ユニクロやGUなどのファストファッション店の勢いに押され、苦戦を強いられているジーンズメーカー。そんな中にあって、「釣り」に特化したジーンズで人気を集めている企業があります。無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者の青山烈士さんが、岡山に本社を置く「THE BACK WATER」の戦略・戦術を分析しています。
価値をどのように伝えるか
釣り用ジーンズで注目されている企業を分析します。
● THE BACK WATER(釣り用ジーンズメーカー)
戦略ショートストーリー
ファッション性を重視する釣り人をターゲットに「釣り人のニーズ」と「ジーンズノウハウ」の融合によって生み出された「濡れない」「動きやすい」などの強みで差別化しています。
普段着にもできる、快適に釣りができるといったコンセプトを製品や情報発信を通じて共感を得ることで、顧客の支持を得ています。
■分析のポイント
価値をどのように伝えるか
代表の小田さんのBLOGを拝見したところ、商品を取り扱っているショップの店長さんがTHE BACK WATERの製品を履いてくれていることが記載されていて、販売先との良好な関係を築けていることが印象的でした。
そして、その店長さんに「お客様の反応としては、とても良いのだが価格が2万円だとみんな躊躇しているのが現状」というフィードバックをもらっていました。こういったフィードバックをもらえることは、メーカーとしては非常にありがたいことです。
メーカーにとって、顧客が店舗でどのように商品を見て、どの商品と比較したといった情報や購入を決めた理由、購入に至らなかった理由を知ることは、非常に重要です。なぜなら、購入に至るプロセスのどこに問題があるのかを知ることができれば、その問題に対して対策を打つことができるからです。こういったフィードバックをもらえていることからも、販売先との良好な関係を築けていることが伺えます。
では、この購入に至るプロセスについて考えていきましょう。
THE BACK WATERは様々なメディアで取り上げられて、認知度は高まってきているようですが、認知して、すぐに顧客が買うわけではありません。一般的な購入に至るプロセスは、認知して、関心を持って、比較して(試して)、購入するといった流れになります。
特に衣類に関しては、試着してから買いたいという方も多いです。WEBでは、その試したいというニーズに応えるために、例えば、ZOZOTOWNでは、7日以内なら返品できますし、プレミアム会員なら返品送料無料となっています。なので、THE BACK WATERのWEBストアでも商品到着後、7日以内ならサイズ交換可能とすることで購入のハードルを下げようとしているようです。
一方で、試着したいという声に応えるためには取り扱い店舗を増やすことも有効です。試してみたいと思った時に、近くにお店があればいいのですが、近くに店舗がなければ通常は諦めますからね。
THE BACK WATERの製品の場合、試してみないと価値が伝わりにくい面がありますので、ただの試着ではなく、できれば実際の釣り現場に近いような環境で試すことができたら、より良さが伝わると思います。ポケットにタックルボックスを入れてみたり、水しぶきをかけてみるなどして、利用シーンを体感していただくことができればこのジーンズの価値も伝わりやすくなるでしょう。
世間で販売されているジーンズと比べると割高ですので、やはり、高いことを納得させるだけの根拠を示すことが求められます。そのためには、実際に使ってもらうのが最も効果的です。
また、HPで「はっ水加工デニム 撥水動画」などを紹介していますが、実際の釣りの現場で利用している映像もあった方が、価値を伝えるには有効だと思います。
ちなみに私は、釣りはしませんが、ジーンズはよく履くので、雨の日用として、THE BACK WATERのジーンズに関心を持ちました。近くで試す機会が得られれば、購入を検討することになりそうです。
苦戦しているジーンズメーカーが多いようですが、THE BACK WATERが今後どのように世の中に受け入れられていくのか、楽しみですし、期待しています。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):釣り用ジーンズメーカー
- 競合(お客様の選択肢):EDWIN(エドウイン)、EVISU(エヴィス)などのジーンズメーカー
- 状況:ユニクロやGUなどのリーズナブルなジーンズの普及により、ジーンズメーカーは苦戦が続いている状況のようです。
■強み
1.濡れない
- 水を弾き、生地に染み込まない
- 水しぶきや雨もはじく
2.動きやすい
- 深い股上、程よくルーズな作り
→立体裁断とストレッチ生地で動きやすさを実現
3.大きなポケット
- ポケットにタックルボックス(釣りの小道具を入れて携帯するための箱)が入るので便利
- 500mlのペットボトルがすっぽり入る大きさ
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
「『釣り人のニーズ』と『ジーンズノウハウ』を融合」
- 代表の小田さんが老舗ジーンズメーカーに勤めた後に立ち上げたジーンズブランドです
- 小田さんの保有資格:ジーンズソムリエ、繊維製品品質管理士
→ジーンズ、繊維を熟知しています - 小田さんは幼い頃から「釣り」が趣味
→釣り人のニーズ、利用シーンを熟知しています
上記のような知識、ノウハウが支えているからこそ、強みを実現できているといえます。
■顧客ターゲット
- ファッション性を重視する釣り好きな方
◆戦術分析
■売り物
「釣り用ジーンズ」
- 岡山産の厚みのある14オンスの赤耳セルヴィッチデニムを使用(ストレッチデニムは12オンス)
- 生地に撥水加工
→撥水性が低下してもアイロンを掛ければ機能が戻ります「スーパー撥水加工」 - コンセプト
「普段着にもできるフィッシングウェア」
「アングラー(魚を釣る人)が快適に釣りができる服であること」 - 日本製
■売り値
- 14,000円~24,000円(税抜き)
■売り方
「認知度アップに注力」
- Facebookで撥水ムービーを公開
- 代表の小田さん自らBlogで情報発信
- TV、雑誌、新聞などメディアへの掲載多数
- 商品到着後、7日以内なら安心のサイズ交換可能
■売り場
- ネットショップにて販売
- THE BACK WATER製品を取り扱っているSHOPも5店ほどあります
- 展示会に出展し直販も実施
※売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: 「THE BACK WATER」公式ホームページ