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都議選「大敗」が見えた民進党は、まず野田幹事長をクビにせよ

「安倍一強政治」が続く中で、「体たらく」と言わざるを得ない状態の野党・民進党。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、前回より「安倍一強」を招いた原因について分析。高野さんがRPGよろしく想像力を働かせ、「民進党の体たらくをどうしたらよいか」をシミュレーションした「某シンクタンクへの回答」を紹介しています。

民進党をいったいどうしたらいいのか(その2)──まずはアベノミクス失敗総括と、それに代わる社会像を

某シンクタンクから「この民進党の体たらくをどうしたらいいと思うか」と意見を求められたので、とくに名案がある訳もなく、余り気が進まないのだけれどもと断りつつ、私なりの考えを述べた。それに若干の肉付けをしてここに掲載する。

自分が一員でもない政党にああせいこうせいと言うのも失礼だとも思うが、私たちの仕事は常に、自分が日本国の総理大臣だったら今どうするか、米国大統領だったら、露大統領だったら、中国国家主席だったら……というようにロールプレイ・ゲーム的に想像力を働かせて、それを基準に実際の日本の首相やどこぞの大統領を批判するものなので、これもまたそのようなロールプレイングの1つである。

要は、2018年秋の任期満了近くになる可能性が高い次期総選挙民進党が現有95議席を約1.5倍の150議席前後に、さらに2019年夏の参院選で前回17議席から倍増の35ないし前々回並みの40前後まで議席を回復し、その次の総選挙で政権奪回を狙うところまで到達できるには、どうしたらいいか、ということである。

都議選敗北の乗り切り方

まず第1は、共謀罪法も森友・加計学園問題も決して“逃げ切り”を許さず、国会閉会後も追及を緩めずに、秋の臨時国家にまで引き継いで行く姿勢が大事である。

気に入らないものはことごとく蹴散らして進むかのような「安倍一強政治」ではあったが、前川喜平=前文科次官の正々堂々の反乱を境に、にわかにダッチロール状態に陥り、菅義偉官房長官の目にもオロオロとした灰色の不安と動揺が宿るようになった。後々、この通常国会会期末のドタバタが、内閣支持率が崩れる始まりだったと言われるに違いない。

第2に、悩ましいのは6月23日〜7月2日の都議選で、これは[小池新党+公明党vs自民党]で基軸が形成されてしまって民進党はまったくお呼びでない状況。最も厳しい予測では同党は1〜2議席しか取れず、2009年に59議席にまで達したというのが夢ではないかと思えるほどであるけれども、今更どうしようもない。

いま日本の政治戦線の最先端をなすのは沖縄県で、そこで民進党は国会議員も県会議員もゼロ、辛うじて那覇市会議員に1人いるんだったのかな? という状態で、つまりそこに何の政治的・組織的な足がかりも持ち得ないほど衰弱してしまった。首都=東京でも似たような状態に陥りつつあって、国会議員は蓮舫自身を含め何人かいても、それを支える都議が1人か2人だけというのでは、国政選挙でも態勢が組めない。中枢部の首都と最突端の沖縄の地方議会で、ロクに議席を持てないというのでは全国政党の形をなさないことになる。ここに今の民進党が抱える病がある。

そのため、都議選結果によっては「蓮舫=野田体制」に対する“責任追及論”が出てくるだろうが、そんなことでゴタゴタすることに私は賛成ではない。

まず原則論として、東京といえども1ローカルの選挙であって、その結果でイチイチ全国指導部を交代させたのでは、オロオロしているという印象を広げるだけで何ら意味がない。また、蓮舫代表は大変な才人なので、こんな程度のことで使い捨ててしまう訳にはいかない

と言っても、1〜2議席というのは余りに酷いので、その責任は野田佳彦幹事長に被ってもらうのがいいのではないか。そもそも蓮舫が幹事長に野田を指名したことが間違いの始まりだったのだから、この機会にそれを正せばいいのである。

第3に、地方選挙のレベルでは、その先に、7月9〜23日の仙台市長選、7月16〜30日の横浜市長選があり、これは勝ちに行って反転のきっかけにしなければならない。仙台は、旧民主と社民の支援で2期を務めた林恵美子市長が引退し、民進党の郡和子=衆議院議員(比例・東北)が後継を狙うのに対して、自民は会社経営者を立てる。しかし取り立てて政策的な争点があるわけではなく、民進としては昨年の参院選で共産を含む野党4党の共闘で自公候補を破って桜井充=元厚労副大臣を当選させた態勢を維持して次の衆院選に繋ぐことが課題だろう。

