北朝鮮情勢の緊張状態が続く中、中国とロシアの関係に変化が生じているようです。無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者・北野幸伯さんによると、先日行われた国連安保理で2つの重要事項をめぐり中ロが別々の行動を取ったことは、これまで安保理が両国の同盟関係を見せつける場となっていたことを考えると極めて異例であり、米を含む3つの大国の関係に大きな変化が生じていると指摘しています。
中国、ロシア関係に生じた「軋み」
「事実上の同盟」といわれる中国とロシアの関係に、変化が見られます。どんな?
超特急で、米中ロ関係のこれまでを復習しておきましょう。ソ連が崩壊したのは1991年12月。以後、90年代、米ロ関係は概して良好でした。新生ロシアには金がなく、アメリカの言うことを聞くしか道がなかったからです。
しかし、2000年にプーチンが大統領になると、米ロ関係は大きく変わります。両国は、
- 03年 イラク戦争
- 03年 ユコス問題
- 03年 グルジア・バラ革命
- 04年 ウクライナ・オレンジ革命
- 05年 キルギス・チューリップ革命
などで、ことごとく対立。特に、「自分の縄張り」と考えている「旧ソ連諸国」で革命が続いたことに、プーチンは大きな衝撃を受けます。しかも革命が起こって、「親アメリカ、反ロシア傀儡政権」ができている。
危機感をもったプーチンは、「大戦略的決断」をしました。それが、「中国との(事実上の)同盟関係構築」です。両国は、
- 上海協力機構(SCO)を強化し「反米の砦化する」こと
- ドル基軸通貨体制を破壊すること
を軸に、協力関係を深めていきます。米ロ関係は、その後も悪化し続け、08年8月には、ロシアとアメリカ傀儡ジョージア(旧グルジア)の戦争に発展しました。
しかし、この戦争の後は、「米ロ再起動時代」になり、両国関係は著しく改善されます。世界的経済危機で、米ロ共、戦っている余裕はなかったのです。ちなみに「再起動時代」、アメリカ大統領はオバマ、ロシア大統領は、(プーチンではなく)メドベージェフでした。
2012年、プーチンが再び大統領になった。アメリカ、ロシア関係は、また悪化していきます。2013年、オバマとプーチンは、シリア問題で激しく対立。2014年3月、ロシアがクリミアを併合すると、米ロ関係は、超最悪になってしまいます。
アメリカは、日本、欧州を誘って制裁を課し、ロシア経済をボロボロにすることに成功しました。この時、中国は、制裁に加わらず、ロシア批判も一切せず、できるかぎりプーチンを助けました。ロシアにとって中国は、「唯一信頼できる大国」になったのです。
しかし、2015年3月に「AIIB事件」が起こると、また大きな変化があった。「最大の脅威はロシアではなく中国だ!」と気づいたオバマは、「ロシアと和解し、中国と対決する」に方針を変えた。オバマは、ロシアと協力し、ウクライナ、シリア、イラン問題解決を熱心に行った。一方、彼は突然「南シナ海埋め立て問題」を大騒ぎし始め、米中関係は、最悪になってしまいます。
2016年、またまた変化がありました。トランプは、大のプーチン好き。オバマは、同じ民主党のヒラリーを勝たせるため、この事実を使い始めた。その論理は、
- プーチンは、悪魔のような男
- トランプは、悪魔のようなプーチンの手下
- だから、ヒラリーに投票してね!
それで、大統領選挙が近づくにつれ、米ロ関係は、再び悪化していったのです。しかし、結局トランプが勝ちました。トランプの大戦略は、「ロシアと和解して、中国に勝つ」でした。ところが、中国は、
- ロビー活動により、トランプを懐柔する
- 中国に近い民主党政治家を使い、プーチンを悪魔化する
工作を強力に進めました。結果、トランプは、
- 中国に、より優しく
- ロシアに、より厳しく
なった。米中、米ロ関係が変化してきたので、当然中国・ロシア関係も変わってきました。どんな風に?
