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自ら新しい市場を作り出す努力もしない、現代日本企業の「怠慢」

不況と言われはじめて久しい日本。アベノミクスで一時的に景気が盛り上がった時期はありましたが、未だ一般消費は落ち込んだままです。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』では、「消費不況が続く原因は、人々が欲しがる物を懸命に考え、開発しなくなった企業の怠慢が大きい」と記しています。

消費不況は企業の怠慢

高成長の足がかりをつかみ始めた1960年代以降、若者も大人も主婦たちにとっても欲しい商品はいくらでもあった。若者はバイクやクルマに目がなかったし、サラリーマンは時計やカバン、靴などのおしゃれに気を使った。主婦たちは電気冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコンなど次々と登場する家電製品に目の色を変えて物色し、家族たちはテレビの選択に夢中となった。

60年代に出てきた商品は、値段も結構高かったが多くの人はローンを組んで購入した。当時は給料もどんどん上がっていたから借金をしてもそれほど不安は感じなかった。

それより文化的で楽しい生活の誘惑が強かったし、新製品を買いたい欲求のために、月収の数倍もする商品を手に入れようと残業もいとわずに働いたものだ。また企業の側も消費者が欲しくなるような品物を次々と開発し提供した。まさに「消費は美徳」というコピーまで出回り、世の中は活気に満ちていた

ところが現代は消費がまったく盛り上がらない。今はどこの家庭も大体必要なものは持っているので買いたいものが見当たらないというのが一般的な感覚だ。若者が目の色を変えて欲しがったクルマは、いまや所有コストがかかりすぎて「必要なときはレンタカーやタクシーで十分だ」という人が多い。自動車を持つと駐車場が必要だし、自動車保険料、取得税、ガソリン代など何だかんだと含めると月に10万円ぐらいはザラにかかる。

70年代のようにクルマを持つことがステータスだったり、彼女を連れてドライブに行くデートなどももはや特別なことではなくなってしまったらしい。

クルマだけではない。電気製品にも目を輝かせる人は少なくなってしまった。かつては電気冷蔵庫、テレビ、洗濯機、エアコン、炊飯器など新しい製品が出ると、みんなが群がったものだ。月収の数倍の値段でもローンを組んで手に入れようと先を争った。

こうした家電製品の開発を東芝や松下電器(現パナソニック)、シャープ、三洋電機などが国産化一号を争い、一号を出し抜かれた企業は次々とカッコのよい多機能のついた便利な改良品を発売していった。60~80年代は、まさにクルマと家電製品が高度成長を引っ張り家庭生活を便利で豊かにし文化度を高めていったのである。

そこには高度成長期の消費者の夢と欲望を満たそうと各社がしのぎを削って知恵を絞り、消費者の要求を見つけ出した研究開発、製品づくりに必死になったものだ。

ところが現代は企業の側も消費者は何でも持っているため欲しいものがないようで新製品を出しにくい」という。

しかし消費者が気が付かないものを必死に考え出し製品化してマーケットを作るのが企業の役割ではないのだろうか。「消費者はいまやモノに飽きている」なんていうのは、まさしく企業の怠慢」ではないか。

日本の家電、自動車メーカーに敗北した欧米メーカーは苦節20~30年でIT、バイオ、宇宙、医療、エンターテイメントなどで新しい市場を開拓しはじめ、今やアップル、マイクロソフト、グーグル、テスラなどの新興企業が世界を牽引している。欧州メーカーでは吸引力数倍の掃除機や自動掃除機を開発し、留守の間に掃除をすませてしまう新たな家電製品を作り人気になっている。

実は、消費者が欲しい製品はまだまだ無数にあるのだ。なのに「市場は飽和状態で消費者に欲しいものはなくなった」などというのは、企業側の「怠慢」であり、バブルにぬくぬくと浸りきってしまったせいなのではないか。これでは欧米先進国と新興国のはさみ討ちにあうだけだろう。

(電気新聞 2017年3月16日)

image by: Sean K / Shutterstock.com

 

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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