MAG2 NEWS MENU

韓国の新大統領は、なぜアメリカに嫌われているのか?

韓国第19代大統領に就任した文在寅(ムン・ジェイン)氏ですが、反米反日、対北朝鮮融和派として知られた故・盧武鉉元大統領とつながりが深かった人物としても知られています。そんな文氏の国際舞台への登場は、日米韓の同盟関係や緊張が高まる北朝鮮情勢にどう影響してくるのでしょうか。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄さんが今後を占います。

【韓国】文在寅氏は「2代目 盧武鉉大統領」になるのか

韓国大統領選、文在寅氏が当選確実 9年ぶり政権交代

文在寅氏が韓国の大統領に選ばれました。これで盧武鉉政権以来、9年ぶりの革新政権の誕生です。慰安婦をめぐる日韓合意や、在韓米軍のTHAAD配備への見直しを明言、示唆してきた同氏が大統領になったことで、朝鮮情勢が一段と混迷することは明らかでしょう。

もともと文在寅氏は盧武鉉大統領の側近であり大統領秘書室長を務めたこともあります。また、それ以前にも盧武鉉とは同じ弁護士として共同事務所を開設したこともあり、まさに盧武鉉の盟友でした。2012年の大統領選挙に出馬しましたが、朴槿恵に接戦の末敗れたことは記憶に新しいでしょう。

文在寅氏の所属する「共に民主党」は、これまで野党第一党でしたが、文在寅氏が大統領選に勝利したことで、与党第一党となります。議席数のうえでも同党は第一位です。

朝鮮半島では歴史的に「朋党の争い」(内ゲバ)が続いてきましたが、この「共に民主党」を含めて韓国の政党は合併と分離を繰り返してきました。そのたびに政党名が変更になるので、覚えるのも大変です。

民主系政党は、1995年に金大中大統領が新政治国民会議を結成して以来、離合集散を何度も繰り返してきたため、10回以上も党の改名が行われています。「共に民主党」は、党内で主流派の親盧武鉉派(親盧派)と非盧武鉉派(非盧派)が対立していますが、もちろん文在寅は親盧派です。

反日、反米、親北路線であった盧武鉉は日本にとっても過去最低の韓国大統領として記憶されており、訪米した際にはアメリカに対して「日本を仮想敵国にしようなどと提案した過去があります。

「日本を仮想敵国に」盧武鉉政府が米国に提案、鄭夢準議員が暴露

アメリカにおいての評価も最低で、ゲーツ元国防長官の回顧録には、盧武鉉が「アジアにおける安全保障の最大の脅威はアメリカと日本だ」などと述べたことが暴露されており、「反米的でちょっとおかしいとまで酷評されています。

米元国防長官、盧武鉉氏を「ちょっと頭がおかしい」と酷評 韓国で波紋広がる

盧武鉉は北朝鮮のスパイではないかとまで噂されていましたが、大統領退任後には妻などの親族および自らへの不正疑惑が持ち上がりました。検察の事情聴取を受けた直後、山歩きに出かけた際に自ら崖から飛び降りて自殺したことは記憶に新しいでしょう。

その盧武鉉の後継者ともいえる文在寅氏の大統領就任について、アメリカでは早くから警戒感を示してきました。ニューヨーク・タイムズが文在寅氏の「韓国はアメリカにNOを言うことを覚えるべきだ」という発言を引用したことで、「文氏も盧武鉉同様に反米なのか」と物議を醸していたそうです。

米国は盧武鉉側近だった文在寅氏大統領就任を歓迎せず

文在寅氏は自らの政見放送や演説において、大統領になれば、過去の保守党政治の清算を行うと述べてきました。要するに、李明博元大統領や朴槿恵前大統領の不正問題を徹底的に洗い出し、財産没収と罪を追及するということです。そのため「文在寅が大統領になれば政治報復を行う」と受け取られてきました。

文氏はイメージ悪化と保守政党の反発を恐れて、「私の辞書に政治報復という言葉はない」「そんな悪いことはしない」などと改めて表明しましたが、コロコロと態度や発言が変わることについて、保守系の朝鮮日報などは批判的です。

