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中国がどうやっても外見を美しく保たなければならないわけ

9月3日に北京で行われた、抗日戦争勝利70年記念の軍事パレード。この行事を通して中国は各国にさまざまなメッセージをアピールする狙いがあると見られていましたが、「その目論見はうまく行ったとは言えない」とするのはメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』の著者・高城剛さん。「成功したのは当日の天候だけ」としながらも、その晴天は「中国内部の危機の現れ」と分析しています。

中国がどうやっても外見を美しく保たなければならないわけ

今週は中国の「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年記念」の軍事パレードにつきまして、私見たっぷりにお話ししたいと思います。

先週9月3日中国北京市で、「抗日戦争および世界反ファシズム戦争」における中国の勝利を記念しまして、天安門広場で大規模な軍事パレードが開催されました。これは、習近平氏が2012年11月の中国共産党第18回全国代表大会において、中国共産党中央委員会総書記と中国共産党中央軍事委員会主席に就任して以降、最初の大規模な祝典イベントになります。

各国首脳級が出席したのはロシア、韓国、南アフリカなど30カ国で、ロシアを除く欧米主要国は首脳級の派遣を見送りました。このあたりは、アジア開発銀行への参加と違い、欧州主要国の中国との「本当の距離」を窺わせるものがあります。

このイベントを通じて中国は、「第2次世界大戦の戦勝国」として米欧主要国との連帯をアピールする狙いもあり、また、「アジアの大国」のイメージを世界へさらに強く押し出したかったのでしょうが、その目論見はうまく行ったとは言い難いものになりました。

そんな中、うまくいったのは「天候」にあります。CNNによりますと、この軍事パレードのために、北京およびその周辺での自動車走行や工場の操業は一切停止となり、PM2.5による大気汚染は完全に「アンダーコントロール」され、見事な晴天となりました。

この規制で面白いのは、渋滞を引き起こす原因とみられる結婚式のあとの自動車走行や火葬を伴うお葬式、そして花火や爆竹、屋台と、中国の首都北京の暗雲は、実に幅広い要因があることが理解できます。

この中国ならではの大々的な規制を香港の新聞アップルが試算したところ、この「習近平青空大作戦」の経済損失は、日本円にして少なくとも3,800億円に上るそうで、北京市中心部の飲食店だけでも営業停止による損失は200億円に達したと報道されました。

また現在、中国では水面下の政治抗争が悪化しており、それに伴って不明な爆発事故が相次いでいます。一方、爆発事故で死亡した消防士や市民の 賠償金の金額をめぐり、遺族と当局の交渉も難航しています。これはいまの中国の危機的現状を物語っており、どうやっても外見を美しく保つ必要があります。それほど、中国内部で危機が続いているとみて間違いありません。

その上、北京の晴れ晴れとした晴天=「習近平青空大作戦」の数日後には、再び「北京グレー」となり暗雲立ち込めることになりました。パレードの翌日操業解除された工場から次々と黒煙が立ち上がり、わずか半日でPM2.5は7倍の数値を記録したのです。

中国政府は大気汚染そのものではなく批判に神経をとがらせており、中国版ツイッターの新浪微博(ウェイボー)を検索したところ、出てきた投稿は3件のみだったと、CNNが報じています。

今回のパレードのための「習近平青空大作戦」の前には、通称「APECブルー」がありました。昨年11月に北京でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が行われた際の2週間、大気汚染は完全に「アンダーコントロール」され、見事な青空が実現したことを「APECブルー」と呼んでいましたが、APECが終わるとすぐに煙まみれの空が戻ってきたため、中国では、すぐに消え去ってしまう美しい ものを指す言葉として「APECブルー」が使われ始めた、とCNNは結んでいます。

現在、暴落を続ける株式市場や内紛を、中国政府は「アンダーコントロール」できるのか? それとも、中国の発展そのものが「APECブルー」であり、このあと暗雲立ち込めるのか? いま短期ではなく、中長期的な「晴天」が求められているのは間違いありませんが、その術は見つかってないように思います。

image by: qingqing / Shutterstock.com

 

高城未来研究所「Future Report」』より一部抜粋

著者/高城剛(作家/クリエイティブ・ディレクター)
1964年生まれ。現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。毎週2通に渡るメルマガは、注目ガジェットや海外移住のヒント、マクロビの始め方や読者の質問に懇切丁寧に答えるQ&Aコーナーなど「今知りたいこと」を網羅する。
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