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【書評】11歳で天涯孤独に。「マルイ」創業者の波瀾万丈一代記

今回の「3分間書評」で取り上げるのは、全国に展開する大型ファッションビル・マルイの創業者である青井忠治氏が、幼い頃の天涯孤独な身から、成功に至るまでの波瀾万丈な人生を記した一冊。不法占拠、床抜け事故、親しい者との別れ……度重なる苦難に彼はどう立ち向かっていったのでしょうか。

『景気を仕掛けた男』 出町譲・著 幻冬舎

こんにちは、土井英司です。

正力松太郎、瀬島龍三、上野千鶴子、利根川進、坂東眞理子、角川春樹、藤子・F・不二雄、藤子不二雄A、青井忠治、浅野総一郎、大谷米太郎、黒田善太郎、安田善次郎、吉田忠雄…。

みなさんは、これらの人物の共通点がおわかりでしょうか?
いずれも有名人ですが、じつは彼らの共通点は「富山県出身」であること。

富山県といえば、日本を代表するお金持ち県ですが、それはその徹底したお金教育県民の勤勉さが原因でしょう。

そんな富山県から出た経営者で、マルイの創業者となったのが、青井忠治(あおいちゅうじ)。本日ご紹介する一冊は、そんな青井忠治の波瀾万丈の一代記です。

広大な屋敷に生まれ、「お坊ちゃん」と呼ばれて育った忠治ですが、父の事業の失敗が原因で、わずか1歳で母と離ればなれに。22歳のとき、はしかで右目の視力を失い、11歳の時には父が逝去。母は忠治が10歳の時に再婚しましたが、嫁いでわずか3カ月後に亡くなっています。

本書には、天涯孤独となった忠治が、いかにして東京で身を立てて成功するに至ったか、その軌跡が書かれています。

自社を不法占拠した中国人との闘い、かわいがってくれた丸二商会店主・村上との別れ、テレビを見たい客が殺到して床が抜けた事故、労働組合との交渉……。

たび重なる危機を忠治がどう乗り越えてきたのか、ベストセラー『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』で知られる作家の出町譲さんが、今回も面白いノンフィクション・ノベルに仕上げています。

いくつか、エッセンスを見て行きましょう。

忠治は尾津が子供にせんべい袋を渡したことに感動していた。どんな子供でも、お金がなくお腹が減れば、盗みを働くかもしれない。せんべいを盗もうとしていた男の子も、尾津さんに救われた。ぎりぎりの段階で盗みをしなかったことが、男の子の将来にとってどれほどよい影響を与えることになるか。俺も将来、お金をためて、貧しい子供たちに寄付をしたい

父の事業の破綻は、忠治の運命をも狂わせた。母のうたの実家、加藤家は、娘をこんな男のもとには預けられないと実家に戻した。忠治がわずか一歳の時に、母は出て行ったのだ

ある日いつものように、加藤家に遊びに行った。声をかけようとしたが、うたは手を左右に振って「そばに来るな」と意思表示した。うたは黒地の友禅の打掛を纏っていた。見慣れた母とは全くの別人で、声をかけるのもためらわれた。その日はうたの婚礼の日だった。忠治はちょうど十歳だった。これが母を見た最後だった

「小杉にいても、俺は邪魔者だ。天涯孤独なんだから、いっそのこと、東京で頑張ろう」

震災という災いを転じて福となす。この村上の姿勢を忠治は勉強した。終戦直後いち早く、東京で事業を再開したのは、村上の関東大震災の直後の手法を学んだものだった

忠治は翌朝、先輩に「この店で一番偉い人になるにはどうしたら良いでしょうか」と尋ねた。その先輩は「そうだな、第一に商売がうまくなることが大事だ。それに字も上手で、そろばんもできなければならない」と答えた。それから忠治は心を入れ替えた。早く商売を身につけるため、人を捕まえてはそろばん、習字、簿記など商売の基本を習った

「売りつけるというんじゃいけない。買っていただくのだ。それもだますんじゃない。良い品物をよくご覧いただいて、納得した上で買っていただくんだ。だから商品一つ一つについて、よく勉強してくれ。そしてよく説明するんだ。お客様に、いい買い物したと思っていただかなければならない」

緑屋は最終的には、堤清二率いる西武流通グループの傘下に入った。緑屋という名称は消滅したのだ。経営の多角化に一切興味を示さなかった忠治が、「戦争」に勝利した

「一つは貸しすぎを避けることだ。お客様を不幸にするからだ。そしてもう一つは、あくまで小口に徹することだ。大口は一番危険であり、小口なら回収率は安定する。三番目は、貸せない客に対しては、勇気を持って断ることが重要だ」

「世の中が不況だからといって、自分の店まで不景気にすることはない。不況でお客様が来ない、売れないということなら、どうすればよいかを考えるまでのこと、一生懸命に真剣に考えれば必ず打開策がでてくるものです」

景気は自らつくるもの」という忠治のメッセージは、現在に生きるわれわれにも、希望と勇気を与えてくれます。

ビジネスパーソンはもちろんのこと、ひとかどの人物になろうとする若者にも、ぜひおすすめしたい一冊です。

image by:Wikipedia

 

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著者はAmazon.co.jp立ち上げに参画した元バイヤー。現在でも、多数のメディアで連載を抱える土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介する無料メルマガ。毎日発行。
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