3月18日、Uberの自動運転車がアリゾナ州で起こした歩行者死亡事故。その瞬間を捉えた映像も公開され、全世界に衝撃を与えました。世界的プログラマーの中島聡さんは今回、自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』でこの事故の2つの問題点を上げるとともに、「技術者としてもっとも興味があること」についても記しています。
私の目に止まった記事
● How a Self-Driving Uber Killed a Pedestrian in Arizona
自動車業界では、Uberの自動運転車が初の死亡事故を起こしたことが大きなニュースになりました。
自動運転がらみの死亡事故は、テスラが2016年に一度起こしていますが、そのケースでは、一義的な責任は運転手にあるレベル2(もしくは3)の自動運転であり、ハンドルを握るようにというシステムの警告を何度も無視して、運転手が映画を観ていたことが事故原因であり、テスラが責任を追うことはありませんでした。
今回は、それとは違い、レベル4の全自動運転のテスト中であり、万が一のためにドライバーが乗っていたとは言え、自動運転システムが初めての死亡事故を起こしてしまったことは、業界関係者にショックを与え、Uberだけでなく、他のメーカーは、今回の事故原因が解明されるまでは、公道でのテスト走行を見合わせているそうです。
警察により、事故当時のビデオが公開されていますが(上の記事上で見ることができます)、一点だけ明確なことは、死亡した被害者が、横断歩道のないところを、上半身に真っ黒な服を着て自転車で横切っており、もし人間が運転していても事故を避けられたかどうかは分からない点です。
ただし、二つほど問題点もあります。まず一つ目は、道路が真っ暗なのにも関わらず、ヘッドライトがハイビームになっていなかったこと。公開された映像を見る限り、人間の運転手であれば、当然ハイビームにしていただろう場所ですが、にも関わらず、なぜUberの自動運転車がハイビームにしていなかったのかは、調査の対象にすべきでしょう。
現場の明るさと、ヘッドライトに関しては、より詳しいレポート(Police chief said Uber victim “came from the shadows” – don’t believe it )もあるので、興味のある方はお読みください。
二つ目は、万が一の時に安全を確保するために運転席に座っていたドライバーが、たぶんスマートフォンの画面でも見ていたのか、よそ見をしていたこと。自動運転車の運転席に座るほど退屈な仕事はないとは思いますが、こんな事故を避けるために乗っていたのにも関わらず、よそ見をして、結果として、死亡事故を起こしてしまった責任を問われる可能性は高いと思います。
ちなみに、一部のメディアは、このドライバーが犯罪歴を持つ人だったことを騒ぎ立てていますが、それはちょっと「品のない報道」だと思います。よそ見と犯罪歴にはなんの因果関係もなく、こんな時に「なぜUberは犯罪歴のある人を雇ったのか」などと騒ぎ立てることは、社会にとって何にも良いことはないと私は思います。
技術者としてもっとも興味があるのが、カメラを補う役目を果たすべきLIDAR(自動運転車の屋根に取り付けられている、レーダーを使った空間スキャナー)が、なぜ自転車の存在を把握できなかったか、です。
LIDARは、1秒間に数回転から数十回転する鏡を使ってレーザービームを周りに照射して、物体までの距離を測定しますが、走査型であるが故に、ギャップもあるし、自転車の車輪のようなスカスカのものからはレーザーが反射されて来ないので、認識できない、という欠点もあります。LIDARがたまたま走査している高さが車輪の高さで、LIDARにも映らないままに自転車が近づいて来てしまった、という可能性も十分にあると思います。
ちなみに、自動運転業界では、この事故を起こした速度近辺(時速36マイル)が一番難しいことが知られています。十分に低速(例えば時速25キロ以下)であれば、急停車も可能だし、万が一の接触の際にも、被害は少なくて済みます。逆に、高速道路であれば、歩行者も自転車もいないし、見通しも良いので、自動運転処理は比較的容易なのです。急停車ができないぐらいのスピードで走っている時に、歩行者や自転車が目の前に飛び出してくるケースが、もっとも処理が難しいのです。
こういった事故は非常に痛ましいものだし、極力避けるべきですが、100%無くすことは出来ないし、開発中であれば尚更です。しかし、自動運転車はある時点で、必ず人間よりも安全になります。それが実現され、かつ、法律的にも社会的にも認められるようになるまでは、まだ数年かかると思います。それまでの間は、世界各地でテスト走行が行われ、事故が起こる度に大騒ぎになる、という事例が何度かあるだろうと思います。