今や私たちの生活には欠かせない存在となった、Amazonなどのインターネット・ショッピング。しかし、それとは真逆の手法である「訪問宅配サービス」で成功しているのが、明治です。「宅配員が一軒一軒訪問し、試供品を渡す」という、一見ムダが多くコストがかかる宣伝方法に思えますが、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』の著者でMBAホルダーの理央さんは、この手法にこそインターネット時代が忘れてしまった「小売業の原点」があると語ります。
わざわざ試供品を届けに来た明治宅配サービス
先日、自宅で仕事をしていたら明治の宅配サービスの代理店さんが、3種類6個の試供品とカタログをくれました。
試供品の中身は、医師が認める宅配ミルク、明治プロビオ R-1のヨーグルト、そのドリンクタイプ3種類を各2個ずつという内容です。
一緒にくれたカタログには「家族の笑顔を届ける毎日の栄養管理」というキャッチコピーが書かれている「明治宅配専用商品のご案内」と表紙に書かれています。
中身のコンテンツは、各商品の説明、明治の宅配の仕組み、注文用紙で、お届けいただいた方は「1本からでも宅配します」と言っていました。
Eコマースをはじめとして、現在インターネットを使えば、このような人力を使わなくてもいい時代です。
「人力の宅配サービスは効率が悪いのに」「無駄なコストだよね」と考える人も多いかもしれません。
明治宅配サービスの「売れる仕組み」
明治の宅配サービスが収益をあげる仕組みはどうなっているのかを、まずは考えてみましょう。
1. 無料で試供品を配布
2. 試飲してもらう
3. お客様が良いと思ったら注文
4. その商品については継続購入
5. さらにその商品以外にも買ってもらえる可能性がある
以上のような構造が見てとれます。
1と2によって「人は知らないものは買わない」「試してみないと買いたくない」という顧客心理上の「バリア」を下げています。
しかも、宅配の人を直接話をして、納得した場合のみ試供品をもらうので、比較的安心して試飲することができます。
この点は「インターネット」ではできない人間ならではの手法です。この時に、2から3のステップに行くのかが最初の「目標」です。
インターネット通販ではこの数値を「転換」と呼び、転換率を一つの 重要指標(=KPI)に設定します。
このケースで言えば、試供品を渡した世帯数のうち、何世帯が契約してくれるか、が転換率になります。
一度契約をしてくれた方は、辞めるまで継続して宅配を受けるという契約になるので、4からあとは獲得予算などが不要になります。
また、5のステップで牛乳を買った人がヨーグルトも追加で継続購入をしてくれると、獲得コストをそれほどかけずに、定期的な売上増が見込めるのです。
このように、顧客の初期投資額を低く(フリー)設定し、徐々に高いもの(プレミアム)を買ってもらう仕組みを、フリーミアムと呼びます。
オンラインゲームで、無料でゲームをダウンロードし、有料で課金アイテムを購入する仕組みと同じです。
この時に重要なことは、初期投資としてのカタログ作成、試供品、配布の人件費をいつまでに回収できるかという指標をシミュレーションしておき、3の転換率の実績を常に上げてゆくようしっかりと管理することが重要です。
さらに、4以降の継続購入においても、3までとは利益率が高くなりますが途中解約もあるため、解約率もシミュレーションし、事業計画を立てることが必要なのです。
中小企業は何を学ぶべきか?
この明治の宅配サービスから、中小企業は何を学ぶべきでしょうか?
宅配によるサービスによる継続購入の仕組みで、顧客を固定化しロイヤルティ育成につなげることができます。
まず、顧客は知らないものは買わないという大前提を忘れないことが重要でしょう。
インターネットが浸透している現在、どうしてもインターネットに依存してしまい、物事の効率化を求めてしまう傾向にあります。
しかし、ビジネスは人と人がおこなうもの。
明治では、人がしっかりと説明し、商品の良さを説明することで、定期契約を促しているのです。
これは、一度買った顧客についても、同じことが言えます。
宅配を届ける時に訪問することで各顧客の顔や様子もうかがえるはずです。
その際に「お嬢さんに追加でヨーグルトもどうですか?」と新製品を試してもらうこともできますし、もちろん現在買っているものと、同じ商品の増量も期待できます。
このようなビジネスモデルとやり方は、富山の置き薬(配置薬)と共通します。
私が子供の頃には一般的でしたが、家に常備薬を入れておく薬箱があり、薬売りの方が、そこまでに使った分だけを補充しに訪問をしてくれるという立て付けの仕組みです。
今は人件費などもあり減少傾向にあるようですが、顧客ニーズと必要数量を把握でき、継続購入にもなる秀逸な仕組みです。
さらに一旦、自社の薬箱を置いてもらったら、他の薬局などでその常備薬、例えば風邪薬や胃腸薬を買うことはないため、顧客に浮気されません。
その意味では、髭剃りの柄(え)を買ってもらうとブレードを継続購入してもらえるレーザーブレードのビジネスモデルと同じでもあります。
顧客のニーズを直接聞ける、さらに売ったら売りっぱなしということではなく、一度以上購入してくれたお客様は重要顧客であること、そして重要顧客にサービスを自らが提供する、という原点に立ち返ることを再認識できます。
image by: 明治まごころ宅配 Facebook