韓国の歴代大統領が反日をテコにして政権浮揚を狙うのはいつものことですから、この点では誰が大統領になっても大して変わらなかったでしょう。しかし、北朝鮮問題では融和派の文在寅氏が大統領になったことで、北朝鮮と中国が大喜びしているはずです。文在寅氏を利用することで、アメリカの韓国不信を増大させ、米韓を離間させることができるからです。

文在寅氏は、盧武鉉政権時の2007年に、日本や欧米が主導した国連での北朝鮮人権決議案に対し、「北朝鮮の意見を聞いて態度を決めるべきだ」という意見に同調、その結果、韓国は採決を棄権するということになったことを暴露されています。

北の意見聞き人権決議棄権 元外相回顧録「事実なら衝撃」=韓国

国連決議に対して、北朝鮮にご意見を伺った人物が大統領になるのですから、これは大変なことです。もちろん本人は否定していますが、当然ながら国内の保守派も、日本や欧米も危惧せざるをえません。

文在寅氏は、アメリカに預けてある戦時作戦統制権を早期に取り戻すべきだとも主張しています。これについてはもともと盧武鉉が返還を言い出したことで、アメリカもこれに応じたのですが、その後の李明博政権も朴槿恵政権も、返還の延期、再延期を繰り返してきました。

もともと実戦経験の乏しい韓国軍です。一応、韓国の前身である上海臨時政府の際に結成された「光復軍」が勇敢な抗日戦争を繰り広げたことになっていますが、まったく交戦することもなく終戦を迎えてしまったのが現実です。

また、朝鮮戦争時も、最高責任者である李承晩大統領が「ソウル死守」を叫んだものの、南進してくる北朝鮮軍に対して真っ先に逃げ、しかも追手を防ぐために漢江人道橋を爆破、そのため逃げ遅れた韓国人の多くが北朝鮮軍に粛清されてしまいました。

その後、韓国軍はアメリカの援軍が到着するまで押しまくられる一方で、もう一歩で全朝鮮半島を北朝鮮側に制圧されるところでした。

いずれにせよ、戦時作戦統制権を韓国が取り戻すということは、やがて在韓米軍の縮小から撤退につながる話です。とくに反米政権であれば、その流れは加速します。だから北朝鮮や中国には願ったりの結果なのです。

一方で、韓国は経済力の減退も大きな弱みとなっています。韓国は、輸出依存度が50%を超える通商国家です。通商相手国の経済や外交に左右される部分が大きくなります。実際、すでに中国からTHAAD問題に絡み、韓国は経済的な嫌がらせを受けていることはニュースなどでも報じられているとおりです。

同時に、THAAD問題にしても慰安婦合意にしても、相手があることですから韓国だけでは決められることではありません。すでに日本は慰安婦合意の再交渉には応じない姿勢を示しています。

したがって、文在寅大統領は国内問題をすべてクリアできても、対外問題こそが真価を問われることになります。ことに対日米の問題が正念場となってきます。

これから衰退の一途を辿ると見られている韓国の生存条件をどこに設定するか、再び中国とアメリカに対するコウモリ外交を展開するのか、反米・反日で中国に傾斜するのかといった根本問題が控えています。

文在寅氏は、韓国資本によって北朝鮮に設立している開城工業団地や金剛山観光も再開すると述べています。また、就任式での演説では、条件が整えば平壌を訪問するとも言っています。

中国の習近平主席がトランプ大統領との会談時に「韓国はかつて中国の一部だった」という話をしていたことが明らかになっていますが、暗に「朝鮮問題は中国に任せてくれという意思表示だったと考えられます。

文在寅大統領が「第二の盧武鉉」となれば、米韓関係も日韓関係も悪化するのは避けられません。トランプ政権が朝鮮半島におけるアメリカのプレゼンスを低下させていった場合、朝鮮半島の安全保障は中国が主導することになりかねません。

現在、日本では安倍首相の発言から憲法改正論議が再燃しつつありますが、こうしたアジア情勢も見越したうえで日本は安全保障を考える必要があります。今後、ますます混沌としてくる朝鮮情勢に日本は備えるべきです。

 

黄文雄この著者の記事一覧

台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国・韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」 』

【著者】 黄文雄 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け