先日の「コインチェック」のNEM流出事件で、一時は騒然となった仮想通貨取引市場。この件に関して無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者・梅本泰則さんは、「そもそも、楽して儲けたいという欲にまみれた利益は長続きしないと『論語』でも説かれている」と、厳しい言葉を投げかけています。
ビットコインと士魂商才
世間は、ビットコインの話題で盛り上がっています。中には、数十万円で買ったコインが、今や1億円になっている人もいるようです。昨年は1年間で価格が20倍になったと言います。異常ですよね。先日、ある経営者の集まりに参加した時も、若い経営者の何人かは、ビットコインで儲かったことを自慢していました。彼らは、欲望に吸い寄せられているようです。これも資本主義の産物なのでしょうか。
仮想通貨の出現は、もう十数年も前に、P・ドラッカーやA・トフラーが予言をしています。ですから、仮想通貨は社会が進歩をしている証拠です。しかし、ビットコインが今もたらしている現象は、ドラッカーたちが示した進歩とは、ちょっと違っています。
仮想通貨は、取引の方法を簡便にし、その結果社会を豊かにするというのが本来の目的です。決して、ギャンブルのように、利益を得る人がかたよる仕組みであってはいけません。今のビットコインのブームの根っこにあるのは「楽をして儲けたい」という、レベルの低い「欲」です。
「儲ける」ことは、悪いことではありません。しかし、大切なことは、どんな考えのもとに儲けるか、ということです。そんなことを教えてくれる人がいました。あなたも、学校で「渋沢栄一」について習ったでしょう。
渋沢栄一のこと
渋沢栄一は、明治から昭和にかけて大活躍をした実業家です。「日本近代化の父」と言われています。
渋沢は、江戸時代の終わりに、武蔵国(埼玉県)の豪農の家に生まれ、やがて幕臣となり明治維新を迎えました。明治政府では大蔵省に入省しましたが、その後退官して実業家としての道を選びます。
そして、第一国立銀行ほか、東京瓦斯、王子製紙、東急電鉄、秩父セメント、帝国ホテル、キリンビール、サッポロビール、東洋紡績、大日本製糖、明治製糖など、多種多様の企業の設立に関わり、その数は500以上に上ります。まさに、日本の基礎を作った人です。
その渋沢栄一が著わした有名な本に『論語と算盤』があります。ここに書かれていることが、ビジネスの心得であり、経営者の心得なのです。そして、論語に書かれていることは、商売をするうえで必要なことばかりだと渋沢は言います。少し不思議な考えのように思えますね。
ご存知のように、「論語」は江戸時代には官学となり、武士の教養の基本となっています。そこでは、武士は「利殖」を考えてはいけないとされるのが一般的です。そのように論語は解釈されたからです。
ところが渋沢は、論語にはそんなことは一切書かれていないと言い切ります。むしろ、正しい考え方で行えば、自然と富は増えるものだと論語は言っているというのです。武士道の教えを受けた人が言うのですから、すごいと思いませんか。
「論語と算盤」のはじめの方に、「士魂商才」という言葉が出てきます。まさに、ここに渋沢の考えが凝縮されているのです。
士魂商才とは
「士魂商才」をもう少し説明しますと、商売をするには、武士の魂をもって行うことが重要だ、という意味になります。では、武士の魂とはどういうものでしょうか。
新渡戸稲造は、その著書『武士道』の中で、こういっています。武士の本分は、「仁・義・礼・智・勇」であると。論語の教えの中にもあることです。
渋沢も同じことを言っています。「仁・義・礼・智・勇」に基づいた商売をすることが、商人(経営者)にとって必要だというわけです。『論語と算盤』は、そうした考え方で貫かれています。
そして、「儲ける」ことについても、考え方は明確です。このように書かれています。
「真正の利殖は、仁義道徳に基づかなければ、決して永続するものではない」
つまり、思いやりや正しい行いによって得られた利益でなければ、事業は長続きはしない、ということです。
また、こうも書かれています。
「道理をもった富貴でなければ、むしろ貧賤の方が良く、もし正しい道理を踏んで得た富貴ならば差支えない」
道理や徳による富の形成ならば、大いに結構だということです。さらに渋沢は、「自分の人生は忠恕一貫の思想をやり通した」と振り返っています。相手への思いやりと誠実な態度を貫いたということです。
まさに、経営者だけでなく人間のとるべき道ですね。実業家として成功を納めた人の言葉だからこそ説得力があります。ビットコインに振り回される人たちが聞いたら、どう思うのでしょう。
それはともかく、正しい道を歩んでこそお店も繁盛することを、この機会に渋沢栄一から学びたいと思います。
■今日のツボ■
- 儲けることは良いことだが、考え方が大切である。
- 「論語と算盤」には、正しい経営の道が示されている。
- 「士魂商才」こそ、経営者の目指す道である。
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