例えば職場やマンション管理組合の問題を解決すべく声を上げようとしても、賛同者が得られないことにはその訴えは届きにくいものです。そんな状況、どう打破すればよいのでしょうか。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者でマンション管理士の廣田信子さんが、いじめについての比較行動学の興味深い研究結果を引きながら、そのヒントを記しています。
40%で管理組合を生まれ変わらせることができるわけ
こんにちは! 廣田信子です。
公明正大に運営がされている管理組合と、一部の人が権力を持ち不透明な運営が続く管理組合とは、何が違うのか…といつも考えています。いじめについての比較行動学の研究に、そのヒントがありました(『いじめを許す心理』正高信男著より)。
いじめが起きているクラスといじめを許さないクラスとでは、何が違うかです。いじめを許さないクラスは、いじめをする人が現われても、それを見てみぬ振りをする「傍観者」の数が圧倒的に少ないのです。いじめをなくすカギは、「いじめをさせない」ではなく「いじめを許さない」環境をつくることだというのです。
ここに12人の集団があったとして、Aくんがいじめっ子でBくんをいじめたとします。このとき、あとの10人が、見てみぬ振り、傍観者になってしまったら、AくんのBくんに対するいじめはひどくなっていくでしょう。あとの10人は、たいてい、「Aくんに注意をして、自分もいじめの標的になるのは嫌だ。でも、他の何人かがいじめを止めるなら自分も止めよう」と考えます。
では、どのくらいの人がいじめを止める側に回るなら、自分もいじめを止める側に回るかという、調査がされています。難しい統計学の部分は省きますが、ある一定の割合以上、いじめを止めようとする人がいると、自分も止める側に回るという人が雪だるま式に増え、最終的にいじめを止める人が87%に達し、いじめは収まります。
逆に、最初にいじめを止めようと思う人が、この割合を少しでも下回ると、いじめを止めようという人の割合はどんどん減って、最終的に10%になってしまいます。ほとんどが傍観者になり、いじめはエスカレートしてしまいます。
この、分岐点になる割合は40%だといいます。
いじめがないクラスには、いじめをしない正義感の強い生徒が集っていて、いじめがあるクラスには、問題がある生徒が集まっているという訳ではなく、その差はほとんどないというのです。
たいていの子は、いじめはよくないことと思っているけど、自分一人でいじめを止めるほどの勇気もない…。いじめが起きたときに、それを止めようと思う人が40%いれば、それに続く人が増えて、いじめは続かなくなる、反対に、止めようと思う人が40%を下回ると、止めようと思った人も、孤立するのが不安になって、どんどん傍観者の側に回ってしまい。いじめが深刻化する。大きく異なる2つの結果も、最初の違いはほんの少しなのです。
そのほんの少しの差は、どこから生まれるか…。例えば、担任の先生が、金八先生のような熱い先生で、常日頃から、いじめがいけないことを熱く語り、何かあったら相談に乗ってもらえるという安心感を与えていたら、クラスがいじめへの臨界点を越えることはないでしょう。
逆に、担任の先生までも、弱い立場の人を追い込めるような言動をしていたら、いじめ黙認側が連鎖的に臨界点を越えてしまい、ほとんどが、いじめを見てみぬ振りをする傍観者になってしまうのです。だから、先生の存在は大きいのです。
と同時に、問題の解決のために賛同者を増やすとき、最初から全員を目指さなくてもいいということです。世の中の多くの人は、他人の動きを見てから自分が次の行動を決めているのです。協力行動を選ぶ人が臨界点を少しでも超えれば、あとはドミノ倒しのように協力する人が増えるのです。
私は、この40%という数字は、ものすごくリアルな数字だと思います。管理組合でも、全員に管理組合運営の現状に、関心を持てといっても難しいのですが、真ん中のほとんどの人は、みんなの方向に流れる人と言ってもいいと思います。
管理組合で長年権力を持つ人による不透明な管理組合運営を改善したいと思っても、声を上げるのは勇気がいります。多くの人が傍観者で総会に委任状を出すだけなら、総会で勇気を持って発言しても数で押し切られ、その後、クレーマー扱いされてしまうことにもなります。
そうならないために、まず味方を増やそうと言いますが、行動は消極的でも内心は応援してくれている人を40%までもって行けば、流れを大きく変えることができるのです。
いっきに80%の理解を得ようと思うとものすごくハードルが高いですが、何とか40%までもって行くと、あとは連鎖的に87%まで進むということは、いじめの傍観者を減らすことで、いじめのないクラスをつくるということと社会心理学上、同じじゃないかと思いました。少しづつ傍観者を減らすことで、声の大きい人の専横を許さない管理組合運営にもっていくことができるのです。
普段からコミュニティができているマンションは、いざという時、この40%を確保できるので、管理組合運営がおかしな方向に行かないのだと思います。
大きく改善したい問題を抱えていたら、まずは、傍観者を減らし、潜在的賛同者40%を目指してみませんか。
image by: Shutterstock.com