横浜は、カジノ誘致の賛否が焦点となる。3選をめざす現職の林文子市長は、元は旧民主党が擁立・推薦してきたが、最近は自公とも関係良好で、菅官房長官や地元経済界が推進するカジノ誘致に(今は「白紙」と言いながら)賛成しそうな気配である。民進は、旧民主党系は引き続き林支持であるのに対し、維新系は江田憲司=民進党代表代行の子飼いで39歳の伊藤大貴=横浜市議を立ててカジノ反対を明確に打ち出そうとしていて、調整がついていない。さらに、元逗子市長で旧民主党で衆議院議員も1期務めた長島一由も「カジノ反対」を唱えて早くから手を挙げ
ていている。一本化に失敗すれば負ける。

21世紀の社会像を描く

次期総選挙のタイミングは、一般論としては、

(1) 今年8月に例えば橋下徹とか小泉進次郎とかを登用する派手な内閣改造をブチ上げて、その勢いで秋に解散、

(2) 2018年春以降、夏前にできれば憲法改正国民投票と抱き合わせで打って、勝てば9月の自民党総裁選は無投票3選、

(3) 2018年9月に3選を果たした後、12月の衆議院議員任期満了に限りなく近い解散で、この場合も出来れば改憲投票と抱き合わせにしたいが、無理なら改憲投票は2019年7月参院選と抱き合わせ

──のいずれかで、今のところ(3) となる可能性が大きい。

(1) は、この会期末の「安倍と菅の凶暴罪」などと揶揄されている無惨な終わらせ方が、どれほどのダメージとなって8月まで残っているのかによって内閣改造の大幅・小幅の判断が変わってくるし、そのどちらであっても自民党内のザワザワした空気を一層掻き乱すことになる可能性が大きい。2018年は前半も後半も、天皇退位と改元の準備や行事が粛々と進むので、安倍首相3選=長期政権化の思惑や改憲願望などの個人都合のために政局をいじくり回していいのかという空気が強まるだろうし、改憲の発議も間に合わないのではないか。

従って(3) の公算大なのだが、その場合も、来年9月に安倍3選がすんなり罷り通るかどうかはまったく保証の限りではない。すでに賞味期限が切れかかっている安倍首相で総選挙を打つよりも、ガラッと看板を一新して臨もうということになる可能性が、私の予想では50%以上である。

そこで民進党としては、この夏から秋にかけて、じっくりと構えを立て直して、政策面で安倍政治と全面対決するための仕込みをすべきだろう。それには3次元があって、第1は、アベノミクスの徹底的な検証・批判である。2018年4月には黒田東彦=日銀総裁の任期がやってきて、ということはアベノミクス発動から丸5年というタイミングでもあって、さてそのお陰で日本経済は一体どういうことになったのかを巡って大議論を巻き起こさなければならない。恐らく安倍首相は、アベノミクスは失敗ではなかったと強弁するために嫌がる黒田総裁を再任しようとするだろうが、民進党はじめ野党は日本のエコノミストの良心を総動員して完膚なきまでにその失敗を批判して黒田総裁を追放しなければならない。

第2に、再々延期された消費税の10%への増税は、今のところ2019年10月に実施されることになっていて、その是非を判断するのは1年前の18年秋であって、上記(3) の総選挙時期と重なる。そこで民進党としてはそもそも野田政権が提起して政権を失うことになった原点とも言うべき「税と社会保障の一体的改革」に立ち戻って、誰もが安心して暮らせる日本的福祉社会のイメージと、それでいて財政再建も可能になるような国民負担設計と直接税・間接税比率の見直しとその中での消費税のあり方についてのトータル・プランを提示する必要がある。

民進党の何がまずいのかと言えば、せっかく「税と社会保障の一体的改革」という正しい問題提起をしながら、その詳細なプランを示す責任を果たさず、安倍政権に「消費増税」だけを食い逃げされることに唯々諾々としてきたことである。「税と社会保障の一体的改革」の構想で合意できない以上は消費増税に反対するということでスッキリすればいいのに、消費増税は我が党が言い出したことだから反対出来ないというような中途半端に陥るのである。

