MAG2 NEWS MENU

後悔先に立たず。年金のプロが明かす、「障害年金」の意外な落とし穴

最近では精神的疾患で「障害年金」を申請する人も多くなりましたが、怪我や病気と違って他人からは具合がわかりにくいということもあり、ついつい病院に行くのを遠慮してしまう方も多いと言います。しかし、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさんは、退職前に病院に行くことを強く勧めています。その理由とは?

会社に迷惑になっちゃうから退職した後に病院に行こうかな…ちょっと待った!支給される障害年金に影響大

つい最近、障害年金に関する記事で「その傷病で初めて病院に行った初診日がめちゃくちゃ大事だ」って話をしましたけど、今回のような事が絡むからですね。初診日にどの年金制度に加入していたかどうかで給付が全然変わってくるんですよ。

会社に勤めている時に体調を崩したけど、忙しくて病院なんて行ってられん!! って我慢してしまう人いますよね。仕方ない部分も多いと思います。仕事優先を続けた結果、いつしか体が悲鳴を上げて休みがちになったり生産性が落ちたりします。我慢強い人や重要な役職に就いてる人は責任感を感じてついつい自分の事を後回しにしてしまいがちなので気を付けてくださいね。

さて、責任感の強い人は仕事休むなんて考えられない! みたいな人もいます。だから、病院行くんだったら会社に迷惑をかけないように辞めてから病院に行こうとか考えるかもしれないですね。辞めたら失業手当でなんとか…くらいは考えるかもしれませんが、何も考えずに辞めてしまうととんでもない大損をしてしまう事になります。会社勤めならできる事なら辞める前に病院に行ってもらいたい所であります。辞める前に病院に行ったか、辞めた後に病院に行ったかで社会保障の手厚さが全く変わってしまうからです。

というわけで事例。

1.昭和60年(1985年)12月14日生まれの男性(今は32歳)

● 何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

現在は29歳の妻と、6歳と4歳の子有り。男性の年金記録。20歳になる平成17年(2005年)12月から大学卒業する平成20年3月までの28ヶ月間は学生納付特例免除。

※参考

学生納付特例免除は将来の老齢基礎年金額には全く反映しない。年金受給資格期間10年以上の期間に組み込むだけの期間。ただし、今回の障害年金を貰う上では重要な期間遺族年金の時も同じ

平成20年4月から民間企業に就職したものの、平成29年2月頃から抑鬱状態が続くようになり会社を休みがちになってしまった。平成29年12月31日をもって退職する事にした。平成20年4月から平成29年12月までの117ヶ月は厚生年金。この間の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)の合計額の平均値(平均標準報酬額)は35万円とする。病院は会社を辞めてからにしようと思っていたが、年末年始になる前に妻の説得で平成29年12月18日(初診日)に心療内科に通い始めた。

ちなみに平成29年12月11日から有給休暇を消化しながらそのまま平成29年12月31日付で退職する事になった。

なお、会社に在籍中は「健康保険」に入っているから休んでる間は申請により傷病手当金が支給される。支給される日数は労務不能で休んだ日数分(傷病手当金支給申請書に医師の意見を書いてもらわなければならない。申請自体は普通は会社がやる)。

傷病手当金(協会けんぽ)

休み始めて4日目から支給対象になる。12月11日から休み始めたから、12月14日から支給対象。3日間は必ず連続して休まないと傷病手当金の条件を満たさない(この3日間を待機期間という)。傷病手当金額は支給開始日以前12ヶ月の平均給与(平均標準報酬月額)を30日で割った額の3分の2が支給される。直近12ヶ月の平均標準報酬月額は28万円だったとする。よって支給される傷病手当金日額は28万円÷30日÷3×2=6,222円。ただし、有給休暇日額が9,000円支払われる事になっていた為、12月14日から12月29日までの分は傷病手当金日額を超えてるから手当金の支給無しだった。

※注意

給与日額や有給休暇日額が傷病手当金日額より下回るなら、差額が傷病手当金として支払われる。また、有給休暇で休んでても3日間連続で休んでいるなら待機期間が完成する。

実際の傷病手当金支給開始日は平成29年12月30日分から。ここから最大1年6ヶ月貰える(土日祝関係無い)。とにかく医師が労務不能と判断して休んだ日数支給される。1年6ヶ月目一杯受給という事になると、1年6ヶ月を日数にしたら540日×6,222円=3,359,880円で結構な額になりますね^^;。

