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中国が黒幕? 日本に拡がる「共謀罪はヤバい」という先入観

5月22日に判明した、中国で6人の日本人が拘束されたというニュース。中国国防部は「スパイ行為などで国家の安全を脅かした」とし、厳正に処罰すると述べました。日本国内では「でっちあげ」との声も出ていますが、メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』の著者で台湾出身の評論家・黄文雄さんは、「スパイ防止法や共謀罪が成立したら、日本でも罪のない民間人が捕まる」ということを印象づけたい中国側の思惑がみえると、意外な見解を示しています。

【中国】中国が日本人をスパイ容疑で拘束したのは「共謀罪」阻止のため?

中国、日本人6人を拘束 地下探査の社員、スパイ容疑か

温泉開発に関わる仕事をしていると言われている日本人6名が中国で拘束されました。捉えられたのは、山東省と海南省で男性三人ずつの計6人です。この両省には軍事港があり、温泉開発との名目で中国の軍事情報を探っていたとの嫌疑で拘束されたようです。

報道によれば、「中国は2014年にスパイ行為の定義をより具体化した反スパイ法、15年には国家安全法をそれぞれ施行。北京市は今年4月、スパイ行為の通報を奨励する規則を施行するなど取り締まりを強化しており、日本外務省も注意を呼び掛けていた」、とのことです。

2015年にも、スパイ容疑で日本人4人が中国当局に拘束されました。この時は、一人は浙江省の軍事施設付近をうろついていた男性、中朝国境付近をうろついた男性、あとの二人は北京と上海にいた男女でした。

この時、日本の一部のマスコミでは、日中間で密かな問題となっている諜報合戦について報道されました。日本は、スパイ天国と言われているのは周知の事実で、外国が日本で諜報活動をしようと思えばいとも簡単にできてしまう日本政府は隙だらけだというのが通説だし、実態もかなりそれに近い状態であることはいろいろな報道で垣間見ることができます。

スクープ!中国「日本人拘束事件」の真相~逮捕者は4人だけではなかった…日中「諜報戦争」はすでに始まっている

中国日本人拘束「スパイ疑惑」の余波〜官僚たちが踏み入れた冷酷な「諜報戦」の行方

一方の中国はというと、昔から諜報活動は大得意でした。とくに中国人スパイというと、女性によるハニートラップが有名です。イギリスでは今や、中国人スパイによるハニートラップはイスラム国よりも恐ろしいと評価されています。

政府主導で百人単位の美女スパイ軍団を育成し、海外の各地へ派遣しては情報を収集しているといわれています。しかも、中国が情報を集めているのは政府機関にとどまらず、民間企業における秘密情報などにも及んでいるとのこと。かの有名な川島芳子も中国人でした。

中国の「ハニー・トラップ」はISより脅威 美しすぎるスパイの危険度

「スパイ」というのは近代用語ですが、中国では開国の君主である「黄帝」の時代から市井や宮廷内に告げ口のスパイが溢れていたとの伝説があります。さらに、中国四千年の歴史においてスパイは絶対に欠かせない重要な役割を担ってきました。

孫氏の「兵法」には、「用間」の術があります。「用間」とは、間諜(スパイ)のことであり、スパイをいかにうまく使うかを指南したのが「用間の術」です。

中国の歴代王朝のなかでも、スパイを最も有効的に使っていたのは明朝です。宮廷内に見張り用の建物である東廠と西廠をつくり、官の動静を探るのみならず、民間人も徹底的に見張っていました。明朝が、満州人とモンゴル人の連合王朝である清朝に滅ぼされたのは、明朝皇帝の人間不信が最大の原因だったとも言われているほどです。

台湾では中国による軍関係のスパイや、中国人留学生による諜報活動などで、逮捕者が多く出ていますが、これに対抗して中国政府も台湾民進党の人権活動家を逮捕・拘束しています。中国にとってはあくまで取引の材料ですから、日本人の温泉関係者6人の逮捕・拘束には、日本へのゆすりたかりの目的が含まれていることは間違いありません。

ところで、2015年に日本人4人が逮捕された際、菅官房長官は記者からスパイを派遣したのかという質問に対して、強い口調で「絶対にそのようなことはない」と言ったことが注目されました。日頃は言葉を慎重に選んで発言する菅官房長官なだけに、この時の断言の仕方が印象的だったために、それはスパイ活動を必死に隠したい気持ちの裏返しだとも噂されました。

