先日掲載の記事「米中首脳会談で露呈。トランプにも権力闘争にも敗れた習近平」では、前国家主席の胡錦涛氏が打った「布石」が、今になって中国共産党内の権力闘争の場で効力を発揮してきていることをお伝えしました。激しさを増すばかりの胡錦濤vs習近平両氏のつばぜり合い。今回の無料メルマガ『石平(せきへい)のチャイナウォッチ』では、先日習氏が広東省に「重要指示」を下したという報道を受け、その広東省のトップにして「ポスト習近平」と噂される人物の裏にも胡氏の影が見え隠れする、と指摘しています。
見えてきたポスト習近平 背後に胡錦濤派と習近平派の暗闘が…
先月12日、中国共産党広東省党委員会機関紙の『南方日報』は1面トップで、習近平国家主席が広東省党委員会・政府の活動に対し「重要指示」を下したと伝えた。
この「重要指示」の中で、習主席は、第18回党大会以降の広東省党・政府の活動ぶりを「十分に評価」した上で、広東省が今後「小康(いくらかゆとりのある)社会の全面建設」と「社会主義現代化建設の加速化」において「前列に立って走る」ことを期待すると語ったという。
全国に32の省・自治区・直轄市がある中で、党総書記・国家主席の習氏が広東省にだけ「重要指示」を下したことは異例である。
しかも、その指示は、広東省の今までの活動を「十分に評価」し、今後においても全国の「前列に立ってほしい」というような内容であれば、習主席の広東省に対する思い入れの強さを印象づけることにもなろう。
だが、広東省は習主席が地方勤務時代に関わった地区でもなければ、最近、主席の「子分」がトップとして抜擢(ばってき)された「親藩」としての行政区でもない。ならば彼はなぜ広東省を特別扱いし、多大な期待を寄せたのだろうか。
注目すべきなのは、現在、広東省のトップである党委書記の任に当たっているのが共青団派の若手ホープ、胡春華氏である点だ。
2012年11月の第18回党大会で、当時49歳の胡氏は内蒙古自治区の党委書記として政治局員に抜擢され、その直後に重要行政区の広東省の党委書記に栄転した。
この時点で誰もが分かったことだが、同じ第18回党大会で引退し党総書記のポストを習近平氏に明け渡した前任の胡錦濤氏は「ポスト習近平」を見据えて、自らの引退と引き換えに、この「胡春華人事」を断行したのである。
これによって胡錦濤氏は実質上、腹心の胡春華氏を習氏の後継者の地位に押し上げた。今年秋の第19回党大会で最高指導部が大幅に入れ替わるとき、さらに胡春華氏を政治局常務委員に昇進させておけば、2022年の第20回党大会で習氏が「2期10年」の慣例に従って引退するとき、その時点で59歳の「若手」である胡春華氏は、ほぼ間違いなく、党総書記に就任し、党と国家の最高指導者になるという目算だ。それこそが胡錦濤氏と共青団派が描く「ポスト習近平」への次期政権戦略である。
一方の習氏がこれを快く思うはずはない。習氏はそもそも「2期10年」の慣例を破って自らの任期をさらに伸ばす腹づもりであったし、たとえ第20回党大会で引退するとしても、最高指導者のポストを共青団派の胡春華氏に、ではなく、自分自身の腹心に渡したいところだ。
そのために昨年から、習総書記サイドは胡春華氏の天下取りを潰しておこうと動き始めた。これで一時、胡氏が後継者レースから外されたとの見方も広がったが、この動きに対抗して、共青団派ボスの胡錦濤氏は今年1月に広東省を訪問し、胡春華氏へのテコ入れを公然と行った。
今から見れば、どうやら胡錦濤氏の反撃が見事に成功して、それが前述の習近平主席の広東省への「重要指示」につながったようだ。この「重要指示」をもって広東省限定の「評価と期待」を寄せたことで、習氏は事実上、胡春華氏を特別扱いし、彼の後継者としての地位を半ば認めることになったからだ。
胡春華氏は、ポスト習近平への後継者レースにおいて大きく前進したが、もちろんそれは習氏の本意ではない。自らの政権維持のために、彼は共青団派と妥協せざるを得なかったのである。
そのことは党内における習氏の権力基盤が決して盤石でないことを示した。本物の「独裁者」への道のりは依然として遠いようだ。