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65歳前に貰える年金、受給を遅らせても増えないどころか大損も

65歳前から支給される老齢年金を「特別支給」と言いますが、この受け取りを遅らせることのメリット・デメリットはあるのでしょうか。無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさんが「まったく意味がないし、デメリットもある」とした上で、詳しく解説しています。

65歳前から貰える老齢の年金受給を遅らせても意味が無い。そもそも何で65歳前から年金が貰えるのか

僕はちょくちょく年金請求を遅らせると年金が増える事を記事にしてきましたが、ときどき「遅らせて年金増やそうとしてます!」っていう状況をお聞きすると65歳未満から貰える年金の事だったりするんですよね^^;。この65歳前から貰う年金をどれだけ遅らせようが年金が増える事はありません。例えば、62歳で年金の受給開始年齢に到達し、年間80万円の老齢厚生年金が貰えるようになった時この年金を貰うのを遅らせても増える事は全くありません。

仮に65歳まで貰うのを遅らせて請求したとしても、62歳から65歳まで貰わなかった年金が一時金(この人の場合は240万円)として払われるだけです。一時金で支払われますが、その年その年に支払うはずだった公的年金の雑所得になるため、各年分の源泉徴収票が送られてくる。一時所得にはならない。よって、何も得しない。逆に税金の申告をやり直したりという手間が増えたりしてしまう。だから、時間見つけて早く請求してくださいねって事をいつも促しています。

よく、定年後も継続雇用でまだ働いているし、「給料もらってたら年金貰えないんだし退職してから請求する」とか、「どうせ給料もらってたら年金が停止されるから請求を後にします」という方もいますが、それはお勧めしませんし意味もありません。

まず退職してから請求するというのをお勧めしないのは、年金請求から初回支払いまでに最低でも3ヶ月はかかってしまうからです。退職したから年金生活に入ろうとしても、請求したからといってすぐに年金は支払われないので無収入期間を生じさせてしまう危険がある。給料が高いから年金がその間は停止という事になっても、とりあえず年金請求を終わらせていれば退職した時に自動的に偶数月に年金が支給され始めます。

あと、給料が高くて年金が停止されるなら請求を後にするというのも意味がありません。結局年金をその当時の給料や賞与をもとに当時に遡って支給される年金額を支払うので、請求を後回しにしたからといって年金の停止を免れるわけではないです。だからさっさと請求して年金を貰ってしまいましょう。

ちなみに、年金には5年の時効があるので、仮に62歳から貰えるはずの年金を68歳で初請求をした場合は63歳までの年金までしか遡って貰えません。つまり62歳から63歳までの1年分の年金は時効で消滅してしまい、してしまいます。65歳前から貰える老齢厚生年金を遅らせて得する事は全くないですが、損する事はある。

なお、65歳前から貰える老齢年金は主に「特別支給の老齢厚生年金」といって65歳から貰う老齢厚生年金とは別物。65歳から貰う年金を「本来支給の老齢厚生年金」という。これが正式な年金支給の始まりであり、終身貰うもの。

65歳になると本来の年金を貰うからこの65歳到達月に再度年金請求書が送られてくるから、それで再度65歳誕生月末までに請求しないと65歳以降の年金が支給されずに一旦差し止めという形になってしまう。差し止められても請求したら65歳に遡って支給される(5年以内の時効分まで)。これが65歳からの本来の年金を貰うのを遅らせると年金が増えるっていう話なのでお気を付けくださいね^^;。

ちなみに、国民年金から支給される老齢基礎年金は、そもそも国民年金ができた昭和36年4月から支給開始年齢が65歳からだったから昭和60年改正で国民年金からの給付が老齢基礎年金と名を変えても65歳から支給するというのは変わってない。

なんで国民年金の支給は厚生年金や共済組合と違って元々から65歳支給なのかというと、主な国民年金加入者が定年の無い自営業者や農業従事者だったから。雇用者である厚生年金や共済組合加入者には55歳定年があったから(平成6年の高年齢者の雇用安定法で60歳未満の定年を禁止して60歳以上の雇用の努力義務を企業に課した)、それに合わせていた。

