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ジョブズも虜に。日本の「禅」が導くシンプルで深い人生の道標

京都の魅力をさまざまな切り口で伝えてくれる無料メルマガ『おもしろい京都案内』。今回は、あのスティーブ・ジョブズも傾倒したと言われる「禅」の世界を詳しく記してくださっています。今、キリスト教信者が多いヨーロッパで急速に広まりつつあると言われている「禅」の精神は、とてもわかりやすくてシンプルなもの。日常に疲れたあなたも、虜になるかもしれませんよ。

受け継がれる「禅」の精神

禅はなぜ世界中で受け入れられるようになったのでしょう? 最近では欧米、特にヨーロッパで広まっているようです。欧米の多くの国々はキリスト教です。キリスト教は一神教です。すなわち、神様はイエス・キリスト一人だけなのです。キリスト教では、全能の神が世界を創ったと教えています。この世の全てのものは神が創ったものなので、敵であっても愛情を持って接しなさいという教えです。

この教えは日本固有の神道とは異なります。神道の世界では、八百万の神(やおよろずのかみ)がいるぐらいなので、沢山の神様がいます。旧暦で10月は神無月(かんなづき)と呼びますよね。これは日本全国の神社の神様達が一同に出雲大社に集まる月だとされているからです。その月は、出雲地方以外は神様がいなくなる(無くなる)から神無月というのです。逆に、出雲地方はこの月に各地から沢山の神様を迎えるので、神在月(かみありづき)といいます。

仏教、特に禅は唯心論的な教えではありません。仏教は、崇拝の対象である仏の存在はあるものの、キリスト教のようにブッタがこの世の全てを創造したという考えはありません。むしろ、仏は森羅万象の全てのものに宿っているという考え方です。仏教では全てのものは相対的に存在するという考えに基づいています。全ては単独では存在出来ないということです。全ては調和しあって相互依存の関係にあるという考え方です。だから他人の人やモノに対して慈悲の心を持ちましょうという考え方なのです。

今、日本だけではなく海外でも禅は広まりつつあります。そのようなことがなぜ起きているのでしょう? また、今なぜ禅が注目を浴びているのでしょうか?

例えばキリスト教の教えでは、自分で解決できないことがあったときは、「神を信じよ」と説いています。全知全能の神様は、森羅万象すべての創造主なので、それ以外の解決策はないということです。祈りを捧げて、神様を信じても救済されるかどうかは神様への信心次第です。科学の進歩が進み、合理的な現代に生きる我々の感覚からすると、いささかしっくりこないものを感じるかも知れません。

しかし、では、神様、仏様という信仰の対象ではなく、雑念を取り払ってひたすら座ることが最も大事と説いています(只管打坐)。目をつぶって静かにひたすら座ることが悟りの道につながるというのです。このことは誰でもどこででも一人で出来ることなので救われるかも知れないと思えるわけです。このように禅は、自分自身で自分を救うことが出来る道なのです。誰でも出来て、自分でも出来ることなのです。自分で自分自身を救済出来るとなればやってみようと思う人が増えるわけです。これが禅への関心が海外の国々でも高まっている理由の一つになっているようです。

スティーブ・ジョブスと禅

2011年に56歳の若さでこの世を去ったアップルの創業者でCEOだったスティーブ・ジョブスは禅の信仰が深かったことで広く知られていましたね。彼の最も有名なスピーチに次のようなものがあります。

もし今日が人生の最後の日だとしたら、今日しようとしていることを本当にするだろうか?

彼は毎日自分にそう問いただして生きていたと言います。これはまさに今、この瞬間に集中するという禅の考え方そのものです。

禅の考え方は引き算です。我々は付加価値を付けることが便利でいいことだという時代を生きてきました。多くのモノやサービスは付加価値を増すことで価値を高めてきました。アップルの製品は逆です。誰でも使えるシンプルさを追求して、必要なものだけを残すという考え方です。これこそまさに禅の考え方です。ジョブズは必要なものだけを採用し、必要じゃないものは取り除いたのです。不必要なものを排除し洗練さを極めたジョブスのモノづくりは禅が背景にあると言われています。いつもジーンズに黒いタートルネックといういで立ちも、シンプルさを際立たせていたとさえ思えます。ジョブスの最小限のものだけを残すというミニマリスト志向は、「iPhone」や「iPad」の機能やデザインに見ることが出来ます。我々の身近にあるこれらの製品にも禅の理念が宿っていたと言えるのです。

禅とは?

