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イオン、過去最高益も本業は赤字。苦戦する小売業に未来はあるか?

先日、2017年3~8月期連結決算の営業利益が過去最高を記録したと発表したイオン。しかし本業のスーパー部門は赤字、株価も低迷するなどその苦悩は解消されたわけではありません。今回のメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では著者でMBAホルダーの理央さんが、イオン苦戦の原因を分析するとともに同社が取り組みを開始した「コト消費」について詳しく解説しています。

最高益を更新しながら苦悩するイオンに何を学ぶべきか?

2017年3~8月期連結決算を発表したイオン。過去最高益をマークしたとのこと。しかし、17年10月5日の日本経済新聞の記事には、

営業利益が前年同期比18%増の850億円と、11年ぶりに過去最高を更新した。ただ11年で売上規模は7割増え収益性はむしろ低下、本業のスーパーを中心に停滞感はなお強い。

とある。通期においても、連結での営業利益は過去最高になった。しかし、全体の利益は改善されたものの、自社事業の中心となる、イオンリテールなどを含む、総合スーパーでは104億円の赤字、ダイエーなどの食品スーパーの部門も31%の減益となったとのこと。両部門の不信を、金融、ドラッグストア、不動産で補った。

イオンに限らず、苦戦をする小売業は多い。ITの進化による生活者の購買行動の変化の中、情報量が増え、メディアの細分化が細分化したことによって、欲しいもの、必要なもの、安いものを探しやすく、買いやすくなる。アマゾンを始めとするEC電子商取引の台頭や、メルカリなど個人売買の普及など、リアル店舗を中心とする小売業は、厳しい環境に中にあると言える。

コト消費に取り組むイオン

この決算発表に先立ち、私が注目していたイオンの新規事業モデルが2つあった。まず1つは、飲食を中心とする体験型商業施設、「イオンモール・ジャカルタ・ガーデンシティ」を、インドネシアに開業するとのこと。日本経済新聞9月30日の記事によると、

テナントの半分以上を飲食店が占め、大型の遊興施設も備えるなど体験型の「コト消費」に照準を合わせ、衣料品店のスペースは圧縮した。

とある。物販を中心とせず、飲食スペースをメインにし、楽しみに来てもらうというコンセプトなのだろう。

その背景には、ECの広がりは、インドネシアでも例外ではない。小売業の店舗販売の伸びが緩やかになっているという、外部環境の変化に対応し、イオンは自社プロダクトのラインアップを変更。新モールの開業で、収益の上がる想定顧客である、都市部の中高所得層の、潜在的な需要を掘り起こす意図があるとのことだ。モノ消費よりもコト消費に対応する姿勢を明確に出している。

もう1点は、「THE OUTLETS」というアウトレットモールを広島市に出すとのこと。ここでは、スポーツ用品や衣料品のアウトレット商品を取り扱う店舗に加えて、シネコンやスケートリンクなど、エンタテーメントの施設を用意する計画だ。

こちらもコト消費の分野を充実させている。そして、さらにこれまでのリテール部門になかった、アウトレット商品を扱う、新業態のビジネスモデルになる、という点にも注目したい。

中小企業がイオンの打つ手に何を学ぶか?

発表されたばかりの、イオンがうつこれらの新しい一手に、中小企業は何を学ぶべきだろうか?

まずは、コト消費。そもそも、市場における競争は、スペックや価格などの商品属性ではなく、商品の周りにある価値によって起こるといわれている。具体的には、使用した後の満足感や自身に起こる変化への充足感だ。

その価値にも、機能的な価値と、情緒的な価値があり、イオンのような消費財を扱う場合は特に、生活者は、まずは感情や直感すなわち情緒的価値」でまずは判断をし、競う的価値を確認することが多い。

一般的に、価格や製品特徴を中心に購買を決定する傾向をモノ消費といい、一方で、プロダクトの使用感や期待度が購買の要因になる傾向をコト消費という。イオンのようなリアル店舗をもつ小売業のケースで言えば、コストリーダーシップ戦略による価格訴求や、商品ラインアップの充実がモノ消費対応で、買い物をするだけでなく、映画やスケートを楽しみ、楽しく食事ができる要素を前面に出すことがコト消費への対応となる。

アメリカのショッピングモールなども、ファッションなどの物販に加え、フードコートやちょっとしたレストランなどの飲食店に、映画館やギャラリーなど、エンタメ要素を充実させている。国土が広いアメリカでは、日本のように毎日の食事の買い物をする、という購買習慣よりも、週末にまとめ買いをする傾向が強い。したがって、自動車でモールにいき、3~4時間滞在して帰るという消費者が多い。こうなると、単に買い物に行くのではなく、「楽しみに行くということが行動の目的になる。これが、アメリカのコト消費なのだ。

今回のインドネシアでのコト消費対応の業態も、購買行動の変化に対応しての一手といえる。

コト消費に対応するためにはどうすればいいのか? 単に、広告を変えたり、流行りのSNSをやるという手法論ではない。イオンがインドネシアでやったように、まずは、外部環境を正しく把握すること。次に、市場性が期待できる想定顧客層を明確にし、ターゲットたちがどのような行動をとり、何に価値を感じるかを、自社なりに定義することから始める。

次に、顧客価値に対応できるよう、自社プロダクトのラインアップを整理整頓し、組み替えたり新規開発をする。誰に、何を買ってもらうのかを徹底的に考えた上で、その顧客層に響く表現で、到達できる可能性が高いメディアを組み合わせて発信する。ここまで来て、初めて「どうやって」買ってもらうのかを考える。

イオンのような、コストリーダーシップを取れる巨大企業までが、中小企業の得意なコト消費のエリアに参入してくるのは、ある意味脅威ではあるが、参考にできることは多い。手法論に振り回されることなく、マーケティングの本質に則り、市場がどこで、何を買ってもらうのかを明確にするという、基本に忠実になることから始める良い機会だといえるだろう。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

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ビジネス・仕事に大事なのは、情報のキモに「気づき」どう仕事に「活かす」かです。トレンドやヒット商品には共通する「仕掛け」と「思考の枠組み」があります。このメルマガでは、AI、5G、シェアリングなどのニュースや事例をもとに、私の経験とMBAのフレームワークを使い「情報の何に気づくべきか?」という勘どころを解説していきます。現状を打破したい企画マン・営業マン、経営者の方が、カタくなっている頭をほぐし情報を気づきに変えるトレーニングに使える内容です。

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