先日掲載の記事「自分の仕事を家族に胸を張って話せますか? ある食品工場長の場合」で、「家族に偽らなくてもいい仕事をしよう」と自身の経験を交えて語り、多くの共感を呼んだメルマガ『食品工場の工場長の仕事』の著者・河岸宏和さん。今回は、食品工場に長年勤めた経験をもつ河岸さんが、消費者の目線から「利益優先の悪質スーパー」の見破り方と、「良いスーパー」に育てていく方法について紹介しています。
優先すべきは消費者か、利益か 2軸化する食品業界
同じ賞味期限で「産卵日表示のある卵」と「産卵日表示のない卵」。みなさんは、どちらの卵を買いますか? 「別にどちらでもいいや」と思っている方が多いでしょう。その一番の理由は「同じ賞味期限であれば、当然、産卵日も同じはずだから」だと思います。
はたして、そうでしょうか。
実は、同じ賞味期限であっても、産卵日表示のない卵は、産卵日表示のある卵よりも古い卵が使われているケースが多いのです。
日本の法律では、製造日は「最終加工した日」と定義されており、「産卵日」だけではなく「パック詰めした日」も製造日とすることができます。そのため、多くのスーパーでは、この法律を理由に、パック詰めした日から逆算して賞味期限を付けているのです。
「え? そうなの!」と、驚かれた方も多いのではないでしょうか。
なぜ、そんなことをするかというと、顧客の増える土日祝日に、卵の品切れを避けるためです。残念ながら、このようなズルを行っているスーパーが多くあるのが現実なのです。
しかし、その一方で、一部のスーパーでは産卵日をちゃんと表示して、ウソ偽りのない賞味期限を付けています、それは、品切れによる売り上げの機会損失より、消費者第一で品質を追求するスーパーのあるべき姿勢でしょう。
今、日本のスーパーは、はっきり2つの軸に分かれる傾向が強くなっています。「常に消費者のことを考えているスーパー」と「自分たちの利益を最優先するスーパー」です。
食品選びの基本は「美味しさ・安全・機能」
食べ物は「安全」という土台の上で、「美味しく」て、さらに「機能」があることが重要です。機能というのは、嗜好(好み)や栄養のことです。大切な家族の健康管理のためにも、これらの要素が備わっている食品を選ぶことが重要になります。しかし、「自分たちの利益を最優先するスーパー」が販売したり、作り出している食品には、これらの要素が多く抜け落ちています。
はっきり2つの軸に分かれる傾向にあるのは、スーパーだけではありません。コンビニ、食品メーカー、あるいは外食産業も、「常に消費者のことを考えている企業」と「自分たちの利益を最優先する企業」に2軸化されています。
例えば、食品メーカーの場合、「自分たちの利益を最優先する企業」が製造するロースハムは、100キロの豚肉から、なんと150キロのハムを製造しています。なぜ、こんなマジックのようなことができるのでしょうか?
本来、ロースハムの原料は豚肉だけであるべきところを、「植たん」と呼ばれる「植物性たんぱく」や「水」などの原料を多く混ぜて、「かさ増し」しているのです。こんな食品をロースハムといえるのでしょうか……。
もちろん、豚肉だけを原料にしてロースハムを製造している食品メーカーもちゃんと存在しています。
「食品表示」が良い企業と悪い企業を見抜くカギ
皆さんは、「常に消費者のことを考えている企業」と「自分たちの利益を最優先する企業」のどちらの食品を選びたいと思いますか? もちろん、「常に消費者のことを考えている企業」だと思います。
実は今、「常に消費者のことを考えている企業」は、大きく売り上げを伸ばしています。卵の産卵日をちゃんと表示しているスーパーは、陰でこそこそ賞味期限をズルしているスーパーよりも、お客さんであふれています。
当たり前のことですが、人は美味しいものを一度口にすると、二度とまずいものは食べようとしないからです。しかしながら「自分たちの利益を最優先する企業」は、まだまだ数多く存在しているのも事実です。
では、良い企業と悪い企業を見抜くには、どうしたらいいでしょうか? その一つのヒントは、食品パックなどに表示されている「食品表示」です。食品表示は、食品を製造する上で使われている原材料や食品添加物、栄養表示、アレルギー表示といった、あらゆる情報が盛り込まれているプロフィールのようなものです。
また、スーパーであれば、食品の陳列方法や接客態度、厨房の様子などからも見抜くことができます。
皆さんがいつも買い物や食事をするスーパーやコンビニ、外食チェーンは、はたして、消費者と利益のどちらの軸を重視しているのでしょうか。食品業界が、消費者重視と利益重視とに2軸化されている今、私たち消費者は、安全で美味しい食べ物を見抜く目を養うことが求められています。
消費者のひと言が、お店の質を高めていく
では、自分たちの利益を最優先するスーパーやコンビニ、食品メーカー、外食チェーンの存在をつかんだら、どんなアクションを起こせばいいのでしょうか。「行かない」「買わない」というのも、一つの方法ですが、スーパーについては、「育てる」視点を持つことも必要です。
今、売上げが落ちて、閉店に追い込まれるスーパーが増えています。近所にスーパーがなくなり、買い物難民になってはたまったものではありません。いえ、地方では、このような現象が着実に起こり始めています。
スーパーを潰すことは、私たちの生活を脅かすことになります。ですから、いつも買い物に行くスーパーを、消費者重視の良いお店に育てていくことも大切なのです。
そのためには消費者自身が、スーパーに質問や要望を伝えていく姿勢が大事です。もちろん、こうしたアクションをするのは勇気がいります。まずは気になった問題点を、一つだけスーパーに尋ねてみましょう。
そうした消費者一人ひとりの行動によって、スーパーは襟を正していきます。自分自身、そして大切な家族のために「美味しさ」と「安全」、そして「機能」が備わった食品を選択するとともに、消費者のパワーで、健康的な食生活を守っていきましょう。
image by: Shutterstock.com