ちょうど1ヶ月前の2月5日、佐賀県・神埼市で、陸上自衛隊・目達原駐屯地所属の戦闘ヘリ「AH-64Dアパッチ・ロングボウ」が点検飛行中に墜落し、パイロット2人が殉職した事故。本来ならば避けるべき民家に墜落機体が直撃したということもあり、日本中に大きな衝撃を与えました。この事故を受け、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、自身の発言を振り返りながら、日本政府の「防衛費」の使い方について疑問を呈しています。
中古品を活用する米国、新品にこだわる日本
5日夕刻に陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターAH-64Dアパッチ・ロングボウが墜落してパイロット2人が殉職して1ヶ月が経過しました。
機体に直撃された民家が全焼するなどの被害が出ましたが、その家にいた小学校5年生の女の子は危うく難を逃れ、軽い打撲傷で済んだのがせめてもの救いです。もちろん、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの面からのケアが必要で、防衛省・自衛隊を挙げて全面的にバックアップしなければならないことは、いうまでもありません。
この事故については、地上にいた車のドライブレコーダーの映像をテレビのニュースで見ただけで、民家を避けようにもできない突発的な事故だとわかりました。
事故直後の5日、私は次のようにツイートしました。
戦闘ヘリの墜落、ローター破断など突発的トラブルで制御不能になり住宅を避けられなかったのだろう。私の同期生・高橋謙三氏が三菱重工のテストパイロットとしてMH2000ヘリのテールローター破損に遭いながら、住宅を避けて不時着、本人は殉職したが同乗者は全員助かった。今回も可能なら避けただろう
そして6日の時事通信に次のコメントを出しました。
軍事アナリストの小川和久静岡県立大特任教授は『ブレードの金属破断やローターの取り付けが不十分だったのでは』と指摘する。エンジントラブルであれば、空気圧でローターを回しながらゆっくりと降下するオートローテーションという機能が働くためだ。今回の事故について『起きてはいけないことだが、軍用機に特異なことではない』と説明した。
ドライブレコーダーの映像では、目達原飛行場を離陸して7分後、水平飛行に移った直後のアパッチが、突然、機首を真下に向けて墜落したのです。しかも、落ちていく機体から回転翼のブレード(羽根)のようなものがちぎれて飛散しているのもわかりました。これは突発的に回転翼に重大なトラブルが発生したとしか思われない光景です。民家を避けたいと思いながら、どうしようもないまま亡くなった2人のパイロットの無念が思われてなりません。
回転翼が無事であれば、上記のコメントにあるように、エンジンが停止しても回転翼がパラシュートのような役割を果たすオートローテーション機能が働きます。中型機以下の機体ならオートローテーションでソフトに着陸できますし、回転翼の面を操作することで民家を避けて不時着することもできるのです。大型機の場合のオートローテーションでは、ハードランディングしかできませんから機体は壊れますが、民家を避けるような操作は可能です。
14日になると、4枚のローターブレードを固定しているローターヘッドが修理歴のある中古品だったと判明します。以下は佐賀新聞(15日)へのコメントです。
軍事アナリストで静岡県立大特任教授の小川和久氏は『中古部品だから悪いとは限らない。金属疲労などをきちんとチェックできていればいい。米国では軍が払い下げた20年もののヘリや部品を消防や警察が使っている』と話す。事故機は地上でローターを回し、ホバリング状態でチェックした後、駐屯地外に飛び立っており『整備ミスなら、ホバリングの時点で異常が出るはず。部品自体か、部品の検査段階に問題があったのでは』と推測する。
この佐賀新聞のコメントに、防衛費にとどまらない日本の税金の使い方についての私の考え方が出ています。
日本人はなんでも新品をほしがりますが、その割に装備品などの性能をとことん発揮させるような使い方をしないで、ぴかぴかの状態で売却したりする傾向が顕著です。
その点、納税者意識が高い米国の場合、消防、警察が軍の払い下げヘリを20年以上も使うことは普通です。
私が阪神・淡路大震災直後に調査したロサンゼルス市消防局の場合、最初に導入したガスタービンエンジンの中型ヘリUH-1Bは、米国陸軍がベトナムの戦場で使ったぼろぼろの機体2機を各500ドル(約5万円)で払い下げを受け、それを製造元のベル社で「共食い」あるいは「ニコイチ(2機を1機に組み立てる)」と呼ばれる手法で1機の機体に組み立て直し、5万ドル(約500万円)かけて飛べる状態にしたものでした。このヘリは、そのあと20年も空中消火などに活躍したのですから、航空機の寿命というものがわかろうというものです。
そんなわけで、中古品大いに結構。その分の予算で機材の数や人員増を図り、維持コストを捻出するというのが、「やり繰りのできている家計」のような健全な国家財政というものではないでしょうか。
家計に置きかえて眺めると、日本の納税者は、実は私もですが、甘い、無責任、丸投げ…と、一億総懺悔を求められそうな状態にあります。(小川和久)
image by: WikimediaCommons(Toshi Aoki)