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米朝の動きを伝える報道に疑問。安易な決めつけが事実を歪める

「米朝首脳会談」が大きな注目を集めていますが、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、米朝首脳会談の動きを伝えるマスコミ報道に疑問を呈した上で、実際に多くのマスコミが伝えている「米国側に北朝鮮の実務者がいない」という内容を伝えるとともに、その報道のどこが間違っているかについても詳述しています。

「米国側に実務者はいない」は本当か

米朝首脳会談の動きを伝えるマスコミ報道に接して、疑問を抱かざるを得ないことがあります。例えば、次のようなものです。

今後、会談の実現に向け北朝鮮との調整が進められるが、政権の中に北朝鮮との交渉にたけた人物がいないとの指摘もあり、実現までには、もうひと山ふた山ありそうだ。(9日の日本テレビNEWS24)

10日付毎日新聞夕刊も、「米側の実務者不在 米朝首脳会談 事前準備に不安」という見出しを掲げています。

このとらえ方でよいのでしょうか。より厳密に申し上げるなら、「北朝鮮との交渉にたけた人物は各政権にいたのです。しかし、その人々が失敗してきたことを忘れてはなりません。

2007年当時の交渉責任者だったクリストファー・ヒル氏、今月になって辞任したジョセフ・ユン政府特別代表(国務省北朝鮮担当)、次期駐韓国大使に名前が挙がりながら強硬路線に批判的なために指名されなかったビクター・チャ氏…。

それぞれが北朝鮮問題のエキスパートなのです。交渉した経験もあります。その人々が失敗してきた教訓に学ぶことこそ重要なのではないでしょうか。

特に北朝鮮のような国の場合、全てがトップダウンで決します。そのような相手との交渉は基本的にトップ同士で行わなければ成功は望めません。ビジネスマン出身のトランプ大統領が、金正恩朝鮮労働党委員長の「会談すれば大きな成果が期待できる」という提案に「会おう」と即答したのは、その意味では最初からかみ合った部分があるのです。

これからの米朝関係がトップ同士で進められるということになれば、やるべきことは決まっています。実務能力の高い国務省などのスタッフに加え、民間を含む北朝鮮問題の専門家を配置すればよいのです。

国務省のナウアート報道官は、民間の専門家の知見を求めることに関連して「国務省は世界中で職務に当たる7万5000人の人員を擁している」と、専門家の不在を指摘するマスコミの質問を一蹴していますが、その通りだと思います。

その傍証となるのは、10日付読売新聞夕刊の1面トップの「米『北と接触重ねた』 国務長官 会談 働きかけか」という動きです。

関連して、「トップ同士の会談が決裂すれば米国の武力行使につながる恐れがある」との見方も報じられていますが、ここでも逆の見方が必要ではないかと思います。

特に北朝鮮の場合、金正恩委員長は自分の言動が国家と体制の存亡を決めることになることを理解しているわけですから、トランプ大統領の表情に注意しながら慎重な発言を心がけることは間違いないところです。トランプ大統領もそれに応えるような態度を示すはずです。

となれば、間に実務者を挟んだ場合よりも戦争につながる危険性は少なくなる、という見方も可能となります。

いずれに転ぶのか、それは結果を待つしかないわけですが、マスコミは少し角度を変えるだけで違う風景が見えてくることに気づき、ステレオタイプの言い回しを避けるようになって欲しいと思います。(小川和久)

 

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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【著者】 小川和久 【月額】 初月無料!月額999円(税込) 【発行周期】 毎週 月・木曜日発行予定

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