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イギリス政府がわざわざ新設した「孤独担当大臣」の悲しい現実

今年1月、イギリスのメイ首相は孤独に悩む国民を救うべく、新たに「孤独担当大臣」のポストを新設したことを発表しました。「孤独担当の大臣?」などと笑う向きもいるようですが、少子高齢化、貧困、孤独死と、問題山積の日本はむしろこのニュースで目を覚ますべきではないでしょうか。この問題について、今回の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で著者の嶌さんが考察しています。

「孤独省」を作った英国は?

イギリスのメイ首相が「孤独担当大臣」を新設した。内閣の中に孤独問題を担当する省庁を新設するという発想は、日本人にもハッとさせられる問題提起として受け止められたのではなかろうか。

イギリスの人口は約6,600万人だが、英国赤十字社によると「常に」、または「しばしば」孤独を感じている人が900万人以上いるという。人口の1割以上の人々が、人とのつながりが薄れ、心を閉ざして孤独になっているようだ。

孤独は長く勤めていた会社を辞めた時や離婚、友人を亡くした時などに始まりやすく、そのまま恒常化する傾向が強いらしい。親しく付き合う人がいなくなり、段々と偏屈になる可能性も強く、友人の多い人に比べると早死にする傾向が50%も高くなるという。

日本はこれまで共同体社会の特色を多く持ち、近所や親しい人の集まり、親戚の会合などでお互いに腹のうちをさらけ出す傾向をもっていた。また仲間内で助け合う習慣も強かったので、共同体社会から仲間はずれにならない限り、孤独を感ずることは比較的少なかった。日本ではどちらかというと、孤独より共同体社会になじめず仲間はずれに悩むケースが多くいったん仲間内になれば比較的居心地のよい生活を送れるようになる場合が多い。

イギリスでは、今後研究や調査、統計などを踏まえて孤独を無くす政策を検討することにしているが、イギリスにとって皮肉なことは、イギリス自身がEU(欧州連合)から離脱しヨーロッパで孤立しつつあることだろう。イギリスが正式にEUに“離婚”表明し通知したのは17年の3月で、6月から離婚交渉が始まっている。ただメイ英首相はEUとの交渉で厳しい状況に立たされ、イギリス国内で政権の求心力を低下させているのが実情だ。

特に今後、EUとの本格交渉に入り、イギリスが強味を持つ金融分野で有利な交渉を進めたいとしたが、イギリスの金融自由化は限定的だった。このためEUから離脱すると、これまでEU内で他国と平等に利用できた権利の再交渉を迫られるなど、二国間交渉FTA)に持ち込まれるといった問題も生じている。

イギリスとしてはEUルールの単一市場や関税同盟などの枠からは外れつつ、EU域内では自由にモノやおカネを動かせる権利は残しておきたいが、EU側はイギリスの都合のよい部分だけ確保する言い分に反発している。しかもEUとイギリスの交渉が長引けば世界の金融の中心地・ロンドンの地位も低落し引き揚げる国が出てくる懸念もある。

イギリス自身が欧州や世界から孤立しない方策を早急に立てないと、かつての大英帝国・イギリスが孤独な国になるかもしれない。

(財界 2018年2月13日号 第465回)

image by: Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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