九州を中心とした西日本の小商圏で爆発的なシェアを誇るドラッグストアがあります。マツモトキヨシの半分の店舗数ながら同程度の売上を可能にする、その戦略とは? 今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』で、著者の青山烈士さんが詳しく分析しています。
常識外れな行動
日本で初めて小商圏をターゲットとしたメガドラッグストアを多店舗展開する企業を分析します。
● コスモス薬品(ドラッグストア)
戦略ショートストーリー
節約したい方をターゲットに、「低コスト経営ノウハウ」に支えられた「安い」「品揃えが充実、便利」などの強みで差別化しています。
小さな商圏であってもエブリデイロープライスを売りにした大型店を出店し、食品を充実させることで、日常の買い物の場として顧客の支持を得ています。
分析のポイント
常識外れな行動
コスモス薬品は「日常の買い物の場」になるべく、食品の割合(品揃え)を増やしていると思われます。「日常の買い物の場」になるとは、顧客に毎日のように買い物に来てもらえるお店になるということです。一般的にはスーパーやコンビニが、これに該当するでしょう。
本来、医薬品や化粧品が中心のドラッグストアは「日常の買い物の場」にはなりにくいです。毎日、医薬品や化粧品を購入することは考えにくいですからね。コスモス薬品のように、ドラッグストアが「日常の買い物の場」になるというのは、簡単ではないということです。
ドラッグストア各社は食品の取り扱いを増やしていますが、コスモス薬品と競合各社とは、食品の位置づけが異なります。コスモス薬品は、毎日、来てもらえる店、つまり、「日常の買い物の場」にするために食品を充実させています。ですから、顧客が食品を目当てに来店して、食品だけ購入してもコスモス薬品としては、OKという考え方だと思います。そのことは、食品部門もしっかりと利益を確保できていることから明らかです。
一方で、競合他社は、チラシなどで掲載された安売りの食品で来店を促し、ついでに、医薬品や化粧品なども購入してもらいたいという意図があると思います。ですから、チラシ掲載の安売りの食品だけ購入する顧客を大歓迎ということにはならないでしょう。食品で利益をとるというよりは、医薬品や化粧品で利益を確保するという考え方だと思われます。同じドラッグストアであっても、食品の位置づけを見るだけで各社の戦略の特徴が伺えますね。
また、「日常の買い物の場」になることが、小商圏でも勝てるポイントになっています。食品スーパーの市場規模は約13兆円と非常に大規模であり、イオンやセブン&アイといった大手はいるものの、これだけ大きな市場を大手だけでカバーしきれませんので、まだまだ、中小地場スーパーも多数存在します。大手と中小の棲み分けができているとも言えますね。大きな商圏には、大手が大きな店舗を出し、小さな商圏には、中小地場スーパーが小さな店舗を出すという形です。これは、一般的というか業界の常識といえると思います。
この状況の中で、中小地場スーパーが出店しているような小さな商圏にコスモス薬品は大型店で出店攻勢をかけているわけです。まさに、常識外れな行動と言えますね。
もちろん、ただ常識外れなわけではなく、しっかりと計算された勝算のある常識外れな行動であると言えるでしょう。この行動により、元々は、食品スーパーが「日常の買い物の場」としての役割を果たしていたわけですが、コスモス薬品が、「安さ」「品揃え」を強みに「日常の買い物の場」としての役割を担うようになりました。
「日常の買い物の場」であるということは、顧客の来店頻度が高まりますので、小商圏であっても売上を確保できるわけです。逆にいうと「日常の買い物の場」になれなければ小商圏では生き残るのは難しいということですね。
コスモス薬品は、生鮮食品を扱っていないので、中小地場スーパーの存在価値がなくなるということはないと思いますが、同商圏内に「ディスカウント ドラッグコスモス」が出店するとなれば、中小地場スーパーにとっては、売上確保が困難になることは避けられないでしょう。
西日本で「日常の買い物の場」としての存在感を高めているコスモス薬品は、今後、東日本にも進出する予定のようです。どこまで快進撃が続くのか、非常に楽しみです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):小商圏型メガドラッグストア
- 競合(お客様の選択肢):食品スーパー、コンビニ、小商圏型ディスカウントストア、500平方メートル型ドラッグストア
- 状況:国内のドラッグストアの市場規模は拡大傾向のようです。
■強み
- 安い
エブリデイロープライス(365日、毎日安い) - 品揃えが充実、便利
医薬品・化粧品のみならず日用雑貨、生鮮三品以外の食品等の日常の暮らしに必要な消耗品を満載した、非常に便利な店舗
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
「低コスト経営ノウハウ」
- 販売管理費を抑えるノウハウ
店の大きさ、レイアウト、棚割りなどの共通化と自動発注システムにより、どの店舗でも同様の効率的なオペレーションを実現(売上高に対する販売管理費の比率が15%と他のドラッグストアよりも5%程度低い) - 原価を抑えるノウハウ
九州ナンバーワン小売り業者であることを活かしたメーカーとの交渉力。安さと品質を両立したPB開発力。
上記のような低コストを実現するノウハウが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- 節約したい方
◆戦術分析
■売り物
- 医薬品、化粧品、食品、雑貨(青果、鮮魚、精肉などの生鮮食品は基本的に扱わない)
→売り上げに占める食品の割合が5割を超えています。競合他社の食品の売上割合は、ウエルシアが約2割、マツモトキヨシで1割程度であることから、コスモス薬品の食品の売り上げが突出していることがわかります。このことが、店舗数では、ウエルシアやマツモトキヨシの半数程度にも関わらず、売上では、マツモトキヨシと同規模であることにつながっているようです。
■売り値
- エブリデイロープライス(EDLP)
日替わりや時間帯別の特売やポイントカードを廃止、クレジットカードや電子マネーも取扱いなし
→コストを可能な限り抑制し、良い商品を1円でも安くお客様に提供するための対応です
■売り方
- セルフセレクション
豊富な品揃え、そして広く開放的な店内でじっくりと商品を吟味できます - ライトカウンセリング
迷われているお客様に対しては的確なアドバイスを行います
→6年連続の顧客満足1位を獲得しています(2016年度JCSI第6回調査)
■売り場
- 小さな商圏(商圏人口1万人)に売り場面積1,000~2,000平方メートルの大型店を出店
- 「ディスカウント ドラッグコスモス」という屋号で西日本を中心に約800店舗を展開
→特に九州では約500店舗を展開し、圧倒的なシェアを獲得しています
※売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: WikimediaCommons(Ikokujin)