そこを深めるには、このところ前原誠司氏が傾倒している井手英策=慶応大学教授の「生活保障と税」の理論が出発点になるかもしれない。

第3に、その構想を包み込む中長期的なリベラル・サイドの成熟経済ビジョンを押し立てて、未だに「成長」と言い続けている安倍首相との違いを際立たせることが必要である。参考になるのは、水野和夫=法政大学教授の近著『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀』(集英社新書 )で、世界資本主義がフロンティアを失って、ほんのわずかな利益を求めて世界中をのたうちまわるような断末魔状態にある中で、それに我慢しきれなくてトランプやメイのように19世紀的「国民国家」に立て籠もろうとするのでなく、EUやASEAN のように世界は有限との前提のもとで定常状態の経済を目指す国々の連携を目指すことになる。東アジア共同体構想がその回答となる。


反改憲、反安保法制、反原発

安倍首相のそそっかしい改憲論には、ゆったり構えて対処すればいいのではないか。国民は誰も、急いで改憲しないと生きていけないとか思っていないので、野党が悠長に構える方が安倍首相の上っ滑りを際立たせる。

とにかく安倍首相は焦っていて、それは森友・加計学園疑惑で追い詰められて、何とか別の方向に捌け口を見つけようとする動機不純に根ざしている。日本会議向けのビデオ・メッセージと読売新聞とのインタビューで唐突に「9条加憲論」を打ち上げて、国会で問われると「読売新聞を読め」というような態度は常軌を逸していて、自民党内でも保岡興治、船田元、中谷元ら“憲法族から反発があり、公明党にも戸惑いが濃厚である。

安倍側近の間では、2018年中の総選挙か2019年夏の参院選のどちらかと改憲国民投票を同日実施するという案が当たり前のように語られているけれども、これは実は2007年の国民投票法成立に至る議論の中で、全く性格の違う2つの支持獲得運動を同時に行うことは「不可能」と結論が出ていることで、それでも安倍側近がそれを言うのは、10年前の議論への無知と、もう1つは、同日で実施すれば、仮に改憲投票で負けても総選挙で負けなければ安倍首相が退陣しなくて済むという“計算”なのだそうで、余りに姑息な政局思惑である。

これに対しては、自民党の二階俊博幹事長も16日、「こういう大きな問題は、1つ1つ丁寧にやればいいと思う」と、同日論をはっきりと否定した。

民進党の枝野幸男=党憲法調査会会長は、16日の会合で、憲法第9条は専守防衛に徹すること、7条を利用した首相の衆院解散権を制約すること、国と地方のあり方を明確にすることなどを中心に、全国で支持者との対話集会を開く方針を決めたが、それでいいのではないか。

秘密保護法、安保法制、共謀罪という一連の戦時体制化方策に関しては、いずれ政権を奪回して全部をめくり返すことになるのだろうが、それは対話を通じての近隣外交とその先の北東アジア、そして東アジアを包括した「地域共同体」の形成の構想と裏腹にならなければ実現しないだろう。

反安保法制に関しては、政権を奪って集団的自衛権容認の閣議決定廃止、従ってそれを根拠にした安保法制も無効化する。反原発に関しては連合≒電力労連という呪縛と決別して、原発再稼働には一切反対、時間はかかっても順次、再生可能エネルギーへの転換を着々と進めるという方向で、その工程表を示せばいいのではないか。

連合は地方では電力や電機の力が強くて、野党共闘の妨げになっている場合が少なくないが、民進党としては無視すればいいのではないか。電力労連など、組合内で調査すれば、若い層を中心に自民党支持が大多数で一般的な世論調査結果と何ら変わりはなく、民進党が大事にしなければならない支持基盤でも何でもない。「脱原発を言うなら支持できない」とか言われても、「あ、そうですか、どうぞ」と言っていればいいのである。それで何票も減ることはない。

以上のような政策的な打ち出し方を一言でいえば「リベラルの旗」ということである。民進党がいつまでも「中道」とか「センター」とかいう足して二で割る無価値路線を掲げていると、永久に政権は獲れない。

次の衆院選は野党共闘を深化させるには、民進党のリベラル路線と共産党の左翼路線とがどこまでどういう風に折り合いを付けられるかということが主軸であるけれども、民進側に明確な路線が立っていなければそもそもその議論が成り立たない

夏から秋にかけて、民進党がそのようなリベラル軸をスックリと立てられるかどうかが問われている。(続く)

image by: YouTube(民進党)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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