禅とは、自分と向き合うことによって本当の自分を見つけることです。生まれた時から持っている本当の自分に気づき目覚めるための手段です。

元々、人間はとても純粋で綺麗な心を持って生まれてきます。しかし、歳を重ねて色々な人との接点が増えることなどで人間関係の悩みが発生します。世間の荒波にもまれているうちに心に重りのようなものを背負ってしまうようになるのです。本当の自分に気づくというのは、この重りを振り払うための作業です。

座禅をすれば何かが得られるということではありません。むしろ何も得ないばかりか、背負ってしまっている重りを下すことなのです。心の中から重りを取り除いて空っぽにするのです。

失敗も成功も引きずらない。先の事も考えない。過去の事も考えない。いわゆる「の状態です。ひとつの事に集中すると「無」になれるということです。その時々の瞬間に集中して、無になれれば、限られた人生が輝かしいものになるということです。

今の時代、ほとんどの人がシンプルになれずに、悩みを抱えて苦しんでいる人も少なくないでしょう。禅は悩み苦しんでいる自分を解放し苦しみから逃れて悟った状態の自分になるための手段の一つなのです。現代人の多くは、見栄や欲望、地位や名誉といった執着やしがらみが自らを苦しめているのです。

知らぬ間に背負ってしまったこれらの重りを下ろし、生まれた時のように空っぽにする。そうるすことでイライラした気持ちを鎮め、嫌なことも悪かったことも忘れて、自然な状態で日常に戻れるようになるのです。いらないものを捨て、必要ないことはやめ、今ないものでも必要なければ買わないことです。周囲で起こることも人生を大きく左右することでなければ気にすることもなくなります。

人間は動物と違い、社会的な生き物なので生まれたままのきれいな気持ちでいることは困難です。動物は本能のおもむくまま行動するので、ある意味野蛮でもありすが、心に重りを背負っていないので純粋で心は綺麗でしょう。人間は損得勘定が身についてしまい、見栄や虚栄心など執着があるために、動物ほど本能的に行動出来ません。そのため正しい選択が出来ない状況にあります。これをしたら周りによく思われないかも、などと行動よりも考えることを先にしてしまうからです。

その点動物は本能的で人間より純粋無垢です。だから我々は動物やまだ綺麗な心を持っている子供を見て癒されるのでしょう。我々も毎日の生活の中で余計なことを考えずに先に行動することが出来たらいいのでしょう。面倒くさいとか、今はやりたくないとか、このことをしても無駄になるのでは、とやたらと損得勘定が湧いてきます。無心で純粋な気持ちで一歩が出ないといけないのでしょう。

禅の庭

禅の庭には余計なものがありません。石組、水、草、木、それらが整然と配置されているだけです。これは自然そのものです。季節の移り変わりと共に自然は変化していきます。しかし、その変化は絶えず同じことを繰り返しているのです。そのことは1,000年前も今も1,000年後も変わらない自然の摂理なのです。ずっと変わらない不変の自然の摂理に対して常に変わり続ける無常の我々は調和しながら生きているのを感じます。禅の庭からはそのような物事の道理を学ぶことが出来るのです。そうしていくうちに、今まで自分の身の回りにあったものが本当に大切かどうかなど価値観を棚卸するきっかけになるのです。

20世紀という時代は、大量生産・大量消費の時代でした。日本も1960年第以降は高度経済成長時代を経て先進国の仲間入りを果たしました。物質的な幸福は精神的な幸福であり、おカネで幸せが買えるかのような物欲主義的な時代を経験しました。

しかし、モノは豊かになったけれど、果たしてそれが幸福につながっているのでしょうか? 我々はものだけではなく心が満たされないと幸福にはなれないと気づき始めているのです。日本に限らず海外の国々でも同じように感じていることでしょう。

物質的な豊かさを追い求めるのは、執着の世界です。禅とは真逆の精神性と言えるでしょう。しかし、禅寺の庭を眺めていると自らも自然の一部であることに気づきます。自然は朝と夕方でも違う表情を見せます。季節が変わればもちろん木の葉の有るなしや色彩が違います。常に変化しながらも同じことを無数に繰り返しているのです。無常と不変の自然の中に執着を忘れた自分を発見するきっかけがあるのです。

今まで身についてしまった沢山の重りが取り除かれたときに心に大きな余裕が生まれます。本当の豊かさに満たされた自分に気がつくのはまさにその瞬間なのだと思います。

いかがでしたか? 京都は日本人の知識と教養の宝庫です。これからもそのほんの一部でも皆さまにお伝え出来ればと思っています。

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【著者】 英学(はなぶさ がく) 【発行周期】 ほぼ週刊

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