スパイ活動は世界各国がやっています。本来、日本もやっていて当然ですが、なにしろ、かつてスパイ防止法が野党とマスコミの反対にあって廃案にされた過去がありますから、本当に日本のスパイがいるかどうかは、疑わしいところではあります。

スパイは、その存在を知られたらそれでおしまいです。スパイ天国である日本で諜報活動が諜報相手国に筒抜けとなれば、まったく意味がないどころか、逆にウソの情報を仕掛けられて、壊滅的なダメージを受けてしまいます。

日本は、特定秘密保護法ですら、野党やマスコミから猛反対の嵐を受けました。しかし、当時、彼らが主張していた「ものが言えなくなる」「一般人も逮捕される」という事態が、現実に発生したのでしょうか。

現在は、スパイ事情も複雑になっており、二重、三重の多重スパイも珍しくありません。

スパイ容疑で捕まった日本人が本当にスパイ活動を行っていた可能性はほとんどないでしょう。中国としては日本を国際謀略を企む「危険な国」としてアピールする意図があると思われます。

中国によって洗脳された日本人捕虜が帰国して広めた自虐史観の害悪は現在でも続き、国家による規制はすべて悪だとされてきたたため、日本ではスパイ防止法も共謀罪もいまだ成立しておらず、世界198カ国中187カ国が批准している「国際組織犯罪防止条約」に日本は条約批准ができないという状況に陥っているのです。

ある意味、中国は日本人をスパイ容疑で拘束することで、暗に「スパイ防止法や共謀罪が成立すれば、中国のように罪なき民間人が捕まる。だから危険だ」ということを、日本にアピールしているのかもしれません。

中国政府がここ数年で次々と日本人をスパイとして拘束している一方、日本政府は日本に侵入しているスパイを捉えることができないばかりか、仮にスパイが誰なのか確定しても、それを処分する法律が日本にはありません

本日はイギリスでテロと思われる爆発事件がありました。もはや、世界のどこで、いつ、どのようなテロ行為が起こるのかわからない時代になっています。日本は、こうした世界情勢の変化に対応する必要があるのです。

去る23日、政府与党は野党からの批判を受けながらも、衆議院で「テロ等準備罪共謀罪)」を採決、法案は参議院に送られました。民進党は参院審議入りを拒否していますが、そもそも前身の民主党時代に現在の自民党と同様の修正案を国会に提出していたのです。それを自民党が丸呑みしたら、今度は「条約批准には現行の法律でも対応できる」と態度を一変させたのです。

猛反対の民進、旧民主では「そっくり案」を国会提出の過去

だいたい、国際組織犯罪防止条約の締結は2003年に国会承認がされましたが、にもかかわらず、現在もなお締結に至っていません。もちろん民主党政権時代にも締結できず、だからこそ民主党も同様の法案を提出したわけです。

民進党の山井和則国対委員長は、このことについて記者団に問われ、「修正案でも国民の大きなリスクを拭い去ることはできず、ダメだとの結論に至った」と釈明しましたが、それでは、現行法でも国際組織犯罪防止条約の締結ができるとする民進党は旧民主党時代に締結ができなかった理由を説明すべきです。

習近平の最大の夢は「大中華民族の偉大なる復興」であり、それを実現するためにはスパイ活動を強化してきました。なぜならば、習近平政権は経済の衰退や権力闘争など、さまざまな問題を抱えているため、言論統制を強化する必要があるからです。

そのため、国内では民衆に対するスパイ活動を活発化させ、同時に国内のスパイ摘発活動を強化しています。一方で、海外でも自国の主張を浸透させるためのスパイ派遣を増強しています。CIAの情報によれば、過去に中国政府によって殺害されたアメリカのスパイは12人にものぼるといいます。

中国当局がCIA要員12人殺害 ニューヨーク・タイムズが報道

各国が国益をかけた諜報戦を展開しているなか、日本だけがスパイを送ることも取り締まることも必要ない」と主張するのは、あまりにも国際情勢を無視した考えです。日本の諜報能力を削ぐ一方で、日本における他国の諜報能力を強化させたいと考える人たちがいるとしか思えません。

いずれにせよ、拘束された6人の日本人が早期に釈放されることを望みます。

image by: plavevski / Shutterstock.com

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