社員が辞めてしまう、良い人材が入ってこない…そんな悩みを持つ経営者に立て続けに会う機会があったという、無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者で現役コンサルタントの梅本泰則さん。梅本さんは、かつての自分の苦い経験を紹介しながら、「社員がやめてしまう理由」について考察しています。
社員がやめてしまう理由
「社員が辞めてしまう!」と悩んでいる小売店の経営者にお会いしました。「どうして辞めてしまうのだろう?」と嘆き節です。確かに、この人手不足の時代に、社員に辞められてしまうのは痛いですね。
私は、経営者にその社員が辞めてしまう理由を聞いてみました。
「給料もそこそこ出しているし、待遇は悪くないと思うのだが…」
「何か別の理由があるのではないですか?」
「はっきりとは言わないけれど、どうも上司との折り合いが悪かったみたいだ」
上司に責任があるようです。
実は、私もかつて部下が会社を辞めてしまうという経験を何度もしました。「ちょっとお話があるのですが…」と部下が切り出すときはたいがい「辞めたい」という話です。
その話は、突然切り出されます。しかも、頼りにしている部下です。
「あれほど良くしてやったのに…」
私の指導力評価にも影響します。何とか引き止めなくてはなりません。仕事が終わってから、二人でゆっくりと話し合います。理由をたずねても、本音は言いません。「もう決めてしまったので」というばかりです。
どうして部下が辞めてしまうのでしょう。しかも、期待をしていた部下です。今考えると、その理由はよくわかります。
辞める理由
少しは会社そのものにも理由があったかもしれません。しかし、本当の理由は上司である私にあったのだと思うのです。
部下からすれば、私は実に鼻持ちならない上司だったのでしょう。「仕事ができる」とうぬぼれています。「私の考えに間違いはない」と、思い込んでいます。平気で会社の批判を口にします。上役にたてをつくことがカッコいいことだ、なんて思っています。部下は、それで喜んでついてくると思っていました。なんとひどい上司でしょう。
部下が辞めた理由は、それです。会社そのものより、私の考え方ややり方に不満があったのです。そして、そんな上司を置いている会社は同類だ、と考えても不思議はありません。
では、先の小売店の経営者の場合はどうでしょうか。上司と折り合いが悪かったのが、辞める本当の理由だったのでしょうか。
この経営者は、大変優秀な方です。自分の腕で業績を伸ばしてきたと、自信満々です。しかし、もしかしたら社員が辞める原因は、かつての私の場合と根は同じかもしれません。つまり、原因は上司ではなく、経営者の考え方や振る舞いにあるのかもしれないのです。
そうだとすれば、今後も辞める社員が出てくることでしょう。経営者は、その時も「どうして辞めてしまうのだろう」と繰り返すのでしょうか。
良い社員
そして、その一方で「良い社員が入ってこない」と嘆いておられる経営者もいます。「良い社員」とはどんな人でしょう。聞いてみました。
「人柄が良くて、周りの人に信頼をされる人」
「仕事の呑み込みが早くて、任せられる人」
「リーダーシップがあり、私の補佐が出来る人」
要は、即戦力として模範になるような社員です。
あなたは、どう思いますか? 今まで、そんな社員が入ってきたことはありますか?
いかにも、この経営者は求めすぎです。「そうした人がいれば、高給で雇う」そうです。そこで、どうしてそんな社員が欲しいのか尋ねました。「人を育てる余裕がないからだ」とのこと。分からないでもありません。
しかし、はっきりと言っておきます。そんな優秀な人は零細小売店には来ない、と思っておいた方が良いです。ですから、経営者の仕事は、社員を育てることにあります。時間をかけて、会社の役に立つ人間に育て上げることです。その覚悟がなくては、経営者はつとまりません。
このことは、「社員がどうして辞めてしまうのか」と嘆いている経営者と同じです。経営者が周りから信頼されていれば、社員はやめません。そして、入った社員は、自然と育っていきます。つまり、問題は経営者自身の考え方や行動にあるのです。
今いる社員を育てることが出来ない経営者が、「社員が辞めてしまう」とか「良い社員が来ない」と嘆くのはお門違いではないでしょうか。今回、この二人の経営者からは、経営者のあり方を考えさせてもらいました。もちろん、あなたのお店は大丈夫ですが、良い参考にはなるでしょう。
■今日のツボ■
- 社員が辞めるのは、経営者の問題である。
- 良い社員に育てるのは、経営者の仕事である。
- 周りから信頼される経営者ならば、人は育つ。
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