデス門と比べて、このグループの細菌は栄養素の分解能力が高く、その結果として人間の腸が吸収できるカロリーが増えることがわかりました。
それに、最近の研究では、太っている人の腸内にはファーミキューツ門が比較的多いということがわかりました。また、高脂肪食を与えたラットではこの種類の細菌門が増えていることもわかりました。このマイクロバイオームと肥満との関係についての詳細は次回にお話したいと思います。
文献
The Microbiome and Risk for Obesity and Diabetes Anthony L. et al. JAMA. Published online December 22, 2016.
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