ちなみに傷病手当金は毎日支給されるわけではなく、1ヶ月分とか数ヶ月単位とかで申請する。会社の給与締め日とかによって支払日が異なる。

しかし、会社を退職すると傷病手当金は貰えなくなるのか? 退職後も傷病手当金が支給されるには退職日以前1年間継続して健康保険の被保険者であり、傷病手当金を退職日までに受けてた、または受けられる状態だった(3日間の待機期間が完成し4日目が到来していたとか)場合は退職後も傷病手当金を受けられる。この男性なら問題ないけど、うっかり退職日に無理して出勤したら退職後の傷病手当金は受けれなくなるから要注意労務不能で休んでる期間が引き続いている事が退職後の傷病手当金の支給要件だから。例えば、在職最後の日くらいはご挨拶のために無理してでも出勤しなければ…とか馬鹿正直に出勤してはダメです^^;。更に退職後も傷病手当金貰ってる人が回復して、アルバイトなど一時的に労働に従事したがまた悪化して休んでももう傷病手当金は復活しない。退職後の給付は気をつける必要がある。

さて、平成29年12月30日から1年6ヶ月は傷病手当金は最大支給されますが、思いの外闘病が長引く事ももちろんあります。じゃあ傷病手当金以降の社会保障はどうするか? そこは障害年金の出番です。ごめんなさい、やっと本題です(笑)。

この男性は初診日が厚生年金加入中の平成29年12月18日ですよね。初診日が厚生年金加入中にあると障害厚生年金の支給対象になる。まず、初診日の前々月(平成29年10月)までに年金保険料を納めなければならない期間がある場合は3分の1を超えて未納がない事が条件ですが、20歳から年金保険料納付義務が生じて以来、学生納付特例免除28ヶ月と厚生年金期間115ヶ月でどこにも未納無し。よって問題無く請求可能。

※参考

初診日の属する月の前々月までの直近1年間に滞納が無ければそれでも可能

障害厚生年金請求が可能になるのは、初診日から1年6ヶ月経過した日(この日障害認定日という)である平成31年(2019年)6月18日以降。この日以降請求可能

躁鬱病の診断にて医師より診断書を交付され、障害厚生年金を請求。診断書は障害年金専用の診断書を用いる。日本年金機構より障害等級2級の結果になった(支給決定後は1~5年間隔で次回の等級を確認する為の障害年金更新の診断書提出をしなければならないが、この男性は2年後の平成31年12月の記載とする)。大体、請求してから初回支払いまでに3~4ヶ月はかかる。

で、いくら支給されるのか。まず、117ヶ月間の平均標準報酬額は35万円なので障害厚生年金は、(35万円÷1000×5.481×117ヶ月)÷117ヶ月×300ヶ月=575,505円。厚生年金期間が300ヶ月に満たない場合は300ヶ月で計算される。そして、65歳未満の生計維持している配偶者が居るから配偶者加給年金224,300円が障害厚生年金に加算。

次に障害等級2級以上だと国民年金から障害基礎年金779,300円と、18歳年度末未満の子が2人居るから、子の加算金224,300円×2人分が障害基礎年金に加算。よって、この男性に支給される障害年金総額は障害厚生年金2級575,505円+配偶者加給年金224,300円+障害基礎年金2級779,300円+子の加算金224,300円×2人=2,027,705円(月額168,975円)となる。

もし、この男性が退職後の失業期間中に初めて病院に行くと初診日が国民年金加入中になるので、支給されるとしたら障害基礎年金779,300円+子の加算金224,300円×2人分=1,227,900円(月額102,325円)だった。退職前に病院に行っておくか、会社に申し訳ないからと退職後に病院に行くとでは雲泥の差が出るわけですね^^;。だから、会社に在籍中に病院に行けるなら行っておいてもらいたいというのはそのため。

なお、毎回言ってはいますが、初診日というのは今行ってる病院の初診日ではなくその傷病で初めて病院に行った日が障害年金でいう初診日になる。今回の記事では転院無しの流れで書きましたが、転院している場合は最初の病院で初診日を証明してもらわないといけない。初診日の証明は主に受診状況等証明書を初診日のある病院に書いてもらう。初診日からずーっと同じ病院に通ってるならこういう初診証明は不要。

※追記

この男性は次回診断書提出は平成31年12月の誕生月(診断書提出は誕生月と決まってる)ですが、この時の診断書の結果により障害等級が3級に落ちた場合はどうなるのか。

障害厚生年金は3級まで年金がある。3級は障害厚生年金575,505円のみ(加給年金とか諸々停止)となりますが、最低保障584,500円に満たない場合は584,500円(月額48,708円)が支給。国民年金加入中に初診日があって、障害基礎年金のみ受給していた人は3級以下になると全額停止になる。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

無料メルマガ好評配信中

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座 』

【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け