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苦しいのは企業だけにあらず。再編が加速する「銀行」の窮状

一昔前までは「銀行に就職できれば安泰」と言われていましたが、リーマンショックでアメリカの大手投資銀行が破綻して以降、「日本も例外ではない」という考えが急速に広まり、銀行の窮状が明らかになり始めました。無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の著者・嶌さんは、「金融機関は存続をかけて再編を加速させているが、地域経済を活性化させるという役目を果たすことこそが生き残れる方策ではないか」という持論を展開しています。

銀行再編加速 メガから地銀へ

地銀最大手の横浜銀行と東京に拠点を置く地銀中位行の東日本銀行経営統合し、コンコルディア・フィナンシャルグループとして発足してからまもなく1年になる。横浜銀行は預金量12兆円を超える地銀最大手、対する東日本銀行は預金量1.6兆円で地銀105行中68位の中堅銀行だった。両行は2016年4月に共同持株会社をつくりその傘下に入ることになった。

横浜銀行は神奈川県に180店舗を持つが、東京都内は20店舗。対する東日本銀行は北関東に拠点を持つ銀行だったが、都内に52店舗を持つユニークな銀行である。あわせて、横浜銀行の前頭取は寺澤辰麿氏(現コンコルディア・フィナンシャルグループ代表取締役社長)、東日本銀行の前頭取・現会長の鏡味徳房氏も大蔵省出身で話がスムーズに進んだようだ。

横浜銀行にしてみれば、東京の支店網が20から一挙に72に増えることになるし、東日本銀行にとっても今後の少子高齢化、ゼロ・マイナス金利時代の経営を考えると、大きなバックと共同運営することになり双方にとってメリットがあったわけだ。

この統合話は2015年前からあったようで、地銀最大の横浜銀行が統合に踏み切ったことは地銀業界に大きな衝撃を与え以来地銀の再編がドミノのように進み始めている

メガ系列地銀の再編加速

ひとつは大手都市銀行系列の地銀再編だ。りそなホールディングス(以下、りそなFG)と三井住友フィナンシャルグループ(以下、三井住友FG)は、りそなFG傘下の近畿大阪銀行(大阪市)と三井住友FG傘下の関西アーバン銀行(大阪市)、みなと銀行(神戸市)の3行を来年春にも、りそなFG傘下の中間持株会社の下にぶら下げることになる。

総資産は11.5兆円で全国地銀グループの中で6番目、関西では最大規模になる。3行の過去3年の業績は業務利益が横バイあるいは減少傾向にあった。

また、国際的業務を行なう金融機関は、リーマンショックの反省から健全性を保つよう規制を強化され(バーゼル3規則)、損失リスクが見込まれる場合は自己資本の積み増しを求められるようになった。

三井住友FGの場合、傘下の地銀に一定の資本注入が必要になっており、収益が落ちる傾向にある地銀を所有している場合は関与を薄めた方が得策との判断もあったようで、3行の持ち株会社には、りそなFGが過半数を出資し、三井住友FGは一部の出資にとどめたとみられる。

このほか三菱東京UFJは筆頭株主である中京銀行(名古屋市)を軸とし近隣銀行との再編、みずほ銀行は系列の千葉興業銀行の再編に関心を持っているといわれる。

地銀同士の動きも

一方、大手都銀とは関係なく地域の地銀同士の動きも活発化している。北関東では足利銀行と常陽銀行、九州では福岡銀行、親和銀行、熊本銀行がふくおかフィナンシャルグループの傘下で経営の合理化と経営協力を進めようとしている。

ほかにも四国の百十四銀行、阿波銀行、伊予銀行、四国銀行の4行が地域活性化に向け包括提携。三重銀行と第三銀行が18年4月に共同持株会社を設立。千葉銀行と武蔵野銀行が持株比率を高めて連携を強化している。

さらに地域を越えて連携しているのが、東北の秋田銀行、山形銀行と中国地方の広島銀行、山陰合同銀行、山口フィナンシャルグループ、西日本シティ銀行、そして岐阜の十六銀行が資産運用会社を設立した。また九州のふくおかフィナンシャルグループと十八銀行が17年10月にも経営統合を予定しているといった具合だ。今後も金融庁が再編の旗をふっているので各地方で統合と協力の動きがますます強まるに違いない。

再編だけでなく地域再生の役割を

バブル崩壊、リーマンショック以降、世界でも絶好調にあった日本企業の多くは一挙に失われ10年、20年を経験してきた。その中で銀行もまた例外でなく、まず一番安定しているとみられた大手都市銀行が10数行から3行のメガバンクに集約された

地方銀行は地域に根を張っていたので比較的安心とみられていたが、少子高齢化や過疎化、大都市への一極集中で苦しくなり再編へと追い込まれつつある。中小・零細企業と最も近い関係にあった地元密着の強さを誇っていた信用金庫も再編の渦に巻き込まれている

金融は企業にとって命綱であり、地域にとっても重大な役割を担っている。再編で生き残ることに全力をあげることも重要だが、地域経済をどう活性化させ中小・零細の連携をはかりながら企業を再生させることに知恵を絞ることが遠回りのように見えるが、案外互いに生き残れる方策ではないか。雨の日だけでなく、曇りや雨の降りだしそうな日にも傘を差しだす優しさと知恵が欲しい。

(2017年3月23日 Japan In-depth)

image by: Tooykrub / Shutterstock.com

 

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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