今年8月22日、牛丼チェーンの松屋フーズがオープンさせた「松軒中華食堂」が話題を呼んでいます。同社としてはとんかつに次ぐ新業態となりますが、なぜすでに激戦が展開されている中華料理業界に参入したのでしょうか。そしてそこに「勝算」はあるのでしょうか。MBAホルダーの青山烈士さんが、自身の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』でその戦略・戦術を分析するとともに、「松軒中華食堂」の今後を占います。
競争することをいとわない
牛丼チェーン「松屋」が展開する注目の新業態を分析します。
● 松軒中華食堂(牛丼チェーン「松屋」が展開)
戦略ショートストーリー
コストパフォーマンスを重視する方をターゲットに「牛丼チェーン松屋で培ったノウハウ」に支えられた「手ごろな価格(気軽に立ち寄れる)」等の強みで差別化しています。
こだわりの食材を使った本格中華がリーズナブルな価格で食べられることに加えて、ちょい飲みニーズに応えることで、顧客の支持を得ています。
分析のポイント
「競争することをいとわない」
牛丼の「松屋」の出店状況を見てみますと、2017年4月の段階で943店舗、半年後の10月には950店舗と微増ですが、とんかつ(松のや)の出店状況は2017年4月に119店舗で、10月には134店舗となっています。牛丼よりとんかつの方が店舗数が増えているということですね。
このデータからは、とんかつ店の方が成長余地があり、一方で牛丼店は、成長(出店)余地があまりないということが読み取れます。
牛丼チェーントップの「すき家」、そして「吉野家」の店舗もここ数年は横ばいですから、牛丼店は飽和状態であると言えます。だからこそ、牛丼業界で厳しい競争をしながらも牛丼以外の新しい業界にてブランドを構築することに各社が力を入れているわけです。
例えば、「すき家」グループも複数のブランドを持っていますが、最近では回転すしの「はま寿司」が、成長株のようです。ちなみに、「スシロー」「くら寿司」「かっぱ寿司」に「はま寿司」を加えた4チェーンは、回転寿司の4強と呼ばれているそうです。吉野家は、グループ会社の讃岐うどんの「はなまる」の店舗数を増やしています。
そういった状況の中で、「松屋」は、とんかつの「松のや」に力を入れながらも新たに中華に参入したということです。
やはり、「松屋」を見ていて感じるのは、牛丼という競争の激しい市場でしのぎを削ってきただけあって、新たな業界に参入する際も、競争することをいとわないということです。
できれば、競争は避けたいものですが、競争のないブルーオーシャンを探すのは簡単ではありません。ですから、競争がある中でも生き残るノウハウを持つ企業は強いと思います。
松屋にとっては、とんかつも中華も、競争は避けられませんが牛丼からみれば、魅力的に映っているのかもしれませんね。
そして、今回のお伝えしたいポイントは、まずは「試してみる」ということです。松屋にとって、松軒中華食堂は、テスト店舗的な位置づけのように見受けられます。実際に、オープンしてから、すぐに営業時間を変更するなどお客さんの反応を見ながら、オペレーションを変えているようです。
完ぺきに準備して、オープン後も完ぺきな運営を行えることが理想ですが、まずあり得ません。ですから、松軒中華食堂のように、試行錯誤をしながら、良いお店(勝てるお店)を作っていくというスタンスは大事だと思います。その店の商品やサービスなどが売れるかどうかは、実際にお店をオープン(商品をリリース)してみないとわかりませんからね。
そして、重要なのはオープン(リリース)した結果をみて、改善して、その結果をみてまた改善するするということを繰り返すことです。そうすることで、自店の強み(磨くべきポイント)も明確になってきますし、その蓄積が差別化につながって、ひいてはブランドの構築にもつながっていきます。
競争がある中でも生き残るためには、こういったスタンスが必要なのだということを「松屋」は経験からわかっているのでしょう。学ぶことの多い好事例だと思います。
今後、「松軒中華食堂」がどのように成長していくのか注目していきたいです。
◆戦略分析
■戦場・競合
- 戦場(顧客視点での自社の事業領域):中華食堂
- 競合(お客様の選択肢):日高屋、中華東秀、餃子の王将、ぎょうざの満州など
- 状況:中華料理店の市場規模は横ばいのようです。
■強み
1.手ごろな価格(気軽に立ち寄れる)
- お財布にやさしい
→500円以内のメニューが豊富 - 駅前立地
2.コストパフォーマンスが高い
- こだわりの食材を使うなど、食材にこだわりながらも価格は抑えています
★上記の強みを支えるコア・コンピタンス
「牛丼チェーン『松屋』で培ったノウハウ」
- ローコストオペレーションノウハウ
- 松屋との連携 →人材や食材の仕入れ、店舗開拓など
上記のような、ノウハウが強みを支えています。
■顧客ターゲット
- コストパフォーマンスを重視する方
- 仕事帰りにちょい飲みしたいビジネスパーソン
◆戦術分析
■売り物、売り値
「お手頃な中華料理」
- 米と生鮮野菜は全て国産品を使用
- 麺は名だたるラーメン職人からの信頼が厚い「三河屋製麺」製のオリジナル麺を使用
- 醤油拉麺の醤油は、1724年創業の入正醤油など、厳選した醤油を使用
- 塩拉麺の塩は、塩づくりの歴史的中心地である赤穂の天塩などを使用
<メニュー例>
- 醤油拉麺:450円
- 塩拉麺:450円
- 炒飯(スープ付):400円
- 生ビールと餃子(6個)セット:460円
- 180円ちょいのみおつまみ
→冷奴、ポテトサラダ、ポテトフライ 他 - 270円均一おつまみ
→おつまみチャーシュー、おつまみ唐揚げ 他
他多数
■売り方
- ランチタイム:11時~15時30分
- ディナータイム:17時~23時
→松屋では当たり前の24時間営業は未導入。松屋では、お馴染みの食券制も未導入。
■売り場
- 東京都内の京王線千歳烏山駅北口前に出店(駅から徒歩1分)
※売り値や売り物などは調査時の情報です。最新の情報を知りたい場合は、企業HPなどをご確認ください。
image by: 松屋フーズ