国連安保理で、崩れた中ロの「共同歩調」
中国とロシア、「協力の場」は、国連安保理です。国連安保理には、拒否権をもつ常任理事国が5か国ある。つまり、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア。そして、大抵の場合、アメリカ、イギリス、フランスは一体化して動き、中国とロシアは、一緒に動きます。中ロの場合は、むしろ「ロシアが主導し、中国が追随する関係」です。ところが、2017年4月、中ロは二つの重要問題で、別々の行動をしました。
一つは、「シリア問題」です。BBCニュース4月13日から。
シリアが反政府勢力地区で化学攻撃を実施したとされる問題について、国連安保理で12日、非難決議案の採決があったが、ロシアが拒否権を行使して成立しなかった。ロシアがシリア非難をめぐり安保理で拒否権を行使するのは、これで8回目。
ロシアは、シリア非難決議案に、拒否権を行使した。ロシアは、「アサドが化学兵器を使ったかどうかは、化学兵器禁止機関(OPCW)の調査結果を待つべきだ!」と主張しているからです(現時点で、OPCWは、「化学兵器が使われたことは疑いない」としながらも、「誰が使ったか」までは特定していない)。
さて、「いつもロシアと一緒」の中国は、どう投票したのでしょうか?
ロシアと同様に常任理事国として拒否権をもつ中国は、投票で棄権。非常任理事国のエチオピアとカザフスタンも棄権した。10カ国は賛成し、ボリビアは反対に回った。
(同上)
中国は、なんと「棄権」。この時の勢力図を見ると、シリア非難決議案に
- 賛成 10か国
- 棄権 3か国(中国、エチオピア、カザフスタン)
- 反対 2か国 (ロシア、ボリビア)
となります。
4月19日、国連安保理は、「北朝鮮非難声明」を出そうとしました。しかし、ロシアが拒否権を行使し、これを阻止します。
ロシア、安保理の対北朝鮮非難声明を阻止 拒否権発動により
CNN.co.jp 4/20(木)12:27配信
ニューヨーク(CNN) 国連安全保障理事会は19日、北朝鮮のミサイル発射実験を非難する声明発表に向け理事国の同意を求めたが、ロシアが拒否権の行使によりこれを阻止した。
中国は、どう動いたのでしょうか?
声明案は米国主導で取りまとめられ、北朝鮮に対してこれ以上の核実験を実施しないよう要求する内容も盛り込まれた。国連外交関係者によると、声明案には常任理事国の中国も含め、ロシアを除く14理事国すべてが同意していた。
(同上)
う~む。この時の勢力図を見ると、北朝鮮非難声明に
- 賛成 14か国 (もちろん中国も含む)
- 反対 1国 ロシア
完全にロシアが孤立する形になりました。ところで、なぜロシアは、北朝鮮非難声明に反対したのでしょうか? 「声明に、『対話を通じた解決』という文を入れろ!」と主張したのです。しかし、翌日、ロシアもさすがに「ヤバい!」と思ったのでしょう。一転、合意します。
安保理、北朝鮮を非難=米ロ一転合意、追加制裁警告
時事通信 4/21(金)5:08配信
【ニューヨーク時事】国連安全保障理事会は20日、北朝鮮による16日の弾道ミサイル発射を強く非難する報道機関向け声明を発表した。声明は核実験を実施しないよう求め、状況を注視しつつ、「制裁を含むさらなる重大措置」を取ることを警告した。米ロの対立で声明発表はいったん見送られたが、修正案で合意に至った。
繰り返しますが、ポイントは、「中国が安保理で、ロシアと共同歩調を取らなくなってきたこと」です。結果、ロシアが安保理で孤立することが増えている(といっても、まだ2回ですが)。
現状の米中ロ関係をみると、
- 米中は、北朝鮮問題で協力関係を深めている
- 米ロは、シリア問題で対立している
- 中ロは、米中関係が良くなってきたので、「軋み」が生じている
ということでしょう。「米中ロ三国志」の外にいる日本には、あまり影響ありませんが。それでも「何が今起こっているか、はっきり知っておくこと」は大事です。知っていれば、翻弄されることがありません。
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