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現役医師が警告。「騒音」は高血圧や心筋梗塞、脳梗塞も誘発する

大気や水だけではなく、「騒音」も現代人を悩ます深刻な環境汚染要因の1つであるようです。現役医師の徳田安春先生は自身のメルマガ『ドクター徳田安春の最新健康医学』で、騒音がもたらす人体へのさまざまな悪影響を紹介するとともに、その健康被害が最も深刻な米軍基地周辺の現状についても記しています。

騒音は汚染因子

通常、環境汚染というと大気汚染や土壌汚染、海水・淡水汚染を思い出すでしょう。でも最近、騒音も環境汚染要因として重要であることがわかってきました。騒音汚染です。英語ではノイズポルータントと呼びます。騒音はもともと難聴をきたすことが知られていましたが、睡眠障害や認知障害をきたすこともわかってきました。さらには、高血圧や脳血管障害心筋梗塞等の心血管疾患をきたすこともわかってきました。

細菌学における様々な発見でノーベル賞を受賞したロベルト・コッホは、1910年に述べていました。「将来の人類は、コレラやぺストと戦ったように、騒音と戦うことになるだろう」と。確かに、騒音は人々のコミニケーションを妨げ、良好な睡眠を阻害し、迷惑をもたらします。さらには、長期間の騒音への曝露は、心臓血管病のリスクとなることもわかったのです。コッホの予言は残念ながら正しかったようです。

様々な原因が騒音となります。最もひどい騒音を出すのは飛行機です。そして鉄道と自動車です。日常的にこれら空の騒音に曝露している人々はかなり多いことがわかっています。子供での騒音への曝露は知能発達の障害をきたすことがわかっています。世界保健機構の試算は、騒音による健康被害によってかなりの健康被害が出ていることを示しています。睡眠障害子供の知能発達障害騒音に関連する心臓血管病そして騒音による耳鳴りです。

騒音による体内への影響

騒音は体内の生理活動に2つの大きな影響を与えます。1つは交感神経の緊張、すなわち、血液中のアドレナリン濃度の上昇です。もう1つは下垂体と副腎皮質の刺激、すなわち、副腎皮質ホルモン濃度の上昇です。

進化を経た人間の体内では、アドレナリン上昇は急に起こったストレスに対抗するために獲得された反応です。獰猛な動物に出会った人間はすぐに逃げなければなりません。そのため、心拍数を増やして心拍出量を増加させ、全身の筋肉への血流を増やして、素早く逃げることができるようにするのです。副腎皮質ホルモンの上昇は、急性ストレスが起こった後の修復反応です。

しかしながら、これらのホルモンの作用により血圧は上がり、心拍数は増え、全身の血管は収縮します。これらにより心筋梗塞や脳梗塞脳出血などが起こりやすくなります。

夜間の騒音による高血圧

夜間の騒音は睡眠を妨げます。睡眠の質を下げ睡眠負債を増やします。夜間の騒音により、睡眠開始時刻は遅れ、覚醒時刻は早まります。睡眠の深さは浅くなり、途中覚醒が増えていきます。長期化することによって、日中の活動でのパフォーマンスは低下し心臓血管の機能も悪化します。

夜間の騒音に長期間曝露された人は高血圧のリスクが高くなります。通常、人間は夜になり睡眠を取ると、交感神経の活動が下がり、副交感神経優位となります。モーニング・ディップと呼ばれる、血圧が明け方には下がる現象があり、心臓血管系の機能をリセットする働きがあります。

様々な疫学研究により、睡眠中の騒音曝露と高血圧の発症にリンクがあることがわかってきました。睡眠中に窓を開けていたり寝室が大きな道路に面していたりするような場合に、高血圧の患者さんを数多く認めています。高血圧を持つ人は、ぜひ睡眠時の環境を一度見直してみてください。

米軍基地による騒音汚染

騒音がもたらす健康被害は軍事基地周辺が最も深刻となります。米軍嘉手納基地の航空機騒音による心筋梗塞や脳卒中で、毎年4人が死亡しているとの推計結果も出ています。また、騒音で心筋梗塞や脳血管障害に罹患している患者も毎年30人に上るとしている。

夜間騒音が原因で、軽度以上の睡眠障害に罹患している嘉手納飛行場周辺の住民は約1万人いるとも算出されています。過去の騒音による高血圧の住民は1,000人いると見積もられています。

騒音汚染の専門家である北海道大学の松井利仁教授は「戦後70年が経過したことを考慮すれば、単純計算で約300人の命が失われたことになる。大規模な公害病だ」と述べています。米軍嘉手納基地の周辺住民が起こした嘉手納基地爆音差し止め訴訟で、松井教授から上記の推計結果が提出されています。

私は医学部を卒業してから約15年間沖縄県立中部病院で診療していましたが、高血圧心筋梗塞や脳血管障害が中部地区の住民にかなり多いことに気づいてました。その原因の一部は本人の食事内容や運動不足による生活習慣の影響があるとは思います。

しかしながら、もしそれが米軍基地がもたらす騒音であるならば、これは患者の自己責任ではなく米軍と日本政府の責任になります。米軍と日本政府はその責任を認めて直ちに普天間基地と嘉手納基地を閉鎖すべきでしょう。

文献

Department of Culture and Environmental Affairs of Okinawa Prefectural Government: A Report on the Aircraft Noise as Public Health Problem in Okinawa.

 

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