そしてなぜ65歳前から貰えている年金には、「特別支給」という名が老齢厚生年金の前についてるのかというと、もう65歳前支給の年金は昭和60年の法改正で既に終わってる年金だからです。昭和60年改正の時に厚生年金からの老齢厚生年金、共済組合からの退職共済年金、国民年金からの老齢基礎年金は65歳から支給します! って決まりましたが、当時は60歳支給がいきなり65歳支給になっちゃったら国民の生活が狂ってしまいますよね。だから徐々に支給開始年齢を引き上げながら、65歳までは特別支給として厚生年金や共済年金を支払いながら国民の生活への打撃を最小限にしているから、未だに65歳前からの年金支給開始年齢という人がまだまだたくさんいるわけです。まあ、昭和60年改正で年金は65歳から支給しますっていう事になりましたが、年金支給開始年齢の引き上げが決まったのは平成6年改正の時です。

そして実際の年金支給開始年齢の引き上げが始まったのは、男子が平成13年度からで女子が平成18年度から。なんで男子と女子で支給開始年齢が違うかというと、男子は昭和29年改正の時に昭和32年から昭和48年の16年かけて厚生年金支給開始年齢は60歳に引き上がりましたが、女子は昭和60年改正が行われるまではまだ55歳支給開始でした。

正式な支給開始年齢の引き上げである60歳から65歳に引き上げは、まだ反対で実行には移せなかったけどとりあえず女子の支給開始年齢を昭和62(1987)年から平成11(1999)年の12年間かけて60歳まで引き上げた。参考に共済組合も支給開始年齢を昭和60年から平成7年の10年間かけて60歳まで引き上げた。

本来の支給開始年齢の引き上げは平成6年に決定し、実際の引き上げ開始は男子が平成13年からでしたが、女子の支給開始年齢が60歳に引き上がり終わったのは平成11年でした。

で、またすぐに平成13年から引き上げとなると引き上げテンポが女子にとって速すぎるから、平成6年から女子の60歳支給開始年齢の引き上がりの終了する平成11年までの5年間分を遅らせたため、平成13年からではなく平成18年からの支給開始年齢引き上げとなった。だから男子と女子の厚生年金の支給開始年齢には5年の差がある。下記リンクの表のように徐々に引き上げ最中なんです。

厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)

なお、共済組合は男女とも昭和60年改正時点では当時は55歳支給開始年齢だったが、平成7年で60歳支給開始年齢完了となったため、男女とも平成13年からの支給開始年齢引き上げとなってるから男女差は無い

そもそも、少子高齢化が将来的に急激に進む見通しだから年金財政が逼迫する恐れがあるとして、当時の厚生省が年金の支給開始年齢の引き上げを60歳から65歳にしようとしたのは昭和55年改正の時。高齢化率が7%となり高齢化が本格化し始めた昭和45年に比べて、昭和55年は9%に上がりました。平均寿命も昭和30年あたりは男子63歳で女子が67歳あたりでしたが、昭和55年はもう男子は73歳で女子は78歳になっていた。年金給付が昭和50年代に入って本格化したことで、将来世代の保険料負担を過大にしないためにも年金支給開始年齢引き上げはどうしても避けられない問題だったんです。

でもまだ、昭和55年当時は定年が55歳という会社が多くて、労働組合からの反発が強くて、また、与党だった自民党も事実上反対したからできなかった。で、昭和60年改正と平成元年改正の時も時期尚早だと、支給開始年齢の引き上げが見送られてしまった。この支給開始年齢の引き上げの遅れが将来世代の負担増加の原因にもなっている。

だから、昭和55年改正の時に着手すべきだった支給開始年齢引き上げの事は実際の平成13年まで実に、20年も棚上げされてきてしまったんですね。支給開始年齢引き上げの事は、いきなり上げるのではなく10年20年かけて徐々に引き上げながら、その間雇用についても頑張りましょうって話だったのになんでも都合が悪い事は反対反対っていうのも考えものですね^^;。

支給開始年齢が完全に65歳に引き上がるのは、男子は平成37(2025)年で女子は平成42(2030)年。まだ当分先の話。それに伴い、再雇用とか継続雇用、定年撤廃が整備されてきてるわけですが…。

というわけで、まだまだ65歳前に支給開始年齢が訪れる人は今後もいらっしゃいますが、支給開始年齢が訪れたら速やかに請求してしまいましょう! 遅らせるだけ何の得にもなりません。65歳から本格的に支給するものを、「特別」に支給支給してるだけだから。

逆に請求を遅らせてしまう事で恐ろしい事態を招くこともありますが、長くなるのでここまで!

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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